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47 side山 全部隠岐だった

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 顔が熱い。俺ってば本人に、「ガチ恋してます」なんて言ったのか? もうそれ、告白じゃん。そりゃあ、隠岐も何も言えないはずだよ。よく気持ち悪いとか思われなかったな。

(うわあ、穴があったら入りたい!)

 今すぐ走って逃げたい気持ちになったが、隠岐の部屋はお隣である。良く考えたら今までずっと、推しの隣で生活していたのか。本人に好きだの可愛いだの連呼していたのか。これは、かなり恥ずかしい。

(俺、変な事言ってないよな!? いや、逆に変なことしか言ってないのではっ!?)

 その上、初恋のあの子が、隠岐だった。なんなら、全部隠岐だったじゃないか。

 真っ赤な顔で、隠岐をチラリと見る。隠岐は不安そうな顔で、俺を見上げていた。なんだ、この可愛い生き物はっ。

 バクバクと、心臓が鳴る。

 マリナちゃんに対して、理想はあった。けど、男だということも知っていたから、それほど期待はしていなかった。なのに、今目の前に居るのは、控えめに言っても可愛い顔の、気の合う同僚だ。

(ああ、俺――)

 隠岐で、嬉しいのだ。マリナちゃんの正体が隠岐で、すごく嬉しい。

「榎井」

 隠岐が震える声で俺の名前を呼ぶ。顔を朱に染めて、瞳を潤ませ、俺を見上げる。無意識に、隠岐に手を伸ばす。抱きしめたかった。

「あ、の。ね……、俺――」

 堪らず、腕を掴んで華奢な身体を引き寄せる。ぎゅっと抱きしめると石鹸の良い匂いがした。

「――っ!?」

 あの時、後悔した。トイレで泣いていた白雪姫。一目惚れして、もう一度逢いたくて、演劇コンクールの度に探していた。けど、それからずっと逢えることはなくて、思い出の中に綺麗にしまわれていた。

 届かないと思って好きになった、電子の向こう側にいた存在。言葉を交わすことも、触れることも出来ない、一方的な恋だと、思っていた。

 だから、後悔したくなかった。触れたかった。言いたかった。

 愛を、伝えたかった。

「――好きだ。ガチ恋なんだ。初恋なんだ。――お前が、好きだ。隠岐」

「――っ」

 隠岐が、驚いたのが解った。嫌がられるだろうけど、伝えたかった。だって、自分でもどうしようもないほど、君が好きなんだ。

「えな、い……っ」

 頑張っている姿が好きだ。誠実でいようとする姿勢が好きだ。笑っている声が好きだ。器用ではないけど、努力家なのを知っている。臆病なのも、正直なのも知っている。

 何も知らないと思っていた、苦手だった同僚のことを、俺はきっと世界で一番知っている。

「好きだ」

 もう一度呟いて強く抱きしめた。隠岐の腕が、ゆっくりと俺の背中に回った。ドクンと、心臓が鳴る。

「俺もっ……」

「え――?」

 聞き間違いかと思って、思わず腕を緩めて隠岐の顔を見る。隠岐はまた涙で顔をぐしゃぐしゃにして、頬と額を朱に染めていた。

「俺も、榎井が好き――っ」

「――」

 驚き見開いた俺の頬に手を当て、隠岐が顔を寄せる。ドキッとして、とっさにぎゅっと瞳を閉じた。

 ふわっと、頬に柔らかい感触が触れる。

「――」

 瞳を開けると、隠岐が恥ずかしそうに瞳を背けた。なにこれ、可愛い。

「隠岐」

「っ、うん」

「ほっぺ?」

「――っ」

 唇を尖らせ、隠岐が困った顔で俺を見上げる。思わずククっと笑って、今度は俺から顔を寄せた。隠岐が、びくんと肩を揺らす。

「榎――」

 名前を呼ぶ声は、塞いでしまったので聞こえなかった。



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