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四十三 早朝、玄関前にて。

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 欠伸をして窓を開く。朝のひんやりとした空気が部屋に吹き込んできた。

「ふあ……。何か、早く起きちまったな……」

 本日は休日のため、もう少し眠っていても良かったのだが、目が覚めてしまった。休日は食堂が休みのため、朝飯をどうするか考えていると、岩崎は玄関に人影があるのに気が付いて、ベランダから身を乗り出した。

「藤宮先輩」

 岩崎の声に気が付いて、藤宮が顔を上げる。

「岩崎。おはよう」

「おはよーございます。何やってんすか?」

「草むしりだよ」

 返答に顔を顰めて、岩崎は少し考えてから部屋に引っ込んだ。Tシャツにパンツ姿で寝ていたのにズボンを履いて、そのまま部屋から出る。玄関ホールにいると、まだ藤宮がいた。岩崎に気が付き笑みを浮かべる。

「早いね」

「先輩もね。俺もやる」

「おや」

 藤宮は「じゃあこれ使って」と、軍手を手渡してきた。軍手を嵌め、見よう見まねで雑草を引き抜いていく。あまり気にしていなかったが、確かに玄関前のアスファルトの隙間や植え込みの下から雑草が生えて来ていた。

「これって寮長の仕事?」

「そういう訳じゃないけど。管理人さんも大変だから」

「あー」

 管理人というのは、寮の管理を請け負っている中年の男だ。岩崎も顔は知っている。聞くところによれば管理人は『夕暮れ寮』以外の寮も管理しているらしく、それなりに忙しいらしい。

「なんかこの前もむしった気がするのに」

「そうだね。草の勢いってすごいから」

 寮のみんなでやれば早いのだろうが、いつもいつもは出来ないのだろう。玄関くらいは、ということで藤宮が率先してやっているらしい。岩崎は寮のどれくらいの人間が、藤宮がやっているのを知っているのだろうかと思った。

 袋半分ほどに草を詰め込んだところで、玄関の扉を開いて鮎川が現れた。鮎川は岩崎を見て、驚いた顔をする。

「進、遅くなって――岩崎?」

「おー、おはよ」

「今日は岩崎くんが手伝ってくれてるよ」

「――そうなんだ」

 鮎川はチラリと岩崎を見て、それから何事もなかったように藤宮から軍手を受け取る。なんとなくよそよそしい雰囲気に、岩崎は顔を顰めた。

(なんだよ……。――これが、栗原がいう『社会』ってヤツ?)

 ぶちぶちと草を引きちぎりながら、唇を結ぶ。はっきりしないのは苦手だったが、それが『社会』というヤツならば仕方がない。岩崎は少しストレートに物言いしすぎると、栗原から指摘されたばかりだ。

「日が当たるとこは暑いな」

「朝のうちしか出来ないね」

 鮎川の言葉に、藤宮が相づちを打つ。自然と二人で会話をしているのを横目に、岩崎はムッと眉を寄せた。

(幼馴染み……)

 鮎川と藤宮が幼馴染みだと知って、少なからずショックを受けた。そのことを、鮎川からではなく藤宮から知らされたのが、余計に嫌だった。岩崎の知らない鮎川を、藤宮は知っている。岩崎しか知らないと思っていたことを、藤宮は知っているのに。

(幼馴染みには、どうやってケンセイすれば良いんだよ)

 当然のように、鮎川は藤宮の横に居る。藤宮を手伝う。思い返せば、鮎川は大抵、藤宮と一緒に居たし、藤宮の仕事を手伝っていた。寮で見せる気弱さからなのだと思っていたが、そうではないのだ。幼馴染みだから、手伝っていたのだ。

(どうすりゃ、鮎川はこっちを見るんだろう)

 岩崎とは目を合わせない鮎川に、岩崎は黙って俯くしかなかった。

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