モブ男子は寮内観察がしたいのです!~腐男子モブはイケメン後輩に翻弄されてます~

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO

文字の大きさ
上 下
6 / 59

五話 まだ早い。

しおりを挟む


 ブクメイトが入っているビルは、駅前のすぐ側にある。なにしろ昔は百貨店だった。俺は栗原を連れて、駅前のロータリーエリアを歩く。

 駅前は学生や休日の買い物客で賑わっている。俺は人混みを歩きながら、栗原のことを甘く見ていたのだと実感した。

「ねぇ、あの人……」

「え、うそ」

「亜嵐くん?」

 栗原を見るなり、駅前が俄にざわめく。原因は、駅前にもポスターが貼られているが(洗顔料のCMだ)、栗原がアイドルグループ『ユムノス』の栗原亜嵐の弟で、顔立ちが似ているからだ。

(そんなに似てないと思うんだけどなあ)

 確かに、兄弟だし良く似ているけど、同一人物だと誤解するほど似ているだろうか。俺からすれば、栗原亜嵐は確かにイケメンだけど、やっぱりアイドル特有の、なにを考えているかわからない、どこか作った笑顔に見える。

 一方、栗原の方は、親しい後輩だし、一緒の寮に暮らす仲間だ。微細な表情の変化も知っているし、ずっと間近で見てきただけに、栗原の方が笑顔が素敵だと思える。

「なんか、すみません。鈴木先輩」

「お前が気にすることじゃないだろ」

 そう返事をしたが、栗原は「眼鏡かけてくれば良かったかな」と唸っている。眼鏡男子はそりゃ、俺だって好きだけど。(そうじゃない)

(何だかなあ)

 兄のために栗原が我慢するのは、違う気がする。

 悶々としながら歩いていると、チラチラとこちらを見ていた女子高生らしい一団が、近づいてくるのが見えた。鞄に黄色いリボンがくっついているのを見るに、『ユムノスの栗原亜嵐』のファンなのだろう。

「あ、あの~……」

 期待を込めた瞳で近づく少女たちに、俺は思わず顔をしかめた。彼女たちが悪い訳じゃない。けど、勝手に期待をして、勝手にガッカリして、栗原が傷つくのは違う。

 俺はわざと栗原の手を掴んで、周囲に聞こえるように言いながら腕を引っ張った。

風馬・・、そっちじゃなくてこっち。早く行こうぜ」

「――!」

 栗原は驚いた顔をしたが、次の瞬間には蕩けるような笑みで「はい、先輩」と返事をした。

「え? 人違い?」

「風馬って言った?」

 少女たちは別人だと気がついたのか、誤魔化すように視線をそらす。まだ信じきっていないのか、時折チクチクと視線を感じるが、声をかけてくることはなかった。

「鈴木先輩、ありがとう」

「良いって。お前も大変だな」

「まあ――慣れました」

 そうか、そりゃ大変だ。慣れるほどか。

 顔をしかめる俺に、栗原はフフと笑う。軽やかな笑みだ。

「そんなに似てないと思うけど」

「先輩くらいですよ、そう言うの。親も間違えますもん」

「え。マジで?」

「まあ。一応、二卵性なんですけどね……」

「え」

 二卵性という言葉に、ギョッとして振り返った。二卵性? 二卵性双生児ってやつ?

「双子なのっ!?」

「そうですよ。だから兄って言っても、感覚は友達っぽいです」

「はひゃー」

 まさかの双子だったとは。栗原、設定強すぎない?

「昔からよく似てるって、間違えられるんで、夕暮れ寮は気楽なんです。あんまり、亜嵐に興味がある人が居ないみたいで」

「ユムノスは女性ファンが多い印象だもんね」

「そうなんです」

『ユムノス』のことは一応知っているけど、俺はそんなに詳しくない。メンバー全員のフルネームを言えるか怪しいし、顔を見ても「ああ、この子もこのグループだったかー」って感じになるくらいの知識。さすがにCMに出ている子も多いから、顔は見たことがあるし、曲も何曲か聴いたことはあるっていう程度だ。

「外出の度にこんな感じじゃ、ちょっと大変だな」

「モテてるの俺じゃないですしね」

 それ、悲しいな。

「俺は栗原くんが好きだからねっ?」

 俺の推しは栗原風馬の方なんだから。ぷんすか。

「――ありがとうございます」

 ふわり、笑う栗原の笑みに、キュンと心臓が鳴った。イケメンの笑顔、破壊力有りすぎ。

 俺の後輩が眩しすぎる件。

「そう言えば先輩、俺のこと、風馬で良いですよ?」

「えっ」

 先ほどは状況が状況だったから、わざと風馬と呼んだけれど、それはちょっとハードルが高すぎる気がする。

「だ、ダメだよ。そんなの、俺、調子乗っちゃいそうだし」

「別に、良いですけど」

「ダメダメ。物事には、順番ってものが……」

 俺の言葉に、栗原は「ふむ」と首をかしげる。なんだか、どんな姿も様になる。

「段取りが大事ってことですね。じゃあ、栗原で良いですよ」

 うん、それなら。

「ん、解った。あんまり先輩風ふかすようだったら、ちゃんと言ってね。俺、こういうの不馴れだから、距離感解らなくて」

「鈴木先輩は大丈夫ですよ」

 そんなに全幅の信頼を置かれても困るんだがね。俺はそんなに真人間じゃないし、なんなら、欲望のままに男子たちをカップリングしているヤバいやつだし。

(こんなに信頼してくれてるんだから、栗原のカップリング相手は真剣に考えよう)

 考えないという選択はないのである。だってこんなイケメン、カップリング妄想しないなんてあり得ないもんね。

 一時期は同期の須藤雅あたりが良いんじゃないかと思っていたけど、雑にカップリングするのは良くないよね。今のところ栗原が仲良しなのは、同期の岩崎と、須藤だ。寮の外のことは、あまりよく知らない。

「ちなみに栗原は好みのタイプって?」

「急っすね。まあ――可愛い感じの子が好きですけど。AMINIの三咲れいなちゃんとか」

「あ、男の子のタイプで」

「何でですか」

 怪訝な顔をする栗原に、俺はアハハと笑った。好きな男の子のタイプは、教えてくれなかった。








 



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

ふつつかものですが鬼上司に溺愛されてます

松本尚生
BL
「お早うございます!」 「何だ、その斬新な髪型は!」 翔太の席の向こうから鋭い声が飛んできた。係長の西川行人だ。 慌てん坊でうっかりミスの多い「俺」は、今日も時間ギリギリに職場に滑り込むと、寝グセが跳ねているのを鬼上司に厳しく叱責されてーー。新人営業をビシビシしごき倒す係長は、ひと足先に事務所を出ると、俺の部屋で飯を作って俺の帰りを待っている。鬼上司に甘々に溺愛される日々。「俺」は幸せになれるのか!? 俺―翔太と、鬼上司―ユキさんと、彼らを取り巻くクセの強い面々。斜陽企業の生き残りを賭けて駆け回る、「俺」たちの働きぶりにも注目してください。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...