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五十二 初デート
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ジャケットを着て鏡の前に立ち、これじゃないような気がしてジャケットを脱ぐ。吉永と出掛けるのに、衣服などこだわったことはなかったが、今日はデートなのだ。それも、ちゃんと付き合うようになってから、初めてのデートである。
「ジャケットは気張り過ぎな気がする……。パーカーはなんかな……」
悩みに悩んで、結局は無難にチェックのシャツを羽織った。持っているシャツの中では、良いブランドのそれなりに品の良いものだ。
準備を終えて、吉永を迎えに行く。途中、外出する寮生とすれ違いながら、吉永の部屋の前へとたどり着いた。
「おーい、吉永」
一応ノックをしてから、部屋の扉を開く。吉永は薄い黄色のフーディーを被ったところだった。明るい色合いが良く似合っている。
「あ、もうそんな時間? やばやば」
「慌てなくて良いぞ」
「待って、まだ靴下履いてない」
それは良い。靴下を履くところが見られるじゃないか。
ニコニコ顔でベッドに座ると、気配を察したのか、吉永は怪訝な顔をしてベッドの端で隠れるようにして靴下を履いてしまった。
ちぇ。見せてくれないらしい。まあ、良いけどさ。
(あとでじっくり脱がせてやるからな!)
そのあとは足でムフフだ。顔に出ないようにしながら、支度を待つ。足フェチだとバレてから、あまり隠さないようになってしまった。あまり表に出すと変態味が強くなってドン引きされてしまう。
「お待たせ」
「おう」
ベッドから立ち上がり、チラリと吉永の姿を見る。淡い黄色のフーディーにホワイトジーンズを合わせて、靴下はカナリーイエローだ。いつもより気を遣っている気配を感じて、じんと胸が疼く。可愛い。姿も可愛いが、そういうことをしてしまうところが可愛い。
(こんな一面、あったんだなぁ……)
吉永に可愛い一面があるのは解っていたけれど、最近はそれがより一層強くなったような気がする。俺は他人にも吉永にも無関心だったし、知る機会を逃していたと思う。吉永が俺より目線が少し低いことや、柑橘系が好きな事、バスケをやっていたこと、なにもかも、最近知ったばかりのことばかりだ。
「エキナカの電器屋でイヤホン見ようよ。不便でさ」
「おう。俺もそのうち機種変しないとダメかもな。ディスプレイだけで済んでるけど、基盤の方に水が回ることがあるって」
「うは。災難」
災難ではあるが、自業自得なので仕方がない。あの時、吉永に向き合っていなかったら、今はなかったかも知れないし。そう思えば、安いものだ。
先輩と後輩だった頃とは、確かに違う甘さを纏いながら、俺たちは初めてのデートへと繰り出した。
◆ ◆ ◆
「これ可愛いかも」
そう言って、吉永が丸みのあるデザインのイヤホンを手に取った。サードパーティーの品だがデザインが良い。カラーも六色展開しているようだ。
「良いじゃん。お手頃だし」
「だよな。これにしようかな。でもこっちも……」
吉永は候補を二つに絞ったようで、両方を見比べてうんうんと唸っている。性能よりもデザイン重視らしい。俺も音質なんかにこだわりはない。極端に悪くなければ、別に良いんじゃないかと言う感じだ。こういうガジェットが好きな人は、性能にもこだわりがあるんだろうが、俺はそこまでではない。
「これ良いんじゃね? レモンイエローの」
横から手を伸ばして、レモンイエローのイヤホンを手に取る。吉永にはこの色が似合うし、丁度今日のファッションにも良く合う。
「そう? じゃあこれにしようかな」
「俺が買うよ」
何かプレゼントしたくて、そう言って箱を受け取る。吉永は一瞬目を丸くして、それから頬を赤く染めた。
「じゃ、おれこっちのブルーの買うから、交換しよ?」
「それは――うん」
俺は必要なかったのだが、提案を断るほどの理由でもない。新調することに問題はないのだし。
(つまり、お揃いにしようってことだよな)
可愛いことをしてくれる。同じものをそれぞれ買って、交換してお揃いにするなんて、すごくカップルっぽい。密かにお揃いにするには、丁度良いアイテムでもある。
(めちゃくちゃ、キスしたい)
今すぐ抱きしめて、瞼にキスしたい。赤くなった頬にキスして、唇を奪いたい。
「航平?」
「あ。うん。ゴメン」
妄想して意識を飛ばしていたとは言えず、レジに並んで商品を購入した。ラッピングなんかはしていないが、これが互いに初めてのプレゼントになるのかもしれない。
「ほい」
「サンキュー」
笑顔で受け取る吉永に、胸がきゅうっと疼いた。絶対に、失くせないぞ。
「昼飯どうする?」
「もうそんな時間?」
時計を見ると、十一時を過ぎたところだった。昼には早いが、決めていないのだし丁度良いのかもしれない。
「混む前に入っちゃっても良いし」
「確かに」
デートだからと気合を入れたものの、俺と吉永とじゃ、女の子相手みたいなデート飯に行くのが想像出来なかった。パンケーキやフレンチトーストで腹を満たしたいという気持ちにはなれそうにない。
「おれ麺の気分だな。つけ麺。航平は?」
「あー、良いねつけ麺。食いたくなってきた」
オシャレじゃないけど、写真を撮るような綺麗なものは出てこないけど。
俺と吉永は、それで良いのかもしれない。
「ジャケットは気張り過ぎな気がする……。パーカーはなんかな……」
悩みに悩んで、結局は無難にチェックのシャツを羽織った。持っているシャツの中では、良いブランドのそれなりに品の良いものだ。
準備を終えて、吉永を迎えに行く。途中、外出する寮生とすれ違いながら、吉永の部屋の前へとたどり着いた。
「おーい、吉永」
一応ノックをしてから、部屋の扉を開く。吉永は薄い黄色のフーディーを被ったところだった。明るい色合いが良く似合っている。
「あ、もうそんな時間? やばやば」
「慌てなくて良いぞ」
「待って、まだ靴下履いてない」
それは良い。靴下を履くところが見られるじゃないか。
ニコニコ顔でベッドに座ると、気配を察したのか、吉永は怪訝な顔をしてベッドの端で隠れるようにして靴下を履いてしまった。
ちぇ。見せてくれないらしい。まあ、良いけどさ。
(あとでじっくり脱がせてやるからな!)
