38 / 59
三十七 だって
しおりを挟む「美味しかったーっ」
「今日のも美味しかったですけど、バジルのやつも気になりましたね」
「うん。あとピザも気になったな~。また来ようよ」
「ですね」
すっかりお腹いっぱいになって、並んで歩く。当たりの店だったな。まあ、ナンパ客はいたけれど店の落ち度ではないし、風馬がイケメン過ぎるのが悪い。何しろ、世界一イケてるし。宇宙一カッコいいから。
軽くアルコールが入っているので、ふわふわした足取りで夜道を歩く。なんとなく、気持ち良い。
「そういやさっき、レジでなんか言ってたけど?」
「あ――別に、大したことではないですけど……」
バツが悪そうにする風馬に、俺はじとっと顔を覗き込む。コイツ、さては店員にもナンパされたな。店員のお姉さん、なんとなく風馬のことじっと見てたもん。
「ナンパされてたんだろ。連絡先聞かれてたんだろっ」
「教えてませんよ。受け取ってもいませんし……。一太先輩、嫉妬?」
痛いところを突かれ、ぐっと息を詰まらせる。
「違うしっ! 嫉妬じゃないけど!」
「……」
なんだその目は。嫉妬じゃないもん。嫉妬なんかしないもんね。
「だっ、だって、デートなのに……」
俺と風馬はデートなのに。俺と風馬が付き合ってるとは誰も思わないから、そんな真似ができるんだ。俺は風馬と初デートなのに。
あ、なんか、哀しくなってきた。
「先輩」
風馬が顔を近づける。ふに、と唇に柔らかいものが押し当てられて、驚いてビクッと肩を揺らした。
「あ」
ここ、外だけど。公道だけど。そんな言葉を呑み込んで、風馬の唇を受け入れる。触れるだけの優しいキス。それからそっと唇を離して、また塞がれる。今度は、深く。
舌が侵入してくるのを、浅く唇を開けて受け入れる。俺は風馬の背中に腕を回して、ぎゅっと服を握りしめた。舌が熱い。蕩けそうだ。ちゅうと舌を吸われ、ぞくっと背筋が粟立つ。角度を変えて、何度も唇を吸われ、食まれる。膝から力が抜けて腕の中から滑り落ちそうになるのを、風馬が支える。民家の塀に押し付けられ、それでもキスは止まらなかった。
「っ、ん……」
はぁ、吐息を吐き出す。互いに、身体が熱い。風馬が小さく「先輩」と呟いた。
心臓が、ドキドキする。頭が、くらくらする。
「……あんま、可愛いこと言わないで。先輩」
「ふ……ん……、言って、ないし」
「このまま、帰りたくなくなっちゃう」
首筋にキスをされ、ビクッと肩を揺らした。
(ああ、門限……)
門限を破ったことなど一度もないし、門限を不便だと思ったことなど一度もなかった。俺って、真面目だったんだ。
(風馬を受け入れる心の準備なんか、してないのにな……)
いざ「そう」なったら、また拒否してしまいそうなのは解り切っているのに、どうしてか、もっと風馬と触れていたいと思ってしまう。もっとあの唇を味わいたい。素肌に触れて居たい。隙間がないほどピタリと寄り添って、朝まで過ごしたい。そんな欲求が、ムズムズと湧きあがる。
「……しゃーない。帰るか」
「次は、外泊申請しましょ」
「ばか」
風馬の頭を軽く小突いて、手を繋いで夜闇の中を歩きだす。二人とも、クスクス笑い合って、なんとなく、擽ったかった。
11
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる