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五十 ふざけるな
しおりを挟む俺は改めて気持ちを引き締め、風馬の部屋の前に立った。多分風馬は中に居て、未だに亜嵐に言われたことを引きずっている。あの日を境に殻に閉じこもり、現実に向き合おうとしない。俺の方を、見ようとしない。
「風馬」
俺はもう一度、ドアの外から部屋の中に向けて声を掛けた。返事はない。扉を叩き、何度も呼び掛ける。同じ階に住む榎井と隠岐が、何事かとこちらを見て来た。曖昧に微笑み、会釈をする。
俺は深呼吸して、大声を張り上げ、ドアをドンドンと叩いた。
「風馬! 出てこい! 顔見せろ!!」
ドンドン!
「中に居るんだろ! おいっ!」
ちょっと大騒ぎしている気もしたが、どうせ俺は寮内を下半身丸出しで走り回った男である。開き直って大声を張り上げる。こちらには藤宮に頼まれたと言う大義名分があるのだ。ああ、そもそも、俺彼氏だったな。言い訳は十分あるじゃないか。
「風馬! おい! 風馬!」
何度も何度も叫んでいると、ようやく答える気になったのか、扉の向こうから風馬の声が聞こえた。
「もう! 放っておいて下さい!」
「は!?」
何だそれ。っていうか、ドアを開けろ。顔も見ずに、こんな話をしたくない。
「おい、ここを開けろよ!」
ガチャガチャとドアを鳴らすが、一向に開く気配はない。いつもは開きっぱなしの扉が、拒絶するように閉ざされている。
「もう、わかんないんです! 頭ん中、ぐちゃぐちゃでっ……!」
「風馬っ」
「良いんです、放っておいて下さい。先輩が気にする必要なんか、ないんです」
「何言って――」
「先輩は義理堅いから、気に病むかも知れませんが――本当に、良いんです。俺のこと好きなふりなんか、しなくて良いんです」
「は――?」
何、言ってやがる?
好きな、ふり?
「顔が好きなだけですよね。解ってるんです。俺なんか、好きになって貰えるような部分、ないんです。亜嵐みたいに素直じゃないし、被害妄想激しいし、ダメなヤツなんですよ。だから――放っておいて下さい」
「は……ふ、ざけんな! おい! 風馬!」
ガンガンとドアを叩くが、風馬はもう返事をしなかった。
「おい! 何勝手なこと言ってんだよ! 風馬!」
ドアを叩きすぎて、手が痛い。腹が立って、ドアを蹴る。ガン! 鈍い音が響いた。
「っ、て~……」
痛みに顔を引きつらせ、ドアを睨む。ドラマみたいに蹴破るなんて出来っこない。もう一度ドアを強く殴りつけた。それでも、風馬は反応しなかった。
「くそ……っ、くそ、くそっ!」
胃がむかむかする。何だよ。一方的に言いやがって。勝手に、俺の気持ちを決めやがって。
放っておけってなんだよ。放っておけるかよ。
俺は扉に背を向けると、一回の管理人室に走る。管理人室には共通の鍵があるはずで、マスターキーならば強引に入れるはずだ。だが、管理人は不在で、管理人室も施錠されていた。藤宮を捕まえて鍵のありかを確認したが、管理人が持ち歩いているらしい。使えない!
「解りました」
「おい、鈴木?」
藤宮の声を振り切るように、玄関ドアから外へ出る。夜風が頬に突き刺さる。
俺は寮の裏手に回り、建屋を見上げた。風馬の部屋の明かりは消えている。だが、部屋の中に居るはずだ。
俺は建物の丁度真ん中にある、鋼鉄製の階段を目指した。各階の1号室から8号室までの丁度真ん中あたり。4号室と5号室の間に、非常階段がある。
立ち入り禁止になっている鎖を飛び越え、階段を駆け上がる。三階部分まで上って、304号室を覗き見た。
(さすがに高いな)
地上を見下ろすと、さすがに三階部分なので高くなっている。深呼吸して、息を吐き出した。この非常階段は、非常時に部屋から脱出するために使われる。4号室が丁度、非常階段と接している。
細い足場を渡り、304号室の窓に手を掛ける。足場があるとはいえ、かなり不安定でちょっと怖い。窓の鍵が開いているのを確認し、勢いよく窓を開いた。同時に、転がるように部屋の中に侵入する。
「風馬!!」
「えっ!?」
ベッドに布団をかぶって蹲った状態の風馬に、俺は勢いよくダイブした。
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