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十二 後輩の押しが強すぎる件

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 合コンも風俗も断っていた俺だが、これは断りきれなかった。自室の床に本を置いて、腕を組む。

『俺の最推し女優の引退だぞ!? お前も漫画ばっかみてないで、たまにはこういうのもみろ!』

 と、吉田が強引に渡してきたのは、件のセクシー女優の引退記念写真集である。表紙には清純派っぽい雰囲気の、黒髪ボブ女の子が、下着姿で写っていた。序盤は下着や水着、後半になるにつれてセクシーコスプレやらヌードやらで疑似プレイを表現した、R18な写真集である。

 本を借りるくらいなら、実害は少ない。それで吉田が満足するなら良いだろう。まあ、学生でもないのに、こういうネタを回すのってどうかと思うけど。

 とはいえ、借りてしまったのだから仕方ない。と、半ば言い訳をして、おもむろに写真集の前で正座する。吉田が好きな女優さんとあって、結構可愛い。アイツも面食いである。

(なんか、こういうの久し振り過ぎて、なんか照れるな……)

 俺も人並みに性欲はある方だと思うが、普段BLから萌えをチャージしているせいか、昔ほど欲求が強くない。最近はそういう気分になったら、動画サイトでチョロっと動画を見ながら、というのがパターンである。

 時刻は二十三時。すでに門限は過ぎていて、さすがに寮内も静かだ。準備は整っている。

「どれどれ……」

 ペラリ、ページを捲る。華奢な身体に不釣り合いな放漫な胸が、ブラジャーからこぼれ落ちそうにたわわに実っている。カメラ目線でどこか熱っぽい表情をした女性の姿に、腹の辺りに緊張感が渦巻く。

「なかなか、レベル高いな……」

 さすがは吉田の推しである。笑ったときに八重歯が見えるのが可愛いかもしれない。

(なるほど。この子が引退か。まあ、悲しくなる気持ちも解らんでもない)

 何枚か写真を捲るうちに、俺の方もその気になってくる。部屋着にしているジャージを太股まで下ろし、パンツに手を突っ込む。

「……っ」

 淫らなポーズで誘う女性が、写真の中で桃を手に舌を伸ばしている。甘い桃の香りが、不意に思考を過った。

『ネクタリンです。良いでしょ?』

 ドキリ、心臓が脈打つ。思い出したのは、桃ではなく、栗原の香水だ。それじゃない。慌てて首を振り思考を変える。

 ふわり、鼻腔を甘い香りが擽る。桃の香りがどんなものなのか、思い出せそうで出せない。

「っ……」

 短く息を吐いて、視線を写真集に向ける。可愛い女の子だ。そうだ。間違ってはいけない。

 パンツをずらして、軽く勃ちあがった性器を取り出す。写真集を前に立ち膝になって、軽く性器を扱く。汚さないように気を付けながら、くちくちと弄くる。

「……は、……っ」

 短く息を吐き、声を殺して自慰するのは、緊張感がある。壁一枚向こうには、慣れ親しんだ顔がある。吐息を気づかれるほど薄いはずはないのだが、どうしても気配は気になる。寮でするのは、少しドキドキした。

 完勃ちした性器を見下ろし、吐息を吐いた時だった。

 ガチャン。ドアの方から聞こえた音に、ビクンと肩が揺れる。

「先輩ーっ。コレ、続きあるヤツ?」

「――っ!」

 もはや勝手に部屋に入るのが当たり前と化している栗原が、突如乱入してきた。

 驚いて、真っ赤な顔で固まる俺に、栗原が首をかしげる。

「? 先輩?」

「っ――!!!」

 声にならない声を上げ、慌てて下半身を隠そうと前屈みになる。最悪だ。

「あ」

 全てを察したらしい栗原を、涙目で見上げる。恥ずかしくて死にそう。というか、死にたい。

「お、おま、おま」

 言葉にならない声を発する俺に、栗原が苦笑する。

「先輩、お尻隠れてないです」

「――っ!」

 慌てて手で尻を隠す。早く、帰って。

 パクパクと口を動かす俺に、栗原はドアの方に向かった。ホッとしたのもつかの間。ガチャン。施錠する音とともに、何故か栗原が部屋の中に戻ってきた。

「ほ……っ、ほわい?」

「鍵、掛けた方が良いかも」

「っ、っ、わ、解ってるわっ!」

 今、心底、後悔した所だよっ!

