上 下
61 / 96
2

五十九 日々、誘惑。

しおりを挟む

「そういや、連休あるじゃん。泊りでどこか遊びに行く?」

 吉永のセリフに、マグロ丼を食べていた箸を止めた。本日のデート飯は、寮の近くにある『おかざき』という定食屋である。近いと言っても十五分も歩くのだが。

 ちなみに俺がマグロ丼、吉永はマグロやまかけ丼だ。あら汁と小鉢が付いて九百五十円とお得感がある。

「それって――旅行って、こと?」

 多少の緊張感をもって、そう聞き返す。以前にも誘われたことはあるが、今は恋人同士だし、意味合いが変わる。ドキドキと、心臓が鳴った。

「んぁ? ああ、まあそんな大仰なもんでもないけど。どこか近場でさ。うまい飯食って、風呂でも入って」

「う、うん」

「お前、山の会では日帰り旅行行ってるけど、おれとは行ったことないだろ?」

「ああ、そうだな――何だかんだと」

「そうそう」

 吉永は気楽に考えているのか、頷きながらやまかけ丼を大口を開けて掻き込む。

(解ってんのかな。友達と旅行すんのとは違うんだぞ)

「宿とかどうすんの? 今からとれる?」

「ビジネスならとれるだろ。温泉は日帰りやってるとこ探して」

「まあ、そうなるよな……」

 本当は恋人と旅行デートなんだから、ちょっと良い宿に泊まりたい気もするが、急に決めたのだから仕方がない。まあ、寮の外でゆっくり過ごすチャンスだ。そちらの方が大事だろう。

「どこ行きたい? 近場だと箱根とか日光とか?」

「草津も良いよなぁ」

 具体的な地名が出てくると、現実感が沸いてくる。なんだか、旅行の相談をするのって、楽しいもんなんだな。

「何か旅行ガイドでも買う?」

「今はインスタよ」

 そう言って笑う吉永は、なんだか頼もしかった。



   ◆   ◆   ◆



「吉永は、家族旅行とかよく行ったって言ってたっけ」

「なんだ、覚えてたの?」

 柔らかい髪をタオルで拭きながら、吉永が振り返る。吉永は寝間着にしているTシャツに、下は下着姿という少し目に毒な恰好だ。あの脚をわざと晒しているのだとしたら、かなり小悪魔だと思う。まあ、多分そこまでは考えていない。単純に風呂上りだからだ。

「そりゃ、まあ――一応な」

「うちは家族仲良いからな」

「そうなんだ。兄弟とかいたっけ?」

 俺の言葉に、吉永が振り返ってジトっと見て来た。

「それは覚えてないんだな。前に言ったけどなあ」

 くっ。覚えてない。正直、吉永にそんなに興味なかったし。でも、今は違う。吉永のことは何でも知りたい。

「どう見える?」

「あー。上に兄弟居そう? 甘えんの上手だし」

「えー? おれが甘えるの、航平限定だけどな」

 そう言って、吉永はタオルを放り投げると、ベッドに寝そべりながら、スマホ片手に箱根のグルメ情報を探していた俺に這い寄り、チュッとキスしてくる。

 俺限定とか、可愛すぎ。

「吉永が兄貴なの?」

「ん。弟と妹いるよん」

「マジか」

 お兄ちゃんだったとは。驚いている間にも、吉永はチュッ、チュッとキスを繰り返す。堪らず、頭を引き寄せ、唇を舌で抉じ開けた。

「……髪、まだ濡れてるじゃん」

「ん、ぁ……ん、そのうち、乾く」

 くちゅ、ちゅ、と音を立てながら、唾液を絡め合う。舌先を擽り、唇を噛む。スマートフォンは既にベッドに放り投げた。

 風呂上がりの体温は、暖かい。吉永はまだ下着姿なので、かなり無防備である。

(まあ、これは良いってことだよな)

 そう判断して、下着越しに尻を揉む。柔らかく、弾力のある尻を揉みながら、キスを続けた。

「ん、ふ……んっ……」

 吉永の身体がびくびくと震える。肌が薔薇色に染まって、凄く愛らしく見えてしまう。下着をずらして、そっと指を割れ目に這わせる。ぴくんと反応する様子を見ながら、指先で入り口をトントンと叩く。

「さすがに、濡らさないと入らないか」

「っん……、ちょっと」

「ダメ?」

「じゃ、なくて……、下着、脱ぐから……」

 そう言いながら下着を脱ごうとしたのを、手を押さえて引き留める。

「なに?」

「このまましようよ」

「――このまま、って」

「だから、このまま」

 そう言って、下着をずらした状態で指先を穴に埋める。吉永が理解した顔をして、頬を赤くした。

「また、そういう……」

「良いだろ」

「AV観すぎ」

「VR持ってるやつに言われたくないね」

 文句を言い合いながら、俺たちは唇を重ね合った。

 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

アダルトショップでオナホになった俺

ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。 覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。 バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。 ※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)

sugar sugar honey! 甘くとろける恋をしよう

乃木のき
BL
母親の再婚によってあまーい名前になってしまった「佐藤蜜」は入学式の日、担任に「おいしそうだね」と言われてしまった。 周防獅子という負けず劣らずの名前を持つ担任は、ガタイに似合わず甘党でおっとりしていて、そばにいると心地がいい。 初恋もまだな蜜だけど周防と初めての経験を通して恋を知っていく。 (これが恋っていうものなのか?) 人を好きになる苦しさを知った時、蜜は大人の階段を上り始める。 ピュアな男子高生と先生の甘々ラブストーリー。 ※エブリスタにて『sugar sugar honey』のタイトルで掲載されていた作品です。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

処理中です...