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40 ようやく
しおりを挟む「えーっと、どういうこと?」
聞き返したおれに、芳は心底恥ずかしそうな顔をして部屋に飾ってあった亜嵐くんのポスターを見た。
「あれは、亜嵐くんか」
「うん。そうだよ。去年のアルバムの特典のポスター」
ランダムポスターだったから、亜嵐くんを引くのにCDを9枚買ったんだよ。10枚までいかなかったのはセーフだったと思う。ちなみに30枚までは買おうと思ってた。
じゃなくて。
「あのな、俺はちょっと、アイドルに疎くてな」
「うん? あ、そうなんだね。芳はJ-POPより洋楽聞いてる感じだもんね」
エミネムとか。それがどうかしたのだろうか。
「亜嵐くんが何者なのか、分かってなかったんだ」
「あー、うん。まあ、仕方がないか。『ユムノス』の曲だったら何曲か、聞いたことある曲あるかもよ! CMとかでも流れてるし。今度貸してあげるね」
メンバーが誰とか、そういうのって分からないよね。亜嵐くんはドラマも少し出てるけどアイドルドラマって深夜とかの遅い時間だったりするから、知ってる人じゃないとなかなか観ないよね。
「お前がな、亜嵐くん亜嵐くん言ってるのを、俺は勘違いしてたんだ」
「うん?」
勘違い?
「お前の、恋人なんだって」
「ええええええっ」
何その素敵な勘違い。やだ、亜嵐くんが彼氏だなんて。照れちゃう。いや、亜嵐くんはどっちかっていうと母親的な気持ちで見てるのよ。そういうえっちな感情は持ってないのよ。ガチ恋はしてないからね。
「おれ、亜嵐くんは好きだけど、恋愛感情は抱いてないよ?」
「そう、みたいだな……」
ハァとため息を吐いた芳は、酷く恥ずかしそうだった。
えっと、亜嵐くんをおれの彼氏だと思ってた? もう芳ってば、なんでそんな勘違いしたんだろう。おかしくなっちゃう。そんなに亜嵐くんのこと喋ってたかなおれ。
「なんでそんなことに?」
「お前がっ……。いや、俺のせいだ。うん。お前から男の名前が出て来たから、焦っちまって……。本命が居るんだって……」
「焦った……?」
その言葉に、ドキリと心臓が鳴る。
ううん、嘘だよ。嘘、嘘。芳ってば、おれを揶揄ってるんだ。
「お前、いっつも亜嵐くん好き好きって感じだったからさ。ライバルが他に居るんだと――勘違いしてた」
「――っ、よ、芳?」
「俺だけ、なんだろ」
芳の掌が、頬に触れる。心臓がドキドキして、おかしくなりそうだ。
「悠成、俺が気になってるのは、お前だよ」
「――嘘、だよね?」
「嘘言うわけねーだろ、こんな流れで。あんた、可愛くて、エロくて、馬鹿で」
「ちょっと?」
くく、と笑って、芳が顔を近づける。額がこすれ合う。芳の顔が近い。
「俺、お前に夢中なんだ」
「――っ、芳……」
「お前も、そうみたいで、今すげぇ嬉しい」
「っ、お、おれ、何も言ってないけどっ」
「亜嵐くんから告げ口されたかんな」
もう、亜嵐くん! 芳の前で言っちゃダメって言ったのに!
顔を真っ赤にしたおれの頬を芳の手が包む。
「芳……」
「ん?」
「本当の、本当に……?」
「ああ」
嘘じゃ、ないの? 質の悪い冗談じゃないの?
本当に、芳も同じ気持ちなの?
「悠成と一緒にいると、すぐキスしたくなる。舐めたくなるし、抱きたくなる」
「ちょっと……、もう、エッチ」
「ダメか?」
「ダメじゃ、ないけど……」
芳の舌がおれの唇を舐めた。ぞくぞくっと背筋が粟立つ。
「あっ、ん」
「ダメじゃないけど?」
「好きって、言って……」
芳の首に腕を回す。芳は少しだけ照れくさそうな顔をして、すんっと鼻をすするとその鼻先をおれの鼻にくっつけた。
「好きだよ、悠成」
「――お、れも、好き……。芳が、好き」
ふわりと笑って、芳の唇がおれの唇を塞いだ。瞼を閉じ、キスを受け入れる。
(亜嵐くん、おれ、告白したよ)
亜嵐くんの声に背中を押され、おれは。
おれの恋は。
成就したのだ。
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