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三十 オモチャで
しおりを挟むグラスが空になったと同時に、会話が途切れた。カノは空のグラスを手持ち無沙汰に揺らしながら、静かに黙っている。その様子が絵になるな、と想いながら、清はカノを見つめていた。
沈黙を破ったのは、風呂が沸いたのを告げる電子音だった。
「あ」
思わず振り返って浴室の方を見る清に、カノが妖艶な笑みを浮かべて清の手をとる。
「一緒に、入ろうか」
「――う、ん……」
甘い誘いに、抗えず、頷く。もっとも、清がカノを拒絶することなど、どんな時でも起こり得ないのだが。
◆ ◆ ◆
「カノくん、ちょっと、狭くない?」
「それが良いんだろ」
首筋にチュとキスをして、カノが囁く。
狭い浴槽にぎゅっと抱き合いながら浸かって、清は恥ずかしいやら、興奮するやら、非常に落ち着かない。狭いせいでカノにしがみつくようにしているので、結果としては膝に乗る形になっている。
「あ、ん……、カノく……っ」
緩い愛撫に、ピクピクと反応する。カノの唇が鎖骨や胸を滑る度に、甘い声が漏れて出た。
ゴリとしたものを尻に感じて、清はビクッと肩を揺らす。
「カ、カノくん……っ、あ、当たってるんだけど……っ」
「仕方ねえだろ。この体勢じゃ。それに、清も勃ってる」
カノの手が、清の先端部分を指で弄くる。「ひぅ♥」と甘い声を漏らす清に、カノが笑った。
「このまま挿れちゃう?」
「ヤ、ヤダ……っ」
「騎乗位やってねえじゃん?」
「無理無理! カノくんのでかいんだから!」
カノのものを下から突き上げられたら、大変なことになるのは目に見えている。絶対に身動きが取れなくなる。
「まあ、それはそのうちで良いか。拡張前だし」
「なんか怖いこと言ってるしっ……ん♥」
口に乳首を含んで、ちゅうと吸われる。胸が感じるようになるとは、思っても見なかった。今じゃ、服が擦れるのも、ちょっと気持ち良くなってしまう。
「あ、ん……っ♥ ソコ……、そんなにっ……♥」
「可愛い乳首。……清、いつもより、酔ってる?」
「あ、あっ♥ ん……、少し……」
湯船に浸かったせいか、いつもより酒が回っている。カノは「そうか」と言って清の腰に腕を回すと、ヒョイと抱えあげた。
「わっ!?」
そのままタオルにくるまれ、ベッドの方へ連れていかれる。ベッドに横たえるとすぐに、カノが口づけしてきた。
「あ――ん……」
「長湯、しない方が良いだろ?」
「ん……」
タオルを取り払って、湿った肌を撫でていく。カノの手は、清の気持ちいいところを、的確に触れていく。
「あ……、カノ……」
「清、脚、開いて」
ローションを手にしながら言うカノに、清は恐る恐る脚を開く。何度やっても、慣れない。死ぬほど恥ずかしい。女のように脚を開くことも、穴に触れられることも。
ぬぷっと、ローションの滑りを借りて、カノの長い指が入ってくる。何度も受け入れたそこは、さしたる抵抗もなく、中へと導いて行く。指がグチュグチュと内部を擦り、腸壁を引っ掻く。甘く、切ない痺れに、清は腰を揺らした。
「あ――、ん……っ」
「清も、慣れたよな」
「っ、ん……、カノくんの、せいだよ」
「ホント、最初の頃よりエロくなっちゃって……」
言いながら指を増やされ、「あぅ♥」と声を上げる。前立腺を押し潰すように刺激され、ビクビクと膝を揺らした。
清の恥態に、カノがハァと息を漏らす。こういうときのカノは、『チンコが苛ついている』ので、大分興奮状態のはずだ。
「あー、あ、あ♥ カノくんっ……♥ カノくんっ」
「指だけでイいきそうじゃん」
「あ、あ……っ♥ イく、イっちゃうっ……♥ 気持ちいい、それっ……♥」
イきそうだというのに、カノは何故か、ずるんと指を引き抜いてしまった。咄嗟に、口から「あ……」と残念そうな声が漏れる。
「あ……、あ…」
「不満そうな顔して」
クスリと笑うカノに、拗ねた顔をしてみれば、カノはムギュと清の鼻を詰まんで来た。
「んむっ!」
「可愛い顔、すんな」
「なんだよ、もう!」
フンと鼻を鳴らし、唇を結ぶ。意地悪なカノだが、いつもならすぐに、挿れてくれるはずだ。清はカノを迎え入れようと、腰を軽く上げる。
「カノくん、早く……」
「煽るなよ」
そういうカノの目元は、興奮で朱に染まっていた。はやく、その猛ったもので貫いて欲しい。カノが欲しくて、身体が疼いている。
なのに、カノが手にしたものに、清は顔を強ばらせた。
「うげ」
「うげ、じゃねーよ。せっかく買ったんだから」
「え、ヤダって! カノくんのが良いっ!」
「それは嬉しいけどさ」
逃げようとベッドから降りようとした清の腕を、カノが捕らえた。そのまま、何か金属製のもので、腕を拘束される。
「え? は?」
カシャンという乾いた音に、視線を向けた。銀色の武骨な手錠が、手首に繋がっている。
「清ってば、逃げそうだったから。さっき一緒に買っておいた」
「げっ」
しっかり腕を拘束され、動きづらくなる。両腕が使えないだけで、かなり不自由だ。
「清は、オモチャで感じるのが怖いんだろ?」
「っ、当たり前、だっ! 俺は、カノくんしかっ……」
ピト、とアナルにバイブの先端を押し付けられる。ぬちゅ♥ と粘液に触れる感触に、快感からゾワと皮膚が粟立つ。
「っん♥」
「オレが選んだ、オレの分身みたいなもんだろ? ホラ」
「あ、あっ……♥ 入っ……♥」
ぬぷぷ、と、肉を割りさいて、バイブが入ってくる。先端は太くなっており、途中の部分は節がいくつもあって、グロテスクな見た目をしていた。それが、ゆっくりと挿入されていく。
「あ、あ……、カノくん、カノくんっ」
カノ以外にイかされたくない。そう思っていたのに、カノの分身だと言われ、その気持ちが揺らぐ。
バイブはシリコン製だからか、思ったよりも硬くなく、穴によく馴染んだ。所々にある突起や括れが、これが快楽を得るための道具なのだと、思い知らせてくる。
「ひぅ♥ ん……っ!」
ずぷん♥ 嫌がっていた癖に、身体は快楽に抗えず。清はあっさりと、それを奥まで呑み込んでしまった。
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