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四十九 突然すぎる。
しおりを挟む部屋に置かれた大きすぎるソファに目をやって、鮎川はため息を吐き出した。
(今日も、来ないのかな……)
岩崎が部屋を訪ねなくなって、四日にもなる。勃たなくなってからも毎日来ていたのに、急にパタリと来なくなった。
(そりゃあ、互いに微妙な空気にはなっていたけど……)
勃起しなくなって、それでも何でもない空気でいたのに。ここのところは、肌を合わせる代わりに、映画を観たりボードゲームをやったりしていた。そんなに、悪い空気ではなかったと思っていたのに。
「そもそも、岩崎が僕とヤりたいと思ってたのか、よく解らないしな……」
最初は、鮎川からの手酷いレイプだったはずだ。それなのに、平然とやって来て、今度は誘われるように岩崎を抱いた。岩崎が鮎川にどんな気持ちで身体を開いていたのか、解らない。気を引きたかっただけのようにも思えるし、何も解らない子供が、ただ愛を欲しているようにも見えた。
(僕は)
最初は、迷惑な後輩だった。自分の過去を知っていると知って、血の気が引いた。けれど、岩崎はそれで鮎川を不利益にすることはなく、それどころか、手酷いことをした鮎川に、ずっとついて回っていた。
当たり前のように、思ってしまっていた。鮎川が居れば、自然と着いてきて、鮎川が行けば、岩崎も来る。
そんな状態を、当然のように感じていた。
(……進、とも、仲が良いんだよな……)
藤宮の隣にいる岩崎に、モヤモヤして仕方がなかった。自分だけに見せていたんじゃないのか。自分だけに懐いていたんじゃないのか。
「……じゃあ、今は進の所にいるのか」
そう思ったら、なんだか堪えた。藤宮が岩崎に手を出すとは思っていなかったが、あの笑顔を藤宮に見せるのだと思うと、悔しい気がした。
ため息を吐き出し、憂鬱な気持ちになる。折角の休日だと言うのに、自分は予定もなく、ただ部屋でじっとしている。
(岩崎が来る前って、何してたっけ……)
ソファにごろんと横になった、その時だった。玄関のチャイムが鳴る。
「っ……」
ドキリ、心臓が鳴る。岩崎だろうか。岩崎じゃなかったらどうしようか。
少しだけ怖かったが、扉を開く。玄関前に、パーカーを羽織ってキャップを被り、鞄を斜に掛けた岩崎が立っていた。
「岩崎。――どこか、行くの?」
明らかに外出の装いに、鮎川はそう聞き返した。誰かと、出掛けるのだろうか。ズキンと心臓が痛む。
「うん。遊園地行こ」
「え?」
「早く」
「僕?」
「他に誰がいんだよ」
「――そういうことは、もっと早く言おう!?」
突然の誘いに、鮎川は困惑して思わず叫んだ。だが、本心では、嬉しかった。
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