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幕間2 404 not found.
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遠くから俯瞰していると、見えてくるものがある。例えば、夕暮れ寮の高嶺の花と呼ばれていた、上遠野悠生が実はアイドルオタクだとか、昨年から星嶋芳と付き合ってるとか。営業部の渡瀬歩が裏アカ作って遊びまくってたとか、今じゃ同郷の押鴨良輔と良い感じだとか。中途入寮した隠岐聡が隠れてバーチャルストリーマーをやっていて、そのサポートを恋人の榎井飛鳥がやっているとか、料理部の田中実を韓国人男子のイ・ミンジェが狙っていることとか、花鳥風月とか呼ばれている立花、羽鳥、月島と須藤雅は大分乱れた関係を持っているだとか。オタク腐男子の鈴木が、アイドルみたいな栗原風馬とくっついたときは驚いた。あとは元、暴走族の鮎川が俺の部屋の隣の住人である岩崎に手を出したらしい――とか。
夕暮れ寮の様々なスキャンダルが、俺の場所からはよく見える。
俺の名前は|須木透《すきとおる
》。名付けた親のセンスがなかったせいか、俺は存在感がない、透明人間みたいな人間になった。
レジで並んでいても気づかれず、お店で注文しようと店員を呼んでも気づかれない。寮内では俺の存在を気づいている人が殆ど居ないらしく、俺の部屋、404号室は回覧板が飛ばされる。ステルス属性の陰キャ男子。それが、俺である。
腐男子で寮内観察が趣味だという鈴木に、言ってみたいもんだ。俺の方が良く見てると。なんなら、目の前でラブシーンが始まったこともあると。
誰も居ないと思っている廊下とか、シャワー室とか。俺はちゃんと居るのである。やめていただきたい。
とはいえ、俺もすっかり慣れたというか、感化されたというか。
もはやBがLしてようが、イチャイチャしていようが、何も思わない。お好きにどうぞの精神である。
(表裏の激しい女子より、マシなこともあるからなー……)
すべての女がそうではないが、存在感がないせいで、女性の裏の顔も多分に知っている俺である。女子の悪口やら勝手な噂話を横で聴きながら、生活していると、それならさっぱりと男同士も良いんじゃないかと思えてくる。
まあ、陰湿な男も多いがな。(男のイジメもかなり陰湿だ)
「さーて、今日も一日、ご苦労さんと」
独り言を言っても気づかれないので、俺は独り言が多い。一日の疲れを風呂で癒し、あとは寝るだけだ。ちなみに共有スペースでテレビを視ていると、誰も居ないのにテレビが着いていると、消されることがあるぞ。(理不尽)
鼻唄を歌いながら部屋に入り、髪を適当に乾かしたら、明かりを消してベッドに潜り込む。布団を被ってスマートフォンで動画を視るのが日課だ。そのうち寝落ちするまでがセットである。
お気に入りの動画を視ながら、うとうとしてくる。目蓋が何度か閉じて、スマートフォンを握る手が緩み、手から滑り落ちる。
「う、……ん……」
そうやって、寝入った頃だった。
カラカラと、どこからか窓を開く音がするのを、意識の遠いところで耳にする。
人の気配がした気がしたが、眠気が勝って起きる気力が沸き上がらない。
そして――。
「風馬ーっ!!」
ガバッとひとの布団の上にのし掛かりながら、男が勢い良く抱きついてきた。
「っ!!?」
「風馬、驚いた? 今日、急にスケジュール空いて――」
男と、布団から這い出た俺の目が合う。
「栗原風馬の部屋は一階下の304号室です」
俺の説明に、男は笑顔のまま固まった。
栗原亜嵐――栗原風馬の双子の兄で、『ユムノス』というグループに所属しているアイドルだ。キラキラしたイケメンの顔に、眠気が吹き飛ぶ。
「あ、あ、あ」
