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二十二 久しぶりに腐男子を満喫するぞっ!

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「やっぱBLは良いわ~」

 お気に入りの本を読み終え、ホゥと息を吐く。ここのところ邪念ばかりでBLの接種をおろそかにしてたから、良からぬ妄想をしちゃうんだ。あんなの、後輩に感じてたらセクハラだからね。本当に最近の俺、調子乗りすぎ。

「読み返すのも良いけど、新刊も欲しいよな~。そろそろまた本屋さんに行こうかしら」

 前回は栗原と一緒に行ったが、今度は一人でゆっくり行きたいものだ。

(最近は妄想もあんまりはかどらなくて、サイトも更新できてなかったな~)

 俺の妄想だだもれ小説は、一週間ほど更新がストップしていた。それもこれも、栗原とアレしたりコレしたりしているせいである。

「やはりここは、新たなる萌えを開拓せねばなっ!」

 そうと決まれば早いのである。思いついたら即行動するのがオタクの良いところ。明日は仕事が終わったら、寮に帰らずまっすぐブクメイトに行くんだもんね!



 ◆   ◆   ◆



 というわけで、有言実行の男。無事ブクメイトに到着である。平日の夜はあまり人が多くない。閉店になる前にさっさと本を見繕って、どこかでご飯でも食べて帰るとしよう。

「えーと……」

(お。これ良さげ。表紙買いっと。お。橘せんせーの新刊! これも買いっと)

 次々と本を手に、ホクホクしながら俺はレジの方へと向かった。いつの間にか会社帰りと思われるお姉さんたちが並んでいて、後ろの方に並ぶ。予約注文をしているのか、レジの進みは緩やかだ。グッズコーナーやCDコーナーまで伸びた列の後ろの方で、手持ち無沙汰に周囲を眺める。俺は漫画派だからあまりアニメやゲームを観ないのだが、こうやってグッズを見ていると何が人気なのかがよくわかる。タイトルとキャラクターだけは知っているグッズを眺めながら、CDコーナーの横に並んだ時だった。

 新譜のコーナーに、見覚えのある顔を見つけて、思わず手を伸ばす。

(ユムノスの新譜だ――ああ、アニメのエンディングテーマなのか)

 どうやら、人気アニメのエンディングテーマを担当しているらしく、アニメ版ジャケットと実写版ジャケットの二種類が置いてある。栗原によく似た青年がこちらを見て微笑んでいるのを見て、一枚くらい買ってみるかと、手にしていた本の上にCDを積み上げた。

(握手券付きか……。好きな人が居れば渡すんだけど、さすがに寮にユムノスファンなんて居ないよな)

 しかし、先日実物に会ったんだという実感がわかないな。会ったって言っても本当に掠めただけだし。メチャクチャイケメンでびっくりしたけど。

(……あんまり、べたべたと仲の良い兄弟じゃないんだな)

 まあ、そりゃそうか。俺だって弟とは別に一緒に出掛けたりしないし。腐男子であることを「気持ち悪っ」とか言われるし。まあ、多分そんな弟を「そういうタイプが逆に攻めにやられちゃうんだよ~」とか言ってるのが悪いんだけども。(悪い兄である)男兄弟なんて、そんなものだろう。

 その後、列は徐々にはけて行き、俺はユムノスの特典ポスターを貰って、ブクメイトを後にした。



 ◆   ◆   ◆



 寮に帰ると、ラウンジのところに栗原たちが談笑していた。どうやら栗原、岩崎、須藤の同期三人でトランプをやっていたらしい。

「あ、鈴木先輩。お帰りなさい」

「お帰りなさい~」

「ただいま~」

「飯食って来たの?」

「うん。駅前のラーメン屋」

 呼びかけられ、三人の方へ歩いていく。「美味しい?」と須藤に聞かれ「タンメンが美味しいんだ」と返した。

「ししょーもやろう。頭数足りない」

「うん。良いよ。今日は鮎川先輩いないの?」

「出張だって」

 ああ、なるほど。それで岩崎の相手をしていたのか。俺は出張は殆どない職場だが、鮎川は営業部なので比較的出張が多い。特に東北エリアを担当しているから、北に行くことが多かったはずだ。

「お土産あるかな」

「頼んどく」

 誘われるままに栗原の隣に腰かける。すぐに須藤がカードを切って配ってくれた。

「ん? 先輩、ブクメイト行って来たの?」

「あ? うん」

 袋を見て気が付いたのか、栗原がそう言った。袋から特典で貰ったポスターが覗いている。

「何それ。ポスター?」

 首を傾げる岩崎に、俺は「そうそう」と言いながらポスターを拡げた。ポスターなどを飾る方ではないのだが、栗原によく似た亜嵐のポスターだし、飾ってみようか。

「これ」

 ポスターを拡げて見せる。岩崎と須藤が「おおー」と反応する。

「――っ」

 栗原が手元に置いていたコーヒーの紙カップを倒した。

「あっ」

「あ、大丈夫?」

「――ごめん、ビックリして……」

「ああー」

 いきなり兄の顔が出てきたら、そりゃびっくりするか。なんだか悪かったな。

 須藤が持ってきた布巾でテーブルを拭く栗原の横顔は、どこかいつもよりぎこちなかった。

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