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42 二人はかみ合ってる
しおりを挟む「ん……」
瞼にキスをされ、気怠い腕を芳に回した。何度か抱き合ってそのままベッドに横になっていたら、いつの間にかうたた寝していたらしい。周囲はまだ薄暗いので、眠ったのは一瞬のようだ。
「起こした?」
「ううん。でもさすがに、シャワー行くのは面倒かな……」
「明日の朝、一緒に行こう」
額にキスされ、頷いて芳に抱き着く。こうして肌を合わせているだけで気持ちいい。
「悠成」
「ん?」
芳が暗がりの中何かを探る。脱ぎ捨てたズボンから何か取り出したようだ。そのままおれの手を取り、左の薬指に何かを嵌めた。
「え?」
ドクンと、心臓が鳴る。
芳が明かりの代わりに、枕元にあったスマートフォンをかざした。ボンヤリとした光の中に、キラリと銀色の指輪が光っていた。
「――え?」
じわり、涙が滲みながら、もう一度聞き返す。信じがたい気持ちで、けど、芳の気持ちは嘘じゃなくて。
「どうしても、形にしたくて」
「――っ」
銀色の指輪はおれの指にぴったりで、途中で引っ掛かることもなく指に綺麗に収まっていた。シンプルな銀の台座に、よく見るとほんのちいさな青色の石が付いている。多分、サファイアだ。おれの、誕生石。
おれにとって、一生縁がないものと思っていた指輪。けど、思い入れは人一倍あって、すごく憧れていた指輪が、今おれの指に嵌っている。
「よ、芳っ……、お、おれ……」
「ん」
「う、嬉しいっ……こんなんじゃ、言い表せないくらい、嬉しくてっ……」
「うん」
芳が蕩けるような笑みを向ける。
ああ、もう。本当に。
完璧なんだから。
「芳ってば、いっつも、おれがしたいこと、して欲しいこと、してくれる」
「ンなことねぇけどよ。俺は――俺が、やりたいこと、やってるだけだし」
照れくさそうにそういう芳に、おれは笑いながら芳の唇にちゅっと触れた。お返しにとばかりに、芳からもちゅっとキスが降る。
「それじゃ、案外おれたち、気が合ってたのかな?」
「かみ合わないと思ってたんだけどな」
「ふふ。最初から、ぴったり過ぎたのかもよ?」
「そうかもな。いや。そうだな」
布団の中で手を繋いで、額をこすり合わせる。目を見つめて、もう一度キスをした。
「芳にも、おれから指輪をあげたら……着けてくれる?」
「勿論。一緒に、買いに行こうか」
「うんっ」
指輪をくれた上に、一緒に着けてくれるとか。本当に、おれがしたいこと、全部やっちゃうんだから。芳ってば、本当に最高の『彼氏』だな。
「あ、そう言えば、もしかして……その、亜嵐くんのこと、もう追いかけない方が良い……?」
「あ――ガチ恋じゃ、ねぇんだろ?」
「うん。好きなのは……芳だけ、だよ」
「じゃあ、良いよ。キューピットみてぇなもんだったしな」
「あはは。亜嵐くんがキューピットとか、最高すぎ」
どうせなら芳にも、亜嵐くんを好きになって貰いたいな。芳が好きそうな楽曲も結構あるし、案外気に入っちゃうかもしれないじゃない?
「そう言えば、良輔さんの誤解、どうするの?」
顔を上げ、問いかける。そう言えば良輔さん、芳が好きなのは彼氏に貢いでる二股女子だと思ってる。それがおれだとか、全然意味わからないんだけど。本当にややこしいことになった。
「ああ……。まあ。放っておきゃ良いだろ」
「芳の心配してたのに」
「まあ、そうか……」
チラリ、芳が窺うようにおれを見る。
「そのうち、紹介しても大丈夫?」
「っ、りょ、良輔さんに?」
「すぐじゃねぇ。ずっと先。友達に紹介出来ない恋人ってわけじゃねえから」
「……良いの?」
「おう。まあ、まずは『彼氏もいなかったし貢いでもなかった』って、誤解は解いておく」
「そうして……」
芳はそう言いながら、少しだけ恥ずかしそうだった。良輔さんに誤解を解くときも、きっと恥ずかしい思いをするんだろうな。そう思うと、少し可哀そう。面白いけど。
「しばらくは、秘密の恋人ってことでも、良い?」
芳が嫌なわけじゃないし、本当は言いふらしたい気持ちがあるくらいだけど、やっぱり他人の目は怖い。ずっとクローゼットで生きて来たんだもの。
「ああ。寮内で恋愛とか、怒られるかも知れないしな」
「確かに」
寮内で結構、エッチしちゃってるしな。多分、恋人ってバレたら、色々詮索されちゃうし。
「じゃあ、しばらくは、二人だけの秘密ってことで」
そう言って、おれは芳の小指に自分の小指を絡めた。指を絡め合い、ようやく実感する。
(――芳は、寮を出た後も、一緒にいようと思ってくれてる……ってこと、だよね)
じわり、熱いものがこみ上げる。
運命みたいに引き合っていたのに、うまく回っていなかった歯車が、ぴったりとかみ合ったようだ。芳はきっと、この先もずっとおれと一緒に居てくれる。そう、確信できた気がした。
この先、何年後も。多分、芳とおれは二人並んで歩いているんだろう。その指には、銀色の指輪がキラリと光っているに違いない。
――二人は、運命みたいにぴったりと、かみ合ってる。
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