上 下
17 / 59

十六 二人の境界線

しおりを挟む

「まるは先生の作品……」

 まるは先生とは『合コンでイケメンにお持ち帰りされちゃいました』。通称『コン持ち』の作者様である。まるは先生の別レーベルの作品があると知って、通販したのだ。

(過激という噂で、気になっていたが手を出していなかった激ラブ男子コミック……!)

『コン持ち』も結構過激だと思うのに、こちらはれっきとしたR18指定コミックである。つまりそれ以上に過激。何ということでしょう。

「ついにっ、手に入れてしまった……!」

 表紙からしていやらしい。エッチな雰囲気がするぅ。いやいや、大事なのはストーリー。まるは先生の会話劇とキャラクター作りは本当に天才的! これも絶対に面白いヤツ!

 床に正座して、本を目の前におく。心構えはバッチリである。

「……」

 パラ。ちょっと捲ってみる。

(いきなりエッチなヤツ――っ!!)

 ページを捲ったらいきなりドーンとエッチシーンだった。(レーベルによっては冒頭にエッチシーンが必ず入るのだ!)うわわ。

 数多くのBLを見てきて、結構深い沼に入っていたと思ったけど。

「こ、これはエッチだな……」

 ごくり。いやはや、過激だぜ。

 ドキドキしながらページをそろりと捲る。うわぁ、かなり、これは……。

 と、ついつい没頭して読み耽ってしまう。まるは先生の漫画は読み始めると止まらないぜ。

 しばらくそうやって、ページを捲り、前に戻り、右往左往しながら読みふけっていた時だった。

「せんぱーい」

「きゃーーーっ!!」

 驚いて本を放り投げてしまう。放物線を描いて落下する本を、栗原がパシッと受け取った。

「あっ、危なかった……! サンキュー。折れてない?」

「大丈夫ですけど――」

 栗原がチラリと俺を見る。次いで、漫画本に視線をやった。

「鈴木先輩、顔真っ赤ですね」

「う。うるさいわい。ほら、返して」

 表紙もだいぶエッチだったけど、まだセーフだ。既に栗原はBL漫画を知っているからな。しかし、本のせいでドキドキしてるってのに、栗原のやつまた驚かせやがって。余計に心臓がバクバク言っている。

「……先輩、なんか可愛いね?」

「はっ!?」

 栗原が手を伸ばしかけて、止めた。

「触って良い?」

「え、なん」

 するり、頬を指の背で撫でられ、ビクッと肩を揺らす。

「もしかして、少しエッチな気分になってる?」

「は……あっ!?」

 どくん。心臓がひっくり返るかと思うような衝撃が、胸を貫く。指摘されて、自分でもそうなのだと気づいた。ドクドクと、心臓が鳴る。

「揶揄うつもりはなくて――ただ、いつもより、可愛いから」

「な、に言」

 パクパクと、金魚みたいに口を動かす。揶揄うつもりはないと言いながら、そんなことをいうなんて、揶揄っているようにしか見えない。ここのところ栗原の発言は、ちっとも信用出来なかった。

「先輩……」

 ハァ、と栗原が吐息を吐き出す。何故なのか、栗原もいつの間にか顔が赤かった。栗原の手が俺の手を掴んだ。何をする。そう言って振りほどこうとするよりも早く、栗原の下腹部に手を導かれる。

「え」

 ゴリっと、硬いものを感じて、驚いてびくりと肩を揺らした。

「俺も、エッチな気分になっちゃいました」

「――」

 ぞく、背筋が粟立つ。栗原の瞳が、じっと俺を見る。多分、俺の顔は真っ赤で、唇が震えていた。栗原が何を言いたいのか、解っていた。先日のように、互いに触れ合いたいと言うのだろう。ドク、ドク、ドク。心臓が耳の中にあるみたいだ。鼓動が大きすぎて、栗原の声があまり聞こえない。

「……先輩が嫌なら……」

 俺が嫌なら。俺が嫌なら、他の誰かとするのだろうか。栗原にとっては、「普通」のことらしい。

「っ……嫌、って、言ったら……誰か、他のヤツ、探すの……?」

 何故そんなことを聴いてしまったのか、自分でもよく分からない。栗原のシャツを掴んで、無意識に引き留める。他の誰かと、触れ合う栗原を想像して、酷く胸が痛んだ。

「そんなわけ……いや、そうかも。……先輩、どうする?」

 栗原が瞳を細める。熱っぽい瞳は、どこか獰猛で、狙いを定める肉食獣のようだった。

「――っ、お前、と……一番、仲良いのは……俺だろっ……」

 絞り出した返事に、栗原は惚れ惚れするような笑みを返した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件

水野七緒
BL
一見チャラそうだけど、根はマジメな男子高校生・星井夏樹。 そんな彼が、ある日、現代とよく似た「別の世界(パラレルワールド)」の夏樹と入れ替わることに。 この世界の夏樹は、浮気性な上に「妹の彼氏」とお付き合いしているようで…? ※終わり方が2種類あります。9話目から分岐します。※続編「目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件」連載中です(2022.8.14)

転生した先のBLゲームの学園で私は何をすればいい?

赤蜻蛉
BL
※分かりづらいので、作品紹介文を変えました。 腐女子がこれからプレイするはずだったBLゲームの世界の中で、モブ男子に転生し腐男子ライフを思いっきり楽しむはずが、なぜか攻略者達に追いかけられ迫られ転がされ・・・・BLライフをリアルでしてしまうのか!?という、簡単に言うとこんな内容です。 元女子部分は途中からほとんど出てきませんが、興味を持てましたらどうぞよろしくお願いします! BLラブは、わりとありますがどこまで全年齢対応で大丈夫なのか挑戦中です。

俺のパンツが消えた

ルルオカ
BL
名門の水泳部の更衣室でパンツが消えた? パンツが消えてから、それまで、ほとんど顔を合わせたことがなかった、水泳部のエースと、「ミカケダオシカナヅチ」があだ名の水泳部員が、関係を深めて、すったもんだ青春するBL小説。 百九十の長身でカナヅチな部員×小柄な名門水泳部エース。パンツが消えるだけあって、コメディなR15です。 おまけの「俺のパンツが跳んだ」を吸収しました。

気弱な暴君~ヤンキー新入社員、憧れの暴走族の元総長にエッチなお仕置きされてます~

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
新入社員である岩崎は、今年から夕暮れ寮に入寮したピンク色の髪が特徴の青年だ。 岩崎はひょんなことから仲良くなった『仏の鮎川』と呼ばれる男を見る度に、何か妙な違和感を抱いていた。 ある時、岩崎は鮎川が、かつて自分が憧れていた暴走族『死者の行列』の総長だと気が付いて、過去を知られたくない鮎川にエッチな口封じをされてしまって――! 元暴走族総長×ピンク髪ヤンキーのちょっとエッチなラブコメディ 夕暮れ寮シリーズ 第四弾。

えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回

朝井染両
BL
タイトルのままです。 男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。 続き御座います。 『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。 本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。 前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川パナ
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

処理中です...