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八 いつも通り
しおりを挟む結局四回した。
(ダルっ……)
うたた寝から目覚めて、身体の重さにうんざりする。酷く怠い理由は、久し振りにハッスルしたからだ。
溜め息を吐き出して寝返りを打つ。シーツの感触が素肌に心地良い。横を見れば同じく裸のまま、吉永が寝息を立てていた。
「……」
心臓がドクンと跳ねた。昨日までの吉永と、今日の吉永では、別人にすら思える。世界が変わってしまった。
(いやいや、ナイナイ)
一度寝たくらいで、気持ちが変わってなるものか。吉永だって俺をバイブ代わりに使ったのだ。俺だって、吉永はオナホだった。それだけだ。
これまでだって、吉永に悪い遊びを教えられてきた。今回だってその一貫だ。何か言われても「まあ、悪くなかったんじゃない?」と、余裕で返してやれば良いのだ。
(部屋、戻らないと……)
部屋に戻って着替えて、シャワーも浴びたい。ベッドから降りると、揺れたのか吉永が小さく呻いた。
「ん……」
思わず、振り返る。
なんとなく、起きる前に出ていきたくて、そっと扉を開き、外に出る。ずっと息を止めていたことに、しばらく歩いて気がついた。
バクバクと、心臓が鳴る。どうやら、大分緊張感していたようだ。
(何で俺が逃げたみたいになってんだ……)
そう想いながら、どこか胸の奥に残る後ろめたさは、男同士でセックスをしてしまったことが理由だろうか。
後悔しているわけじゃない。けれど、「気持ち良かった」だけで済むような単純な感情では、なかった。
◆ ◆ ◆
「めっちゃ腰痛いんだけど」
「……」
スプーンを咥えながら眉を寄せて、吉永が不満そうな顔をする。今日の食堂のメニューはカレーだ。俺は唐揚げをトッピング。吉永はうどんも付けている。
(何のアピールだよ)
腰痛の原因を知っている身としては、吉永が何を言いたいのかが解らず、困ったところだ。そりゃあ、あんだけヤったら、腰も痛くなるだろうよ。
(俺は悪くない)
謝罪する気はないので、「へー」と相づちを打つに留める。吉永がじとっとした目で俺を見た。
「今日は仕事中も腰痛で大変だったのに」
「何が言いたい」
「別にぃ?」
「……」
本当に「別に何とも思っていない」人間は、こんなことを言ったりしない。吉永はカレーを掬いながら、チラチラと俺の方を見て来る。アピールすんな。
(くそっ……)
「わーかったよ。マッサージ、すりゃ良いんだろ?」
「おっ。さすが、持つべきものは先輩想いの後輩だなァ」
途端ににぱっと笑う吉永に、ハァと溜め息を吐く。クソ。
(とはいえ)
まあ、いつも通りなのはありがたくもあるか。正直、どういう態度を取って良いか、解らなかったし。相手が女の子だったら――フォロー、したかな。心の底から思ってるわけじゃないけど、「昨日は大丈夫だった?」とか聞いておけば良いような気がする。マナーとして。まんざらでもなかったら、まあまあ良い返事が返ってきそうじゃん。その時は、次の約束なんか匂わせちゃったりしてさ。
(次――ねえ)
俺と吉永に限っては、「次」なんてものはないはずだ。吉永だって、好奇心で挿入してみたかっただけだろうし、俺って好奇心で挿入してみたかっただけだ。まあ、悪くはなかったけど。むしろ、良かったけど。だからと言って、急にそんな風にはならないだろう。そんな風ってのは――アレだ。解るだろ? アレだよ。
「じゃあ、飯食ったらおれの部屋な?」
「良いけど。あ、俺洗濯するから、仕掛けてから行くから」
「ん。解った。逃げんなよ? 待ってるからな?」
「ハイハイ」
そんなに念押ししなくても、逃げねえよ。逃げたって面倒なことになるだけだし。何と言っても、吉永はしつこいし、面倒だし。まあ、とにかく、ウザイんだから。
溜め息を吐き出し、俺もカレーを口に放り込んだ。
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