そのあとは足でムフフだ。顔に出ないようにしながら、支度を待つ。足フェチだとバレてから、あまり隠さないようになってしまった。あまり表に出すと変態味が強くなってドン引きされてしまう。
「お待たせ」
「おう」
ベッドから立ち上がり、チラリと吉永の姿を見る。淡い黄色のフーディーにホワイトジーンズを合わせて、靴下はカナリーイエローだ。いつもより気を遣っている気配を感じて、じんと胸が疼く。可愛い。姿も可愛いが、そういうことをしてしまうところが可愛い。
(こんな一面、あったんだなぁ……)
吉永に可愛い一面があるのは解っていたけれど、最近はそれがより一層強くなったような気がする。俺は他人にも吉永にも無関心だったし、知る機会を逃していたと思う。吉永が俺より目線が少し低いことや、柑橘系が好きな事、バスケをやっていたこと、なにもかも、最近知ったばかりのことばかりだ。
「エキナカの電器屋でイヤホン見ようよ。不便でさ」
「おう。俺もそのうち機種変しないとダメかもな。ディスプレイだけで済んでるけど、基盤の方に水が回ることがあるって」
「うは。災難」
災難ではあるが、自業自得なので仕方がない。あの時、吉永に向き合っていなかったら、今はなかったかも知れないし。そう思えば、安いものだ。
先輩と後輩だった頃とは、確かに違う甘さを纏いながら、俺たちは初めてのデートへと繰り出した。
◆ ◆ ◆
「これ可愛いかも」
そう言って、吉永が丸みのあるデザインのイヤホンを手に取った。サードパーティーの品だがデザインが良い。カラーも六色展開しているようだ。
「良いじゃん。お手頃だし」
「だよな。これにしようかな。でもこっちも……」
吉永は候補を二つに絞ったようで、両方を見比べてうんうんと唸っている。性能よりもデザイン重視らしい。俺も音質なんかにこだわりはない。極端に悪くなければ、別に良いんじゃないかと言う感じだ。こういうガジェットが好きな人は、性能にもこだわりがあるんだろうが、俺はそこまでではない。
「これ良いんじゃね? レモンイエローの」
横から手を伸ばして、レモンイエローのイヤホンを手に取る。吉永にはこの色が似合うし、丁度今日のファッションにも良く合う。
「そう? じゃあこれにしようかな」
「俺が買うよ」
何かプレゼントしたくて、そう言って箱を受け取る。吉永は一瞬目を丸くして、それから頬を赤く染めた。
「じゃ、おれこっちのブルーの買うから、交換しよ?」
「それは――うん」
俺は必要なかったのだが、提案を断るほどの理由でもない。新調することに問題はないのだし。
(つまり、お揃いにしようってことだよな)
可愛いことをしてくれる。同じものをそれぞれ買って、交換してお揃いにするなんて、すごくカップルっぽい。密かにお揃いにするには、丁度良いアイテムでもある。
(めちゃくちゃ、キスしたい)
今すぐ抱きしめて、瞼にキスしたい。赤くなった頬にキスして、唇を奪いたい。
「航平?」
「あ。うん。ゴメン」
妄想して意識を飛ばしていたとは言えず、レジに並んで商品を購入した。ラッピングなんかはしていないが、これが互いに初めてのプレゼントになるのかもしれない。
「ほい」
「サンキュー」
笑顔で受け取る吉永に、胸がきゅうっと疼いた。絶対に、失くせないぞ。
「昼飯どうする?」
「もうそんな時間?」
時計を見ると、十一時を過ぎたところだった。昼には早いが、決めていないのだし丁度良いのかもしれない。
「混む前に入っちゃっても良いし」
「確かに」
デートだからと気合を入れたものの、俺と吉永とじゃ、女の子相手みたいなデート飯に行くのが想像出来なかった。パンケーキやフレンチトーストで腹を満たしたいという気持ちにはなれそうにない。
「おれ麺の気分だな。つけ麺。航平は?」
「あー、良いねつけ麺。食いたくなってきた」
オシャレじゃないけど、写真を撮るような綺麗なものは出てこないけど。
俺と吉永は、それで良いのかもしれない。
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