上 下
28 / 96

二十八 いつまで

しおりを挟む

(くそ。結局、延長分俺が払うハメになったし……)

 しっかり延長してしまった。まあ、楽しんだわけだし、良いんだけどさ。

「そっち焼けたぞ」

「おー」

 ホテルから出て、腹が減ったと吉永が言うので、焼肉チェーンに入った。あれだけ体力を使ったのだから、肉を食いたくなるというものだ。目の前で肉を焼いている姿は、いつもの『寮の先輩』の顔だ。先ほどまでのエロい吉永ではない。

(楽しかった……楽しかったんだけど)

 横に置いた鞄が気になる。スマートフォンに返事が来ているかもしれないと思っていると言うよりも、現状俺の胸の内を占める、謎の罪悪感のせいだ。別に悪いことをしているわけじゃない。なのに、なんだろうか。この得体の知れない居心地の悪さは。

(参ったな……)

 吉永とは、遊びの延長のはずだ。セフレにもマナーはあるだろうが、その一線を越えたつもりはない。肉を頬張りつつ、どこか集中できずにいた。

「まあ、とにかくこれで登山の準備は整ったじゃん」

「おう。億劫っちゃ億劫だけど、楽しみでもあるな」

 適当に相槌を打ちながら、肉をトングで網の上に並べる。吉永はレモンサワーをちびちび啜りながら、少しだけウトウトしていた。多分、疲れたんだろう。

「結局、一日中遊んだな」

「だな。まあ、門限がなきゃな……」

 門限がなけりゃ宿泊も――。いや、十分楽しんだか。うん。

「泊りでどっか行く?」

「――っ」

 吉永の言葉に、思わずトングから肉がポトリと落ちた。慌てて拾い上げ、網の上に載せる。

「ああ――いい、かもね」

 ドクドクと、心臓が鳴った。泊りがけで遊びに行くのなんか、別におかしくない。先輩後輩で旅行とか、普通じゃないか。温泉とか、そう言うヤツ。

(温泉でゆっくりして、一晩中シて)

 温泉で火照った吉永の肌を想像して、ぐっとこみ上げるものを呑み込む。浴衣から伸びる形の良い脚。はだけた胸。想像して、血圧が上昇したのを感じた。

「ん、ん。まあ、温泉とか、良いよな」

「だよな。箱根とか熱海とかどうよ。まあ、房総でも良いけどさ。どうせなら」

「あー。俺詳しくねえ」

「家族旅行とかは行かなかった?」

「……うちはそう言うのは、行かなかったな」

 かなり幼いころは、行ったのかも知れない。けれど六つ年上の兄が受験になってから、行かなくなったはずだ。兄は――吉永と同じ歳だが、まるで違う。兄とは、あまり仲が良くない。お互いに干渉してこなかった。

「そうなんだ。うちは、あちこち行ったな。親が好きでさ。関東なら日光とか草津、伊香保なんかも良いよな。ちょっと足伸ばして岐阜の方でも良いし。いっそ北海道とかでも良いけど」

「北海道行きてー」

 楽しそうな話ばかりされ、つい気持ちがそちらに向く。俺は半分くらいはノリと冗談のつもりだったが、吉永は本気に見えた。その様子に、内心ドギマギしてくる。

(旅行は楽しいけど、なんかそれ、どうなんだろう)

 吉永と旅行。この話には、第三者は存在しない。俺も誰かを誘おうとは思えないけれど、吉永だって俺と二人で行くつもりだろう。当然、セックスもする。そういう前提で、話が進んでいる。

 河井さんとのやり取りが、頭を過る。彼女の存在が、俺を冷静にさせた。

(俺――これ、いつまで続ける気だ)

 ドクドクと、心臓が鳴る。こんなことを考えてしまった時点で、吉永に対しての裏切りのような気持ちを抱いたと、罪悪感が募る。

 俺は寮を今年中に出るつもりで、彼女を作るつもりで、河井さんを狙ってて。

 もし、彼女と。河井さんと付き合うことになったら、吉永はどうなるんだろうか。吉永とのセックスが好きだ。吉永の脚が好きだ。俺がしたいことをさせてくれる。脳みそが溶けそうなセックスばかりさせてくれる。けど、吉永は男だ。

 普通に考えたら、俺は彼女を作って、寮を出て、同棲して、いずれ結婚する。結婚したら子供を作って、親になって、そういう人生を歩つもりだったし、今でもそれ以外の人生があることを想像出来ない。

 俺は女の子を抱きながら、吉永とも寝るような最低なヤツになりかけている。そう、気づいた。

(ヤバイな……)

 吉永が肉を口に入れる。伸ばされた舌を見て、エロいと感じる。

 距離を、置くべきだ。潮時なのだ。

 本能で、それを理解した。

(――吉永……)

 けど。

 あの身体を、唇を。

 どうやって忘れられようか。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

アダルトショップでオナホになった俺

ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。 覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。 バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。 ※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

処理中です...