上 下
40 / 42

40 ようやく

しおりを挟む



「えーっと、どういうこと?」

 聞き返したおれに、芳は心底恥ずかしそうな顔をして部屋に飾ってあった亜嵐くんのポスターを見た。

「あれは、亜嵐くんか」

「うん。そうだよ。去年のアルバムの特典のポスター」

 ランダムポスターだったから、亜嵐くんを引くのにCDを9枚買ったんだよ。10枚までいかなかったのはセーフだったと思う。ちなみに30枚までは買おうと思ってた。

 じゃなくて。

「あのな、俺はちょっと、アイドルに疎くてな」

「うん? あ、そうなんだね。芳はJ-POPより洋楽聞いてる感じだもんね」

 エミネムとか。それがどうかしたのだろうか。

「亜嵐くんが何者なのか、分かってなかったんだ」

「あー、うん。まあ、仕方がないか。『ユムノス』の曲だったら何曲か、聞いたことある曲あるかもよ! CMとかでも流れてるし。今度貸してあげるね」

 メンバーが誰とか、そういうのって分からないよね。亜嵐くんはドラマも少し出てるけどアイドルドラマって深夜とかの遅い時間だったりするから、知ってる人じゃないとなかなか観ないよね。

「お前がな、亜嵐くん亜嵐くん言ってるのを、俺は勘違いしてたんだ」

「うん?」

 勘違い?

「お前の、恋人なんだって」

「ええええええっ」

 何その素敵な勘違い。やだ、亜嵐くんが彼氏だなんて。照れちゃう。いや、亜嵐くんはどっちかっていうと母親的な気持ちで見てるのよ。そういうえっちな感情は持ってないのよ。ガチ恋はしてないからね。

「おれ、亜嵐くんは好きだけど、恋愛感情は抱いてないよ?」

「そう、みたいだな……」

 ハァとため息を吐いた芳は、酷く恥ずかしそうだった。

 えっと、亜嵐くんをおれの彼氏だと思ってた? もう芳ってば、なんでそんな勘違いしたんだろう。おかしくなっちゃう。そんなに亜嵐くんのこと喋ってたかなおれ。

「なんでそんなことに?」

「お前がっ……。いや、俺のせいだ。うん。お前から男の名前が出て来たから、焦っちまって……。本命が居るんだって……」

「焦った……?」

 その言葉に、ドキリと心臓が鳴る。

 ううん、嘘だよ。嘘、嘘。芳ってば、おれを揶揄ってるんだ。

「お前、いっつも亜嵐くん好き好きって感じだったからさ。ライバルが他に居るんだと――勘違いしてた」

「――っ、よ、芳?」

「俺だけ、なんだろ」

 芳の掌が、頬に触れる。心臓がドキドキして、おかしくなりそうだ。

「悠成、俺が気になってるのは、お前だよ」

「――嘘、だよね?」

「嘘言うわけねーだろ、こんな流れで。あんた、可愛くて、エロくて、馬鹿で」

「ちょっと?」

 くく、と笑って、芳が顔を近づける。額がこすれ合う。芳の顔が近い。

「俺、お前に夢中なんだ」

「――っ、芳……」

「お前も、そうみたいで、今すげぇ嬉しい」

「っ、お、おれ、何も言ってないけどっ」

「亜嵐くんから告げ口されたかんな」

 もう、亜嵐くん! 芳の前で言っちゃダメって言ったのに!

 顔を真っ赤にしたおれの頬を芳の手が包む。

「芳……」

「ん?」

「本当の、本当に……?」

「ああ」

 嘘じゃ、ないの? 質の悪い冗談じゃないの?

 本当に、芳も同じ気持ちなの?

「悠成と一緒にいると、すぐキスしたくなる。舐めたくなるし、抱きたくなる」

「ちょっと……、もう、エッチ」

「ダメか?」

「ダメじゃ、ないけど……」

 芳の舌がおれの唇を舐めた。ぞくぞくっと背筋が粟立つ。

「あっ、ん」

「ダメじゃないけど?」

「好きって、言って……」

 芳の首に腕を回す。芳は少しだけ照れくさそうな顔をして、すんっと鼻をすするとその鼻先をおれの鼻にくっつけた。

「好きだよ、悠成」

「――お、れも、好き……。芳が、好き」

 ふわりと笑って、芳の唇がおれの唇を塞いだ。瞼を閉じ、キスを受け入れる。

(亜嵐くん、おれ、告白したよ)

 亜嵐くんの声に背中を押され、おれは。

 おれの恋は。

 成就したのだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜

ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。 高校生×中学生。 1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。

風邪をひいてフラフラの大学生がトイレ行きたくなる話

こじらせた処女
BL
 風邪でフラフラの大学生がトイレに行きたくなるけど、体が思い通りに動かない話

孤独な戦い(3)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた

キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。 人外✕人間 ♡喘ぎな分、いつもより過激です。 以下注意 ♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり 2024/01/31追記  本作品はキルキのオリジナル小説です。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

出産は一番の快楽

及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。 とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。 【注意事項】 *受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。 *寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め *倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意 *軽く出産シーン有り *ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り 続編) *近親相姦・母子相姦要素有り *奇形発言注意 *カニバリズム発言有り

処理中です...