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38 side海 マリナになりたかった

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 ベランダにたたずみ、空を見上げる。田舎では夜闇で光るものは少ない。ポツポツとどこかの家の明かりが遠くに見える。うら寂しさに震えたのか、冬の空気に震えたのか、冷えた腕を擦って白い息を吐き出した。

「渡瀬は、優しくしてくれたのに……」

 ポツリ、呟く。急に寮に入ることになった時、渡瀬は率先して手伝ってくれた。引っ越しの手伝いをしてくれて、歓迎会もしてくれた。それなのに、勝手に嫉妬して、触らないで欲しいなんて、思ってしまった。

 榎井には、俺が知らない榎井の生活と人間関係がある。マリナを好きだと言っても、それは榎井の一部に過ぎない。まして、恋人でもない俺が、どうこう言える立場ではないのだ。頭ではわかっているのに、それを見たくない自分がいて、どうしようもなく胸が苦しくなる。

 どうすれば良いのだろう。どうしたら良いのだろうか。

 やっと仲良くなれたのに、こんな気持ちを知られたら、きっと気持ち悪いと思われる。

 知られたら、ダメだ。そう思うのに、同時に、また自分を偽るのかと、そう責める心が居る。自分を誤魔化して、オタクじゃないふりをして、作り笑いを浮かべている時、俺はちっとも楽しくないし、自分が好きになれなかった。

 自分に嘘を吐きたくなくて、本心で話したくて、『天海マリナ』を作ったのに。

 俺はまた、嘘を吐くのか?

「――マリナ。お前なら、どうするんだよ」

 榎井を、好きになっちゃったんだよ。友達を好きになってしまった。きっと嫌な思いをさせるし、嫌われなかったとしても困らせる。

 潤んだ瞳で見上げた夜空に、マリナの姿が浮かぶ。マリナは俺の分身だけど、嘘を吐かない分、俺よりずっとまっすぐに生きている。マリナなら、どうするんだろうか。マリナなら、告白するんだろうか。

「マリナなら――」

 マリナなら、なんの問題もないんだ。だって、榎井はマリナが好きなんだから。

 ズルいな。俺はマリナなのに、マリナじゃないんだ。榎井が好きなのは、俺であって俺じゃない。

「マリナに、なりたいよ……」

 ジワリ、涙が滲む。

 冬の空気は冷たくて、頬も凍えそうなのに、目だけが異常に熱くなる。

「マリナに、なりたいっ……」

 ずっと鼻を啜って、願望を吐き出す。

 マリナになれたら良いのに。榎井が好きな可愛い女の子。マリナみたいに、なれたらよかったのに。

 マリナのように、素直になれたら。

 どこまでもまっすぐに、榎井が「好き」だと言えるのに。


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