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二十三 呼び出し
しおりを挟むユムノスの新曲とやらは、思ったよりもカッコよくて良い曲だった。もっとアイドルっぽくて、アイドルらしく下手なのかと思っていたものだが、(偏見)そんなことはなかったようだ。ネットで見る評価も、実力派という部類に入れられているらしく、楽曲の評価が高い。加えて、栗原亜嵐をはじめとする役者もやるメンバーは、総じて演技の方でも評価されていた。
「なるほどねえ」
PVもカッコよかったし、あれだけ人気があるのも頷ける。直近でのライブを調べたら一か月先にあるようだったが、既に完売御礼となっていた。まあ、当然か。
昨日買ったBL本を読みながら、チラリと時計を見る。栗原にもおすすめのBLがいくつか新しく買えたから貸したかったのだが、今日は残業らしくまだ帰ってこない。経理部の栗原は経理の締め切りの時期は大抵残業が多かった。
(遅いなあ……)
今日は顔を見られないかもしれない。なんとなくそれが残念でならなかった。顔なんか、殆ど毎日見ているのに。
気が付けば時計ばかり見ながらボンヤリしていた。いつの間にか時刻は九時を示していて、門限まであと僅かとなっていた。いい加減風呂に入ってしまおうかと思ったその時だ。玄関のチャイムを鳴らす音に視線をそちらに向ける。
「はーい?」
チャイムを鳴らすということは栗原ではないだろう。扉を開くと、寮長の藤宮が立っていた。
「藤宮先輩?」
「ああ、鈴木。お前に電話なんだが」
「電話?」
呼びに来たということは、寮の受付である管理人室に掛かって来たのだろう。一体誰がかけて来たのかと思えば、藤宮は意外な人物の名を口にする。
「栗原の声だったぞ。何かあったなら言ってくれ」
「あ、はい……」
(え? 栗原が?)
違和感を抱きつつ、管理人室のある一階へと降りていく。栗原なら普通はスマートフォンに掛けて来るはずだ。寮に掛けて来るなんて、どうしたんだろうか。
(それに、残業のはずだし……)
残業中に寮に電話する理由が思い当たらず、首を傾げながら管理人室に入り、保留になっている受話器を手に取った。
「もしもし? 栗原?」
『あ――鈴木センパイ?』
電話口から聞こえて来た声に、俺は眉を寄せた。栗原の声――では、ない。
「……えっと……。もしかして、亜嵐くん?」
『え? 俺だって解りました? 凄いなー。親でも解らないのに』
「まあ……」
曖昧に返事をしつつ、困惑して眉を寄せる。何故、栗原亜嵐が、俺に電話を掛けて来るのだろうか。理由などまるで思い当たらず、まして先日一瞬遭遇しただけの相手だ。
(俺の名前、知ってんだな……)
栗原が教えてあげたんだろうか。あの時はろくに紹介らしい紹介もしてくれなかったと思うが。
「えっと、俺に何か用?」
『近くのコンビニに居るんですけど、少し会えませんか?』
「――良いけど」
チラリ、時計を見る。まだ、門限までは時間がある。コンビニくらいなら往復しても間に合うだろう。
「良いけど、門限があるから、少しだけだけど」
『十分です! ありがとうございます!』
一体なんの用事があるのだろうか。アイドルが一般人に逢いたい理由が全く思い浮かばず、俺は首を傾げながら玄関扉から外へ出て行った。
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