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9 彼氏にお姫様抱っこされるのが夢だったのに
しおりを挟む繋がった部分がドクドクと脈打つ。息をする度に蠢くせいで、挿入されているだけで気持ち良かった。
「はっ、は……っ」
荒い呼気を吐きながら、自分の状況に焦って逃げようと腰を捻る。だが、星嶋の腕ががっしりと脚を掴んでいて、結果として身体が滑って背中をタイルに打ち付けた。
「んぅっ」
「おい、あぶねーぞ」
「あっ、バカっ」
星嶋がおれの顔を覗き込んだ拍子に、ぐりっとナカを抉られる。刺激にビクンと膝を動かしたおれに、星嶋は獣みたいな顔で唇を舐めた。その仕草に、ドキリと心臓が鳴る。
(いや、待って。待って)
ドキドキしてる場合じゃない。どうしよう、セックスしちゃってる。
「動くぞ」
短くそう言って、星嶋が腰を打ち付ける。引き抜かれ、再度貫かれる衝撃に、引き留める言葉が喘ぎに変わった。
「ひぁ、っあ!」
ぱちゅん、ぱちゅんと、音が響く。内部を擦られ、突き上げられる衝撃に、悲鳴が出る。
肉を割り開かれた鈍い痛みと、圧迫感に混ざって、快感がざわざわと押し寄せる。
(苦しっ……けどっ……!)
それだけではない快楽に、肌が薔薇色に染まっていく。
「あっ、あ、あっ! 星嶋っ……! ほしっ……」
激しく揺さぶられ、おれは星嶋にしがみついた。逞しい腕に抱かれ、心臓が早鐘を打つ。
熱い。身体が熱い。
ぎゅっと星嶋の背にしがみつく。ずぷずぷとおれを犯す男に、何故かドキドキしている。
「っ、く……」
「あ、んぁ、あぁっ!」
ナカを散々擦られ、いつの間にかまたおれも勃起していた。星嶋の腹に擦られ、ビクッビクッと身体が揺れる。後ろを犯されながら前を刺激される快感に、頭がおかしくなる。
「いあっ、ダメっ……、イっちゃ……」
じわり、涙が滲む。星嶋の唇が、瞼に触れた。
「イケよ……」
掠れた甘い声に促され、おれは腹の上に精液を吐き出す。同時に、ビクビクと穴の中で星嶋の性器が大きく震え、熱いものが注がれた。
「――っ!」
「っく……!」
ハァハァと、荒い息を吐き出す。上気した頬が熱い。潤んだ瞳が、絡み合う。
ごく自然に。星嶋の唇がおれの唇と重なって、おれは何故かそれを受け入れた。
くちゅ、と舌が絡み合う。さざ波のようにじわじわと身体に燻る快感を、舌先でつつかれているようだ。甘い余韻に、無意識に舌を絡める。
「上遠野……」
星嶋が名前を呼ぶ。潤んだ瞳を向けた、その時だった。
「ああ? 何だ、まだ誰か使ってんのかー? ボイラー落とすぞー」
脱衣場の方から、管理人の声が聞こえて、慌てて身体を離す。
(そうだっ、ここ、寮のお風呂っ……)
思い返せば、なんて場所でしてしまったのか。誰か来たら、大変なことになっていた。
「すっ、すみません、今出ますっ!」
おれと星嶋は大慌てで、泡だらけの身体ををシャワーで流し、そそくさと風呂場から出ていった。
脱衣場に入り、濡れた髪を拭う。髪はすっかり冷たくなっていたが、身体は妙に火照っていた。湯船にも浸かってないのに。
(入り損ねた……)
ハァと溜め息を吐き、星嶋の方をチラリと見る。濡れた肌に、ドクンと心臓が鳴る。あの腕に、抱かれたのだ。しなやかで、美しい身体だ。胸も自分よりずっと厚い。
あんなことをされたのに、不思議と嫌じゃなかった。もちろん、同意がなかったのだから、そこはダメだ。場所だって最悪だ。
(くそ……)
おれがムスッとしていると、星嶋もなにやらぶつぶつ言っていることに気づいた。
「くそ……、男相手に……。俺はホモじゃねーぞ……」
「……」
まあ、指輪の時点でそうなのだろうとは思っていたが、ノーマルらしい。なら何故、抱いたのだと文句を言いたい。
(……指輪、は、まだ返していないけど……)
おれの指には、まだ指輪が輝いている。星嶋は口調も態度も乱暴だし、いきなり襲ってくるヤツだが、何故か指輪を勝手に持っていったりはしなかった。いくらでも、チャンスはあっただろうに。
早いところ部屋に帰ってしまおう。目を合わせたら、また何か言ってくるかも知れない。指輪を返せとか。
(ここまでされたら、もう指輪は貰っても良いだろ)
もはや、返す気など全くなくなって、適当に拭いて服を着込む。星嶋はまだ上半身裸だ。
お先っ。と心の中で言い、星嶋に背を向け入り口に向かう。
が、脚がガクガクして、上手く歩けなかった。酷く内腿の筋肉が強ばっている。
「いっ……」
生まれたての小鹿みたいにブルブル震えながら、壁に寄りかかり移動するおれに、星嶋が声をかける。
「おい、大丈夫かよ」
「うぐっ」
くそ。敵に心配されるとは情けない。
「へ、平気だっ」
「どう見ても平気そうじゃねーけど」
星嶋はそう言い、溜め息を吐いた。ぐい、とおれの腕を掴み、引き留める。
「な、なんだよっ」
「ムカつくけど、まあ、俺のせいでもあるしな」
俺のせいで「も」? 100パーセント、お前のせいだが?
じとっと睨むが、星嶋は見ていない。無視してTシャツを羽織る。
「よっと」
「は」
星嶋がヒョイと、おれを抱える。突然すぎて、思考停止してしまった。
「ちょっ……」
「仕方がないから、部屋まで送ってやるわ」
「やっ、やめろっ! 降ろせっ!」
酷い。あんまりだ。
彼氏にお姫様抱っこされるのが夢だったのに。
なんで星嶋がやっちゃうの?
泣きそうになりながらも、自力で歩くのも逃げるのも難しく、おれは強引に星嶋に連れられることになってしまった。
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