先輩いい加減にしてくださいっ!~意地っ張りな後輩は、エッチな先輩の魅力に負けてます~

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO

文字の大きさ
上 下
48 / 96

幕間1 今さら嘘とは言いにくい

しおりを挟む

 夕日コーポレーションが運営する独身男子寮、夕暮れ寮。寮としては綺麗だし、設備も悪くないので良い寮だと言えるが、いかんせん娯楽がない。コンビニは遠いし、スーパーはもっと遠い。カラオケなんかないし、ボウリングも大通りまで出ないとない。とにかく、何もない。

 オレ、蓮田陽介はすだようすけはそんな夕暮れ寮において、同僚であり親友でもある大津晃おおつあきらと、バカばっかりやっている。理由は簡単。娯楽がないから。

 最初は、晃宛に大量のピザを注文したり、仕返しに牛丼を死ぬほどプレゼントされたり、そういうイタズラが多かったオレたちだが、ある日を堺に趣向を変え、最近じゃ蕎麦屋をやったりしている。というのも発端は、晃のバカが、『部屋の扉を開けたら、南国リゾート』にしてくれたお陰だ。いつの間にやったのか、オレの部屋を魔改造して、部屋の中に砂浜を再現し、ホームセンターで買って来たらしいビーチパラソルにビーチボール、ハイビスカスの鉢植えにリゾートで有りそうな椅子なんかが置かれていた。砂浜にはヤドカリがいるという徹底っぷりだ。正直、イカれてる。

 でもまあ、そう言うノリは嫌いじゃないし、楽しかったけど、後片付けが容易じゃなかった。寮長に怒られたし。

 で、それ以降は二人で実践して、同期の久我航平くがこうへい宮脇陸みやわきりくを始めとした、寮のみんなを呼んで遊べる施設を提供し始めたのだ。バーとか、焼き鳥やとか、ピザ屋とか蕎麦屋とか、色々。

 そんな感じに部屋を使っているもんで、オレの部屋は大抵遊びに使って、晃の部屋で過ごしている。

 ちなみに、ヤドカリはペットとして飼っている。寮内はペット禁止だけど、捨てヤドカリにするわけにも行かず、寮長も許してくれたのだ。

「次はなにするよ? 晃」

 ヤドカリのヤッくんに餌をやりながら、ベッドに寝転がっているはずの晃に声をかける。

「チョコバナナはやっちゃったし、テキ屋繋がりでヤキソバとか、お好み焼きとか」

 あ。わたあめも面白そう。確かオモチャのわたあめ製造器って売ってるし。

 そう思って問いかけるが、返事がない。不審に思って振り返ると、晃はベッドに突っ伏して眠っていた。

「ありゃりゃ」

 ぐー、とイビキをかいて眠る晃の顔を覗くと、真っ赤だった。今日は部の飲み会で、先輩にだいぶ飲まされたらしい。ちょっとやそっとのことじゃ、起きそうにない。

「おーい。風呂入れよー。オレもベッド使うんだぞ」

 オレの部屋が遊び部屋兼物置と化して以来、晃と一緒に寝ている。狭いベッドで寝る以上、マナーとしてシャワーを浴びずに寝るのはNGとしているのだが、揺さぶっても叩いても、起きそうにない。

「はぁ~~~? いい加減にしろよなっ」

 ぺしっと頭を叩くが、晃はうんともすんとも言わなかった。元々、酒が強い方じゃない。帰ってきただけマシなのかも知れない。

「ったく……。せめてスーツくらい脱がすか……」

 スーツがシワになるし、邪魔だから脱がせてしまおう。ジャケットを剥がし、スラックスを引っこ抜いたところで、ふとイタズラ心に火が着いた。

(お。我ながら、笑えるイタズラじゃん?)

