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二十四 亜嵐の頼み

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 コンビニに到着すると、件の人物はすぐに目についた。コンビニの中に入るわけでもなく、明るい店の前ではなく、人目を避けるように横手の駐車場の端っこにポツリと立っていた。知らなければ不審者にしか見えない。

「こんばんは」

「あ。こんばんは、鈴木先輩」

 にこりと笑みを返して、亜嵐はサングラスを外した。

「なんだか新鮮だな。『こんばんは』って声をかけられるのって」

「え? そう?」

 そんなの、普通のことでは? そう思っていると、亜嵐には普通のことではなかったらしく、肩を竦めて見せた。

「そうなんです。仕事先では『おはようございます』っていうのが多いし、外で声をかけられる時も、挨拶というより呼び止められることが多くて」

「あー……」

 何となく察して、苦笑いする。確かに、芸能人ってそうなのかも。

「それで、ご用は何でしょう? 門限まであまり時間がなくて」

「ああ、そうでしたね!」

 亜嵐はそう言って、ポンと手を叩いた。

「ぶしつけで申し訳ないんですが、実は俺って会社員の経験がないんで――話を風馬に聞きたかったんですけど、嫌がられちゃって」

「あ? そうなの?」

「あまり会社の話をしたくないんですかね。昔から、バイトとかしてもその話とか教えてくれなくて。無理矢理押しかけて行ったりしたから……」

「あー……。まあ、身内に見られんの、嫌なもんですよ。えっと、取材したいってことです?」

「そうなりますね。取材と言っても、ガチで仕事内容を聞くとかいうわけではなくて、休み時間にどんなことしてるとか、どんな話をしてるとか、本当に何気ない日常のことを知りたいんです。その方がリアリティが増すというか……」

「なるほど……」

 ディティールとかそういうものは、細部に出るのだろう。それは解る気がする。栗原亜嵐は思ったよりも真剣に演技に取り組んでいるようだ。

 亜嵐は頷いて、改めて話を聞かせて欲しいのだと懇願してきた。今日は時間がない。話をするのなら改めて、ということになりそうだ。会社の機密を聞かせるわけでもないし、世間話程度なら別に構わない。

「ところで、俺の話は栗原から聞いたの?」

「いえ、名前を呼んでいたので……。済みません、ぶしつけに」

「あー。まあ、良いけどさ。えっと、亜嵐くんは演技もするんだっけ。ドラマかなにか?」

「はい。まだ情報解禁前なので詳しくは言えないんですけど……。自分でもあまりやったことのない感じの役で、戸惑ってまして……。それで、風馬のところに来てみたら、先輩、イメージピッタリだったので」

「え」

 俺にイメージがぴったりって、オタクの役でもやらされるんだろうか? 栗原亜嵐みたいなキラキラしたオタクがいるか。と、言いたいところだが、配役した人には考えがあるのだろう。突っ込まないでおく。

「良いけど、俺は君の先輩じゃないから……」

「あ、そうですね。じゃあ、鈴木さん?」

「うん。じゃあ、どうする? 連絡先交換――は、マズいのかな?」

「いえ、大丈夫です。済みません、本当に」

「良いよ良いよ。俺なんかが役に立つなら、幾らでも」

 どうせ暇だし。そう言いながら、連絡先を交換する。

「じゃあ、またあとで連絡しますので!」

「うん、気を付けてね」

 亜嵐に別れを告げ、俺は寮へと戻って行ったのだった。
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