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44 side海 推しからの連絡
しおりを挟むここ最近、仕事に集中していたお陰で、気持ちに整理が出来たように思える。榎井とも、自然に接することが出来ているはずだ。
先日、榎井が聴いているかも知れないと思いながらも配信したのは、自分にとって良かったと思う。自分なりに、終着点を見つけられた。まだその時ではないけれど、近いうちに俺は、榎井に告白する。
マリナのことは、言わないつもりだった。自分がマリナだと告げた上で告白するのは、ズルい気がした。俺は、『隠岐聡』として、向き合いたい。
(ふう。仕事も一段落したし、そろそろ動画のストックも無くなるから、新しく録画しないと)
部屋の扉を開き、中に入る。鞄をベッドに放り投げ、パソコンの電源を入れた。
(榎井は、帰ってるよな……)
榎井は残業ではなかったはずだ。あまり寄り道などしない彼なので、恐らくは部屋に居るのだろう。手を壁に当て、小さく「ただいま」と呟く。
気安くメッセージを送れば、きっと返事は返ってくるというのに、それが出来ないでいる自分が嫌だ。きっと俺は、『友達』になりたいわけじゃないから、そんな子供じみた態度をしてしまう。
「うん、切り替えなきゃ。全部終わってから、考えれば良いんだから」
恋愛相談が出来る誰かがいれば良いのに。俺ってば友達は居ないし、本当にダメダメだ。
頭を切り替え、椅子に座ってモニターに向かう。メールのチェック、SNSの確認が、最初の日課だ。それから動画のアナリティクス。
SNSを開き、メッセージに通知が入っているのに気がついた。見慣れたアイコンは、俺の推しである神絵師『ヤマダ』のものだ。
「ヤマダさんじゃん」
ヤマダが連絡して来たのは、過去にサムネイル用のイラストをくれたときと、「こういう絵を描いても問題ないか」と確認があった時、それから動画の編集ミスがあった時に教えてくれた時だ。個人的なやりとりは一度もない。
また動画にミスがあったかな? と思いながら、メッセージを開いた。内容を確認し、一瞬理解できなくて、もう一度読み直す。
『こんにちは、ヤマダです。
先日のライブ配信で、演劇部だった話をしていましたよね。それから、土壇場になって逃げてしまったこと。
実は俺、高校の時に演劇部で、トイレで泣いていた白雪姫に声を掛けた者です。といったら、信じてくれますか?
あの時、白雪姫は白いドレスでしたね』
警戒も、した。あんな発言をした後なので、冷やかしやなりすましもあり得ると、一瞬考えてしまった。けれど、ヤマダの言っていることは正しかった。メッセージを読むと、地元が同じだったようだし、件の大会の日付が一致している。
(ヤマダさん、だったの――)
あの時、背中を押してくれた人物が、すぐ傍でまた見守っていてくれた。その感動に、しばしディスプレイの前で感動する。
「うわ。返信、返信」
嬉しくて、驚いて、ミスタッチを何度もしながらキーを入力する。
(ヤマダさんがあの時の彼だったんですね。びっくりしました!)
メッセージを記入しながら、ふとヤマダなら、俺の胸の内を聴いてくれるのではないかと思ってしまった。ヤマダだったら、きっと揶揄わずに俺の悩みを聞いてくれる気がする。そして、背中を押してくれるかもしれない。
かつて、そうしてくれたように――。
(なにより、恋愛相談なんて、親しい人にするものじゃない)
他人だから言えることもある。ヤマダは視聴者の中では親しいし、俺も推しているイラストレーターだが、慣れ合うほど交流はない。
俺はすうっと息を吸い込み、メッセージを記入した。
『良かったら、オフで逢いませんか?』
送信にカーソルを当てる。このボタンをクリックしたら、もう後戻りはできない。
(いけ……!)
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