気弱な暴君~ヤンキー新入社員、憧れの暴走族の元総長にエッチなお仕置きされてます~

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO

文字の大きさ
上 下
29 / 63

二十八 変わる距離

しおりを挟む


「お、岩崎だ。スイカ食う?」

「あ? あー、貰う」

 廊下を歩いていたところを呼び止められ、岩崎はラウンジの方へと足を踏み入れた。ラウンジには寮生が五、六人集まっていた。どの人物も、岩崎はあまり交流のない、先輩たちばかりだ。

「田中の実家から送られて来たんだよ」

「めちゃくちゃ甘いぞ」

 手渡されたスイカは、真っ赤に熟れて瑞々しかった。三角形に切られた先端部分に、ぱくんと食いつくのを、先輩たちは何故かニコニコ顔で見守っている。

「美味いっす」

「おー、良かった、良かった。こっちも食えー」

 ワイワイと構ってくれる先輩たちに、岩崎は気を良くしてスイカに手を伸ばす。

 新人歓迎会での一件以来、岩崎は『鮎川にキスしたヤツ』という扱いだった。先輩たちにとってはからかいのネタで、岩崎は面白いヤツという扱いになったらしい。これまでは怖がって遠巻きにしていた先輩たちが、岩崎を可愛がるようになった。

 夕暮れ寮の生活にすっかり慣れた岩崎だったが、新人歓迎会以降の寮は、余計に居心地が良いものになった。実家に暮らしていた頃、岩崎は誰かと喋るような生活はしていなかったが、ここにはいつだって誰かが居る。

 三つ目のスイカに手を伸ばしたところに、ラウンジを覗き込む影があった。

「あれ、スイカ? 良いね」

「鮎川」

「お。鮎川。食ってく?」

「じゃあ一つだけ……岩崎、お前なんて格好してんの」

「あ?」

 鮎川が隣に来て、顔をしかめる。岩崎はハーフパンツにタンクトップ姿だ。ここ最近、暑い日が多い。対する鮎川はスーツ姿だった。

「暑い」

「腹冷やすぞ」

 そう言いながら、しゃくっとスイカにかじりつく。岩崎は無意識に、鮎川の唇を追った。

「そうだ、これあげようと思ったんだ」

「ん?」

 鮎川がそう言って、なにやら袋を手渡してくる。ビニールに包まれた、ぬいぐるみのようだった。犬だか猫だか良く解らない生き物がモチーフのようだが、見慣れないキャラクターだ。

「なにこれ」

「営業先でもらった。お客さんのところのキャラクターみたい」

 一緒にスイカを齧っていた面々から、「いらねえw」「微妙w」と声が上がる。岩崎も特別に欲しいわけではなかったが、鮎川がくれたものだと思うと、持ち帰る気になった。

「ふーん、どうも」

「スイカ美味いね。ご馳走さま。じゃ」

「あ、俺も」

 スイカを切り上げ、鮎川についていく。背後から「懐いてるなw」「かわいい」「俺にも懐いて欲しい」と声がする。

 ぬいぐるみをモニモニと弄りながら、鮎川の後を追う。鮎川はネクタイを緩めながら、手で顔を仰いでいる。

「あ、僕、明日から五日間居ないからな。部屋来ても居ないぞ」

「え、なんで?」

「出張。東北支社」

 東北支社。岩崎にはあまり関係のない場所だ。

「えー」

 つい不満げに唇を尖らせた岩崎に、鮎川が笑う。笑みに、ドキリと心臓が跳ねた。

「ササカマ買ってきてやるよ」

「ササカマぁー?」

「萩の月も。美味いから」

「へー。そうなんだ」

 鮎川が部屋の鍵を開けて中に入るのに、当たり前のように後ろからついていく。鮎川は一瞬だけ何か言いたげな顔をしたが、何も言わなかった。

「まあ、他のヤツに構って貰え。……ただ、タンクトップはやめろ」

「? なんで?」

「……見えてるから」

(見えるから……?)

 なにを言ってるんだ? と、岩崎は首を傾げた。意味が解っていない岩崎に、鮎川は溜め息を吐き出して、タンクトップの端から指をスルリと差し入れる。

「無防備過ぎる」

 きゅっと乳首を摘ままれ、ビクッと肩を震わせる。

「な、なにすっ」

「嫌なら隠しておけ」

「……」

 岩崎は唇を尖らせ、身を守るように両腕をクロスさせる。鮎川は何故か、岩崎の乳首を弄りたがる。

「男のおっぱい吸って喜ぶのはアンタだけだろっ」

「――……」

 鮎川しか気にしない。そう言いたかったのだが。

「へー」

 鮎川がスッと怜悧な瞳を細めた。ゾクッと、背筋が粟立つ。

「そういうお前は、弄くられて喜ぶくせに」

 きゅっと乳首をつねられ、ビクビクと体を揺らす。

「んぁっ! バカ……っ、喜ぶわけ」

「ホラ、感じてる」

「感じて、ないっ!」

「嘘つけ」

 タンクトップの上から、鮎川がカプリと乳首に噛みついた。そのまま、ちゅうっと吸われる。

「あ」

 ゾクゾクと、身体に電流が走る。鮎川の舌が、布越しに乳首を弄くる。押し返そうとして、手にしていたぬいぐるみが床に転がった。

「あっ、鮎川っ……ん! やめ……」

「感じてないんだろ?」

「っ……!」

 鮎川の揶揄に、カァと頬が熱くなる。

「か、感じて、ねえって……、気持ち悪いからっ、やめ」

 引き剥がそうと伸ばした手を、グッと捕まれる。そのまま、後ろに捻られ、ソファに押し倒された。胸を打ち付け、一瞬息が詰まる。

「ん! なに、すっ……」

 ヒヤリ、腕に冷たい感触がして、岩崎は振り返った。

「は……?」

 腕を動かすと、カチャカチャと音がして阻まれる。手錠で拘束されたらしかった。

「お、おいっ……」

「感じないんだもんな? 俺が吸って喜ぶだけだし」

「ね、根に持ちすぎだろっ!」

「お前は知らないのかも知れないけど、性感帯な以上、開発する道具もあるんだよ」

「……は?」

 鮎川が笑いながら、見慣れないオモチャを見せてきた。

「ニップルバイブってな、乳首用のバイブがあるんだわ」

 その言葉に、何をされるのか解って、カァと顔が熱くなる。同時に、肩がカタカタと震えた。

「ざ、ざけんなっ」

「感じないんだろ? 大丈夫」

「――ば」

 タンクトップをずらして、乳首を露にされる。そこに、クリップ状のバイブが付けられた。

「あ――」

「感じないんだから、イったりすんなよ」

 鮎川が楽しそうに見えるのに、岩崎は涙目で睨み付けた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...