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おまけ3 弟のこと

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 俺には弟がいる。弟といっても、同じ日に生まれた双子だ。だから、弟と言っても、親友のような存在だと思っている。

 運良く芸能界入りして十年近く。俺、栗原亜嵐は才能よりも幸運で今のポジションを得てきたと自覚している。俺より才能に溢れている人間も、俺より見た目が優れている人間も多い。多分、俺は本質的には弟の風馬よりも才能のない人間で、凡才の部類に入るだろう。けど、今ステージに立っている。

 そんな俺と風馬の間には、仲が良いが故の、わずかな確執があった。表面化しないように、お互いに注意しながら目を逸らしていたものが、急に明るみになり――多少のゴタゴタはあったものの、今は落ち着いている。

 風馬は何か吹っ切れたようで、今は市民劇団に入ったらしい。多分、才能のある風馬のことだ。すぐに頭角をあらわして、世間の注目を浴びるに違いない。

(願わくばその時、『栗原亜嵐の弟』というレッテルで呼ばないで欲しいものだが)

 まあ、今の風馬なら、心配はないだろう。そんな評判など吹き飛ばしてしまうに違いない。兄として支えられなかったのは残念ではあるが……。

(多分、鈴木さんの、お陰だよな)

 鈴木さんは、俺が初主演の映画で行き詰まった時に助けて貰った人だ。俺はこれまで、少女漫画原作のドラマで、当て馬役の男キャラを演じることが多かった。初主演。しかもボーイズラブ。初めてずくしで戸惑った俺は、風馬に助けを求めたのだ。

 俺はあまり執着するタイプじゃないし、男性に恋愛感情を抱くというのも、今一つピンと来なかったのだが――風馬と、鈴木さんを見て、なんとなく感じ入るものがあったのだ。

 こんなことを言ったら、二人には悪いと思ったので、ボーイズラブだということは明かさずに、協力して貰ったのである。

 まあ、あながち、間違いじゃなかったようで――…。

『それで、一太さんが窓から飛び込んで来たんだよ。本当に、カッコ良かった……』

「そりゃ、凄いね」

 この話を聞くのは、すでに四回目である。風馬と鈴木さんの馴れ初めから始まり、大体、本格的に付き合うことになったという下りまで、事細かに教えてくれる。まあ、男性の恋人だとか、言える相手が俺くらいしか居ないのだろう。

 最初は驚いたものの、同時に酷くふに落ちて、思わず笑ってしまったものだ。

(なんだ、そうだったのか)

 と。

 風馬の見たことがない一面と、確かな成長を感じて、嬉しいと同時に寂しさを覚えてしまった。

 電話の向こうでは風馬が、可愛い恋人の自慢話を繰り返している。

『お前は恋人、作らないのか? 亜嵐』

「意外に、出会いないのよ。まあ、世間の目もあるけどさ」

 可愛い女の子と知り会う機会は多いし、連絡先も貰うけれど、『これ』って出会いは今のところない。仕事が楽しいというのもあるけれど、ビビビと来るような運命的な出会いは、未だ訪れない。

『まあ、お前にも良い出会いがあるさ』

「そりゃどうも」

 あるものの余裕か、そう言う風馬に思わず笑う。今のところ、恋愛には興味がないんだけど。

 風馬はまだ、耳元で惚気を喋っている。

(それにしても、非常階段から部屋に、ねえ。非常階段なんか――当然、あるか)

 表からは見えない、裏側に非常階段があるのだろう。裏手に回って階段に上れば、風馬の部屋への侵入は意外にも簡単だということだ。

(ふーん。なるほど)

 それは、良いことを聞いたな。

 



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