 で、なんでお前は部屋に残ってんだ。そうじゃないだろ。お前は外に出るんだよ。

 動揺しながらも下半身を隠す俺に、栗原が近づいてくる。

「???」

 戸惑う俺の目の前から、床に置いた写真集を拾い上げた。

「あれ、BLじゃないんだ?」

「バカかお前は! んなわけないだろ!」

 なんてこと言うんだ。

 俺ははずかしいのを堪えながら、先輩らしく冷静に、諭すように口を開く。

「い、良いか、栗原。他人のこういう事情を、知ろうとしちゃダメだ」

「んー。それはそうですけど……。でも、知りたい場合は仕方がないじゃないですか」

「知りたい場合ってなんだよっ。もう良いから早く出てい――」

「こういう女の子が好みなんですか?」

 人の話を聞かないな、お前は。

「別に、そういう訳じゃ……。って、この話は後! 早く」

 本当に残念ながら、この状況なのに萎えない自分に腹が立つ。早いところ処理してしまいたい。後の事は明日の俺が考えるだろう。どんな顔して会おうかとか、そういうのは今は気にしていられないのだ。

「栗原、困るから……っ」

 はぁ、と息を吐いてそう言うと、栗原はグッと息を詰まらせ視線を逸らした。

「鈴木先輩」

「あ、ん?」

「寮ってこういうの、困りますよね」

 今、絶賛困ってるわ。同意のため、頷く。

「俺も、溜まってるんです」

「……」

 それとこれに、なんの因果があると言うのだ。気持ちは解るが、状況と結びつかない。

「一緒に良いですか?」

「……」

 なにを言われたのか解らず、思考停止する。ん? なんだって?

「はい? え? ちょ? なに言って……」

「この際だし、良いでしょ?」

「いやいやいやいや、連れションじゃねーんだよ。なにいってんだよ!?」

 一緒って、どういうことだよ!?

「なんなら、手伝いますから」

「は」

 栗原が手を伸ばすのを、止められなかった。

 グッと握り込まれ、ビクッと肩を揺らす。他人の手に触れられる快感に、背筋がゾクッと粟立った。

「あ、っ、栗――っ……!」

 慌てて栗原の手首を掴む。何をしている。何をしている!

「おっ、お前なっ……!」

「ああ、もうガチガチだ」

「っ、栗原――っ」

 引きはがそうとしているのだが、ちっとも剥がせない。手の甲に爪を立てた俺の手を、栗原がもう一方の手でつかみ取る。

「先輩、暴れないで」

「おっ、おま、おま」

「先輩も、触って良いですよ」

 そう言って、俺の手を栗原の下半身へと導く。ドクン、心臓が鳴った。固まった俺に、栗原は薄く笑ってスラックスのファスナーを下して下着の中へと手を導く。

「っ、栗」

 頭の中が、戸惑いと羞恥心と、好奇心と興奮で、ぐちゃぐちゃだった。

 正直に言えば、栗原のを見てみたいという好奇心は十分にある。イケメンの勃起した姿なんて、生で観られるもんじゃないし。けど、この状況が。

(頭、おかしくなるっ……!)

 手の中に、暖かいものがある。栗原のだ。少しずつ硬度を増して、大きく膨らんでいる。チラリと、視線を向ける。堂々と見ていいと言われている状況で、見ない選択肢なんかないのだが、同時に自分のも見られている。どうすりゃいいんだ、この状況。

