3 / 59
二 アイスクリームを一口
しおりを挟む「俺、チョコレートとピスタチオのヤツ」
「なにそれオシャレ。俺は何にしようかなー」
寮近くにあるコンビニエンスストアにやって来た俺たちは、さっそくアイスの冷蔵庫に張り付いている。寮には冷蔵庫はあるものの、共用だから持っていかれることもある。だから基本的に、欲しいものがある時は都度、買いに行くのだ。寮の近くは高校と民家があるばかりだが、通りに出るとコンビニくらいはあるので助かっている。
「やっぱバニラが鉄板なんだけど、抹茶も美味しいよね。限定のも気になるー」
「鈴木先輩、ちょっと保守的ですよね」
「冒険出来ない自分が悔しいっ。でも定番選んじゃうー」
迷いに迷って、結局、抹茶味を掴んで、ショコラピスタチオと一緒に会計を済ませる。
コンビニを出ると日差しが強くて、俺は日陰に栗原を誘った。
「寮に着くまでに溶けちゃうから、ここで食べようよ」
「そうしますか」
コンビニ横の駐車場で、カップを開けてスプーンを突き刺す。蒸し暑い中、アイスクリームは格別だ。
「んまー」
「こっちも、美味しいです」
久し振りに食べたけど、やっぱバーゲンダッツは美味しいな。32アイスクリームも好きだけど。
「抹茶も美味しそうですね」
「美味しいよ。食べる?」
スプーンで一匙掬って、栗原に差し出す。栗原は一瞬固まって、それからパクリとアイスを口にした。形の良い唇から、赤い舌が覗く。なんかエロい。
「ちょっと苦くて、美味しいですね。先輩もどうぞ」
そう言って、スプーンを差し出される。あれ、これ「あーん」じゃね。イケメンに「あーん」されてしまった。
内心、フフフと思いながら、アイスを食べる。深みがあって美味しいな!
「美味しいーっ。今度それ買う」
「でも先輩、冒険出来ないからきっとまた抹茶買いますよ」
「見抜くな、見抜くな」
栗原は割りと突っ込みしてくるよな。話していてもポンポンと会話になるし、一緒にいて楽しい。栗原がどう思ってるのかは知らないけど。
「思ったんですけど」
「うん?」
「アイスの方、交換すりゃ良くないっすか」
「ん?」
「まあ、別に良いんですけど。ちょっとビックリしたんで。はい」
差し出されたスプーンを、思わずパクッと咥える。
「あ」
ああ、そうか。言われてみれば、なにも「あーん」する必要なかったわ。自分のスプーンで食えば良いじゃん。
「ちっ、違うからね。セクハラじゃないからね」
「いやー、良いですよ。キニシテナイデス」
「めっちゃカタコトじゃん!」
くそー。違うのに。
(セクハラ男だと思われてしまった……)
うーむ。普段の行いが悪いせいか、言い訳しても信じてくれなさそうだ。まあ、正直、今だって「あーん」に喜んでたしね。
栗原に笑われながらアイスを突っついていると、高校生らしい集団がコンビニにやって来た。部活帰りなのか、みんなジャージ姿だ。
(あら眩しい)
じゃれ合いながらコンビニに入っていく一団を見送り、穏やかな笑みを浮かべる。若い男の子のエネルギーを吸い込んだ気分だ。
「……鈴木先輩って」
「んー?」
「男の子好きじゃないですか」
「ん? お、おう?」
なんか語弊のある言い方だな。
「ゲイなんですか?」
「ぶっふ!」
思わず、アイスを含んでいたのを噴き出す。オイオイオイ。なんか誤解してるぞ。
「違うからねっ!? 俺は男の子は好きだけど、男の子同士がキャッキャウフフしてるのが好きなの! 恋愛対象は女の子だからっ」
「そうなんですか?」
栗原が目を丸くする。やだこの子、俺がそっちだと思ってたの? 誤解よ。
「俺は、あくまでも腐男子なのっ。基本はBL漫画とかだよ。まあ、ナマモノも好きだけど」
ああ、栗原が「ナマモノ?」って顔してる。良いのよ。解らないことは覚えなくて。俺だって覚えてからおかしいんだから。
「でも先輩、イケメン好きじゃん」
「うん」
それはそう。だってイケメンなんだもの。
「ゲイじゃなくても、イケメンが相手ならオッケーしちゃうでしょ」
「そりゃするよ。だってイケメンだよ? 勿体ないじゃん! お顔じっと見てても許されちゃうんだよ?」
「はあ、先輩……」
「残念なものを見るような目で見ないで貰える?」
そんな顔してもイケメンなのね。栗原ってば。
「まあ、俺みたいな壁際モブ男子に、声かけるイケメンなんか居ないけどね」
大抵はスルーですよ。だってモブだもの。認識されてないもんね。
「なんすか、その壁際モブ男子って」
「いかにも『その他大勢』でしょ?」
得意気に笑って見せる俺に、栗原は肩を竦めた。
「先輩は脇役じゃないですけどね。少なくとも、俺にとっては」
「キュン」
あらやだ。可愛い後輩。
ふざけて返したら、栗原は少し不満そうだった。
14
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる