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二十 二度目のデート
しおりを挟む八木橋は気持ちの整理が出来てなかったが、アオイの方は遠慮しないと宣言した通り、翌日にはデートに誘って来た。簡潔なメッセージで『デートしましょう』と聴くアオイの言葉には、断られる可能性を一ミリも滲ませていない。もちろん、断るつもりはなかったのだが。
(デート……か)
八木橋はデートという言葉の響きに、じわりと胸が熱くなった。前にデートした時は、友人として過ごしたいという意味にとらえていた。だが、今回は違う。アオイと本当の意味で、デートするのだ。
気安くOKの返事をしたものの、今さら気恥ずかしさと緊張が込み上げてくる。
(何を着て行けば良いんだろう? この前のデートで、どんな話をしたっけ?)
ざわざわと胸がざわめく。この胸に込み上げる感情は何だろうか。アオイの顔を思い出すと、胸がじりじりと痛む。若いころにもあまり動くことのなかった気持ちが、今更なにやら落ち着かない。アオイの感情が八木橋の感情までも揺さぶっているようだ。
◆ ◆ ◆
アオイがデートに指定した日は、八木橋の休日だった。休日にアオイと会う時は、いつも『ムーンリバー』だったので、昼間に逢うのは新鮮な気がした。待ち合わせ場所は駅からやや離れた場所にある喫茶店で、八木橋は知らない店だ。白くペイントされた鋼鉄製のオシャレな外観の店で、デッキ付きのテラス席がある。グリーンがほどよく配置されており、爽やかな印象を受けた。
(綺麗なお店だなあ……)
ガラス越しに中を覗くと、若い女性客が多い。男性もチラホラいるようだが、やはり若い子が多いようだ。みんな学生に見える。
(取り合えず着いたけど……)
中に入って待つべきか、外で待つべきかを迷っていると、背後から声が掛かる。
「八木橋さん。お待たせしました」
「アオイくん」
振り返った先に、アオイが薄く微笑んで立っていた。白いシャツの上に濃紺のベストを羽織って、鞄を斜にかけている。いつもとは少し、雰囲気が違う。
「さっきまで大学だったんです。講義が長引いて……」
アオイはそう言って、通りの向かいを指さす。高い塀の向こうには、大学があった。どうやら、アオイの学校らしい。
「そうだったんだ。今来たところだから、待ってないよ」
「それなら、良かった。じゃあ、入りましょうか」
促され、中へと入る。明かりの良く入る席に座り、メニューを見る。パスタやサンドイッチなどの軽食のほか、スイーツも充実しているようだ。大学近くと会って、学生が多いのだろう。隣の席の女子グループが到着したばかりのスイーツを見て歓声を上げて写真を撮影している。
アオイも八木橋も昼がまだだったこともあり、軽食とスイーツを注文することにした。互いにシェアして食べながら、感想を言い合う。アオイは自身も料理をするらしく、食材や調理法に詳しい。食べることが好きな八木橋は話を聞くだけでも楽しかったし、アオイの引き出しが多いので退屈する瞬間は一瞬もなかった。
「こっちのレモンヨーグルトケーキ、さっぱりしてるのにコクがあって美味しいですね」
「ヨーグルトがババロアっぽくなってる?」
「ほんの少し、洋酒の香りがしますね。オレンジリキュールかな」
アオイに言われ、鼻を抜ける香りを堪能する。微細に洋酒を感じるが、それが何なのかまでは解らなかった。
「この白桃レアチーズケーキも美味しいけど、レモンもさっぱりして良いね。良いチョイスだったかも」
「ですね。似た感じになるかと思いましたが、そんなこともないし」
白桃のみずみずしい果肉を堪能しながら、「んーっ」と唸る。スイーツ好きの八木橋にとって、一緒にスイーツを食べて感想を言い合える相手はとても貴重だ。店の女の子たちはケーキをプレゼントで貰うことが多いせいか、甘いものに興味が薄い。それでなくとも、いい歳をした成人男性と、甘いものを食べながら話をしてくれる人は少ないものだ。
八木橋は穏やかに笑うアオイの顔を見ながら、口元に笑みを浮かべた。
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