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五話 同伴デート
しおりを挟むまた次の週末、清は萬葉町へと足を向けていた。寮暮らしの清にとって、自由に遊べるのは週末くらいしかない。そもそも、寮から萬葉町まで電車で一時間かかるので、週末以外は現実的でない。週に一度の気晴らしと思えば、日々の仕事も頑張れるし、なによりホストクラブに通うには金が要る。
(おかしくないよな)
ショーウインドウに写る自分を見ながら、前髪を確認する。床屋じゃなくて美容室に行って、髪を弄って貰った。いつもよりオシャレなはずだ。今日はネクタイとシャツではなく、ジャケットにカットソー。オシャレな後輩、栗原風馬に見立てて貰ったので、きっと大丈夫。
ソワソワしながら身支度を確認し、
深呼吸。緊張しているような、ワクワクしているような、不思議な感覚だ。
そうやってしばらく待っていると、スマートフォンにメッセージが入る。ビクッと身体を震わせ、慌ててアプリを開いた。
『すぐ着くよ』
「っ――!」
文字を見ただけで、心臓が跳ねる。ふとガラスに写る自分の顔を見れば、真っ赤に染まっていた。
(うわ。恥ずかしい)
沈まれ、と頬に手を当てていると、
「なにしてんの? 清くん」
「うひゃっ!」
甘い香りが鼻腔を擽る。驚いて振り替えると、鼻の先に金色の髪がさらりと揺れた。
「くぇrちゅういおp」
「なんて?」
「カッ、カノくんっ!」
すぐ目の前にカノの顔があって、清は激しく動揺する。カノの香りに、鼻から脳まで壊されてしまったようだ。そも面食いな清なので、イケメンのアップは眼球への暴力である。
(かっ……格好いいな……! 佐藤が見たら悪態じゃ済まなさそう)
同期の佐藤は、イケメン嫌いを体現したような男だ。清も少し前なら同調していたが、カノだと勝手が違う。合コンのライバルではないし、仕事でのライバルでもない。むしろカノは、清をもてなしてくれる存在だ。自分に良くしてくれる相手なら、美しい方が良いに決まっている。
「お、驚いた……。逢えて嬉しいよ!」
「――そう? こっちこそ、同伴の誘い、ありがとう」
カノが柔らかく微笑む。その笑みに、清はぽーっと頬を染めた。
今日は、二度目の同伴である。先日は、ほぼ店前同伴でデートではなかったし、実質今日が初めての同伴といって良い。
店が始まるまで九十分ほどだが、お茶くらいは出来るし、簡単な食事でも良い。カノの負担にならない程度のお出かけだ。
(緊張、するなぁ……。友達ってわけじゃないから、かな)
同伴がイコールデートであるのは知っているが、男同士だし、そのような気持ちで望んだつもりはない。それなのに、華やかな雰囲気のカノと一緒だと、なんだか妙に気持ちがざわついた。
「ど、どこか行きたいところある? お茶とか、飯でも良いし……」
「んー」
清の問いかけに、カノは考える素振りを見せた。一応、清もプランを考えて来たが、カノの意見も聞いておきたい。ドキドキしならがカノを見上げる。
(私服――も、格好いいなあ……。時計高そう……)
カノの前に立つだけで、脳みそが蕩けてしまいそうだ。なんだか解らないが、幸福物質が出ているに違いない。
「折角だし、少し買い物でもする? その後、飯行こうよ」
魅力的な笑顔を浮かべ、カノがそう提案する。
「うっ、うん」
(なんかそれって)
すごく、デートみたいだ。そう思いながら、清はゴクリと喉を鳴らした。
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