間違いに気づいたらしく、亜嵐は顔を真っ赤にして、パクパクと口を動かした。どうやら、非常階段になっている外階段から、部屋の中へと侵入したらしい。本当は弟の風馬の部屋に侵入したかったようだが、一階分間違ったようだ。寮生は使う手段だが、外部の人間がやると話が変わってくる。
「あと不法侵入です」
「すみませんでしたああああ!!!」
これが、透明人間みたいな俺と、国民的アイドル栗原亜嵐の、最初の出会いだった。
夕暮れ寮の様々なスキャンダルが、俺の場所からはよく見える。
俺の名前は|須木透《すきとおる
》。名付けた親のセンスがなかったせいか、俺は存在感がない、透明人間みたいな人間になった。
レジで並んでいても気づかれず、お店で注文しようと店員を呼んでも気づかれない。寮内では俺の存在を気づいている人が殆ど居ないらしく、俺の部屋、404号室は回覧板が飛ばされる。ステルス属性の陰キャ男子。それが、俺である。
腐男子で寮内観察が趣味だという鈴木に、言ってみたいもんだ。俺の方が良く見てると。なんなら、目の前でラブシーンが始まったこともあると。
誰も居ないと思っている廊下とか、シャワー室とか。俺はちゃんと居るのである。やめていただきたい。
とはいえ、俺もすっかり慣れたというか、感化されたというか。
もはやBがLしてようが、イチャイチャしていようが、何も思わない。お好きにどうぞの精神である。
(表裏の激しい女子より、マシなこともあるからなー……)
すべての女がそうではないが、存在感がないせいで、女性の裏の顔も多分に知っている俺である。女子の悪口やら勝手な噂話を横で聴きながら、生活していると、それならさっぱりと男同士も良いんじゃないかと思えてくる。
まあ、陰湿な男も多いがな。(男のイジメもかなり陰湿だ)
「さーて、今日も一日、ご苦労さんと」
独り言を言っても気づかれないので、俺は独り言が多い。一日の疲れを風呂で癒し、あとは寝るだけだ。ちなみに共有スペースでテレビを視ていると、誰も居ないのにテレビが着いていると、消されることがあるぞ。(理不尽)
鼻唄を歌いながら部屋に入り、髪を適当に乾かしたら、明かりを消してベッドに潜り込む。布団を被ってスマートフォンで動画を視るのが日課だ。そのうち寝落ちするまでがセットである。
お気に入りの動画を視ながら、うとうとしてくる。目蓋が何度か閉じて、スマートフォンを握る手が緩み、手から滑り落ちる。
「う、……ん……」
そうやって、寝入った頃だった。
カラカラと、どこからか窓を開く音がするのを、意識の遠いところで耳にする。
人の気配がした気がしたが、眠気が勝って起きる気力が沸き上がらない。
そして――。
「風馬ーっ!!」
ガバッとひとの布団の上にのし掛かりながら、男が勢い良く抱きついてきた。
「っ!!?」
「風馬、驚いた? 今日、急にスケジュール空いて――」
男と、布団から這い出た俺の目が合う。
「栗原風馬の部屋は一階下の304号室です」
俺の説明に、男は笑顔のまま固まった。
栗原亜嵐――栗原風馬の双子の兄で、『ユムノス』というグループに所属しているアイドルだ。キラキラしたイケメンの顔に、眠気が吹き飛ぶ。
「あ、あ、あ」
間違いに気づいたらしく、亜嵐は顔を真っ赤にして、パクパクと口を動かした。どうやら、非常階段になっている外階段から、部屋の中へと侵入したらしい。本当は弟の風馬の部屋に侵入したかったようだが、一階分間違ったようだ。寮生は使う手段だが、外部の人間がやると話が変わってくる。
「あと不法侵入です」
「すみませんでしたああああ!!!」
これが、透明人間みたいな俺と、国民的アイドル栗原亜嵐の、最初の出会いだった。
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