 起きたら、どんな反応をするのか。そう思うと自然に笑いが込み上げる。

「くっくっく……。何しても起きないんだもんなあ?」

 シャツを脱がせ、ついでにパンツと靴下も脱がせ、床に放り投げる。素っ裸になった晃の姿をゲラゲラ笑いながら、布団を被せた。

「これで良し。あとは……」

 今度は、自分で着ていたTシャツとスエットパンツを脱ぎ捨て、オレも丸裸になる。

「くはは。驚け晃ー」

 ベッドに潜り込み、寝ている晃の隣に横たわる。身体が触ると変な感じになりそうだから、ギリギリ触れないようにして、明かりを消した。

(うむ。これで明日の朝、ビックリするが良い)

 悪趣味だとか、最悪だとか、そう言って大騒ぎする晃を想像しながら、オレは夢の中に入り込んだ。



   ◆   ◆   ◆



「んー……。む、ん……晃ぁ……、次、なにすん……」

 寝ぼけながら隣に寝ていた晃にしがみついて、素肌の感触にビックリして飛び起きた。

「うわっ!?」

「っ!!」

 一瞬、何事か解らなかったが、寝入る前にイタズラしたのだと思い出す。

(あ、そうだ。裸で寝たんだっけ)

 悪趣味なドッキリをするために、けしかけたのだと思い出し、あくびをしながら起き上がる。どうやら、晃も起きたようだ。

「ふぁ、おはよ」

「―――」

 晃の反応はどうだろうと、眼を擦りながら起き上がる。

 晃は絶句して、オレと自分の姿を交互で見た。ニヤニヤしてしまいそうなのを堪え、様子を見守る。

「――よ、陽介。俺」

「んー」

 ああ、笑ってしまう。すごく動揺してる。

「あ―――」

 ネタばらししようと、口を開きかけた、その時。

「すっ、すまんっ!」

 ベッドの上で、真っ裸の晃が土下座した。

「お、おう?」

「ご、ごめん、身体、大丈夫かっ?」

 心配そうに顔を覗き込む晃に、つい「おう」と返事をする。いつになく真剣で、ちょっとドキリとしてしまった。

「責任、とるから」

「は?」

 責任? 何を言ってるんだ?

 戸惑うオレに、晃が真剣な顔をする。

「大切にする」

 ぐい。腕の中に捕らわれ、抱き締められる。素肌の生々しい感触に、ボッと顔が熱くなる。

「おっ、ちょ、おまっ……!」

 裸で抱き合うとは思ってもおらず、混乱して暴れるが、晃はぎゅうっと腕に力を込めて、離してくれそうにない。

(それに、責任とるとか、幸せにするとかっ……)

 何を言い出すんだ。昭和の男じゃあるまいし。

(まさか――)

 からかわれている?

 そんな考えが、頭を過る。もしかしたら、イタズラしてやるつもりで、イタズラされているんだろうか。オレのイタズラに意趣返しで、わざとそんなことを言っているのだとしたら。

「あっ、あのなあ。そんなのに、オレが引っ掛かると思ってんのか?」

「俺がふざけているように見えるのか? 陽介、俺は、本気だぞ」

「――っ」

 真剣な眼差しに、カァと頬が熱くなる。

 何を言ってるんだよ。本当に。

(だいたい、これはイタズラであって、オレと晃の間には何も――)

「あ、あのな、別に、そんなマジにならなくても……」

 説明しようとして、しどろもどろになる。くそ。落ち着けオレ。

「俺は普段はふざけてるけど、こんなことでふざけたりしないぞ」

「うぐ。いや、そのぉ……」

 おいおい。なんか言い出しづらい空気にするなよ。オレは悪ふざけでやってるのに。

 晃の手が、頬に触れる。暖かくて、大きな手のひらに、ドクンと胸が高鳴った。

(いやいやいやいや。なんだよ『ドクン』って! なにちょっとキュンとしてんだオレ!)

「陽介……」

「うぇ?」

 晃の唇が近づいて来るのが解っていたのに、押し返せなかった。柔らかい唇が押し当てられ、ぞく、と背筋が粟立つ。

「っ、ん」

 ビクッと肩を揺らすオレに、晃は触れただけで身体を離した。

 唇に残った感触に、真っ赤になって口許を押さえる。

「~~~~っ!」

 マジで、キス、しやがった。

(う。マジで、言ってんのか)

「こんな始まりで悪い。でも、本気で大事にするからな」

「っ、この、バカっ……!」

 くそ真面目に返す晃に、今さら嘘だとは言いにくく、オレは黙り込むしかなかったのだった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...