「く、栗原……っ、ま」

「ここ、良いですか? 先っぽのほうが好き?」

「っ……し、知らんっ……」

 ぐちぐちと性器を弄られ、息が荒くなる。栗原の長い指が俺のに絡みついて、淫靡に動いている。どうにかなりそう。

「はっ……、あ……」

「……先輩、Tシャツ、これ」

「あ?」

 俺のTシャツの裾を捲って、唇の方へ持ってくる。

「……風馬くん?」

「これ、咥えてて」

「ばっ、馬鹿かっ、お前はっ!」

「だって、見えないじゃないですか」

「見んで良いわっ!!」

 真っ赤になって叫ぶ俺に、栗原は挑発的な笑みを浮かべて、自身の性器を見せつけて来た。

「でも先輩も、見たいでしょ?」

「――ぅ」

 見たい。見たいけど。

「やっ! ダメッ!」

「……残念」

 何が残念だ。大体、俺のを見て何が楽しいんだよ。さりげなくTシャツで隠すが、視線がどこを見ているのか解るだけに居たたまれない気持ちになる。見るなよ。本当に。

「ん……先輩……」

 栗原の甘い吐息が頬に掛かる。思ったよりも顔が近くて、ドキリと心臓が鳴る。何だかすごく、悪いことをしている気分だ。まつ毛、長い。唇の形が綺麗だ。肌も綺麗だし、全部のパーツが整っている。

 視線を下にやり、栗原の勃起した性器を見下ろす。イケメンも勃起するんだな。しかも、俺の手で。なんかそう考えたら、すごいヤバいことしてるな。何この状況。

 見ているのを揶揄するように、グリっと先端を擦られる。口から勝手に甘い声が漏れ出た。

「あ、っん……」

「先輩……」

 栗原が腰を引き寄せ、性器を押し付けて来る。互いの性器が擦れて、粘液が混ざり合った。ヤバイ。栗原のを、俺ので、触ってる。視覚の暴力に、眩暈がした。

「っ――くり、はらっ……」

「先輩、一緒に、イこ」

「あ、っ……ん! こ、これ、ちょっと……」

「……嫌?」

 逃げ腰になる俺に、栗原が不安そうに顔を覗き込んでくる。うう、顔が良すぎる。

「え、えっち過ぎるって……!」

 ビクッと身体が震える。栗原は自身の性器と俺の性器を両手で握って、そのまま上下に扱き始めた。ゾクゾクと、快感が背筋を駆け抜ける。射精の前兆に、栗原の肩をぎゅっと掴んだ。

 栗原の前で射精するのは死ぬほど恥ずかしかったけれど、反射作用である射精を止めようがなく、なすすべなく互いの手と性器に精液を吐き出す。精を吐き出したばかりの性器に、ビクビクッと震えが伝わった。――栗原も、イったらしい。

「――くっ、んっ……!」

「っ……」

 短く息を吐いて、栗原が俺の肩に寄り掛かった。首筋から、甘いネクタリンの香りがする。ずしりとした身体の重みに、俺はガクッと膝が崩れ落ちる。そのまま床に倒されそうになるのを、グッと堪えて栗原の肩を押した。

「お、重いっ……」

「良かった――? 先輩」

 問いかけに、グッと息を詰まらせる。栗原が顔をあげて俺の顔を覗き込む。栗原の頬はバラ色に染まっていて、いつもよりもずっと綺麗な顔をしていた。

「っ……」

 無言で唇を結んだ俺に、栗原が耳元に唇を寄せる。

「一人でするより、良かったでしょ?」

「……っ、あの、なあっ」

 射精したせいで急に冷静になって、なんでこんなことをしたのかと後悔が押し寄せる。

(栗原に……! イかされた……!!)

 栗原のを触ってしまったこととか、触られたこととか、見られたこととか、イかされたこととか。多少のパニックに陥っている俺に、栗原は鼻を鳴らして乱れた服を整える。

「そんなに気にしなくても、普通のことですよ」

「んなわけ、あるかっ……!」

「男子寮ですよ? 普通ですって」

(そんなバカな?)

 そんな、BL漫画じゃあるまいに。そう思っていたのに、栗原があまりにも平然としているので自信が無くなってくる。

「え? そういうもん?」

「そうですよ。まあ、よほど仲が良くなきゃやらないでしょうけど。俺と鈴木先輩は、問題なく仲が良いでしょ?」

「――そう、なんだ?」

「そうですよ」

 ニッコリと笑って栗原がそう言い切るので、俺は納得しなかったが頷くしかなかった。まあ、否定したところで、事実は消えないし。その方が俺も楽だったからな。



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