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八 可愛い後輩
しおりを挟むひとまずアカウントについては「まだ早い」で押しきった。後輩力怖い。負けそう。
「ふーっ、まあでも、ちゃんと本は買えたし」
机に買ってきた戦利品を積み上げ、フフフと笑う。今でも本棚は一杯なのに、どこに置くんだという問題はともかく、新刊である。早く読みたい!
ニマニマしながら表紙を眺めていると、スマートフォンの通知音が鳴った。
「ん? 栗原だ」
栗原とは先ほど部屋の前で別れたばかりである。俺の部屋は寮の303号室。栗原の部屋は304号室で、すぐ隣だ。
画面を開くと、通話アプリのグループチャットに写真を投稿したようだった。俺と栗原、それから栗原の同期でもあり、俺とも仲が良い岩崎崇弥の三人が使っているグループチャットだ。
栗原が投稿したパンケーキの写真に、『鈴木先輩と行ってきた』と添えられている。
(あらやだ。岩崎くんに報告してる。可愛い)
どうやら、岩崎に遊びに行ったことを報告しているようだ。栗原も可愛げがある後輩だ。岩崎がチャットに気づいて反応する。
『ししょーとデートだったの?』
ピンク色の犬のスタンプと共に、そう投げてくる。『ししょー』というのは、岩崎が呼ぶ俺のことだ。『支障』ではない。『師匠』である。
岩崎は俺の妄想ではなく、リアルに同じ寮に住む鮎川寛治と付き合っているのだが、以前ギクシャクしたときにBL本の知識を総動員してアドバイスしたら上手く行ったらしく、それ以来、俺を師匠と呼んでくる可愛いヤツである。
『そう。鮎川先輩甘いもの好きでしょ。行ってきたら?』
『やだ』
パンケーキが恥ずかしいのか、岩崎がそう返信する。可愛いなあ、この二人のやり取り。
後輩二人のやり取りを眺めているのが楽しくて仕方がない。岩崎は見た目はピンク色の髪をしたヤンキーだが、可愛いスタンプを多用する。栗原の方はスタンプはほとんど使用しない。その代わり、映える写真が多かった。
(しかし、デートかあ)
本屋に行っただけだけど。カフェはおしゃれでデートにでも使うような店だった。客は女性客ばっかりだったから、実際にはデートよりも女子会みたいな集まりが多いのかも知れないが。
イケメンとパンケーキを食うという、罪深い行為をしてしまったぜ。後輩じゃなきゃ刺されるところだ。
ニヨニヨと画面を眺めていると、いつの間にか会話が終わっていた。一言も発言せずに見守ってしまった。観察癖がついている。
「じゃあ、さっそく戦利品の確認を……」
スマートフォンを机の端に置き、気を取り直したところで、部屋の扉がガチャリと開いた。
「鈴木先輩ーっ。お風呂行きましょー」
「うわっ」
ノックもせずに現れた栗原に、ビクッと身体を跳ねらせる。栗原は片手にお風呂セットを手にして、部屋の中に入って来た。
「ビックリしたなあ。ノックかチャイムしてよ」
「だって先輩、鍵掛けないし」
「寮内でかけるの面倒じゃん」
玄関は誰もが出入りできる訳じゃないし、夜間は施錠される。部屋まで鍵はいらない派である。貴重品? 盗む人居ないよ。
ちなみに、施錠しない派は割りと居るのだ。この栗原も、口ではそう言うが、施錠していない。多分、俺の影響。
「それより、早くお風呂行きましょ」
「ええーっ。俺、今から戦利品確認するんだもん。一人で行ってよ。それか岩崎くん誘って」
「そんなの後で良いじゃないですか。どうせちょっとだけって言って、没頭してボイラー落ちるまで読むんでしょ」
「行動を読まないで?」
図星過ぎて反論出来ない。俺のことだから一冊だけと思って、気がついたら二冊、三冊と遅い時間まで読みふけってしまうに違いない。
「明日も休みじゃんー。お風呂入らなくても死なないって」
「だーめーでーす。この前もシャワーにして冷えて風邪ひいてたじゃないですか」
「うっ。でもぉー」
「でもじゃありません」
「お母さん厳しい」
「はいはい」
ちぇ。まあ、中断するより、さきに行った方が良いか。せっかく誘いに来てくれたんだし。
諦めて立ち上がり、風呂セットを取ろうと思ったら、すでに栗原が持っていた。本当に、気が利く後輩だよ。
「今の時間混むのに……」
「鈴木先輩、ホラ、歩いて歩いて」
「押すなーっ」
背中を押されるようにして、俺は大浴場へと連行されたのだった。
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