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十六 鮎川の苛立ち

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 部屋の扉を開き、鮎川はため息を吐き出して膝から崩れ落ちた。

「~~~やらかした……」

 頭を抱え、自分のやったことにガックリと肩を落とす。

(危なかった……マジで……)

 ヨロヨロと立ち上がり、寮の狭い部屋には不釣り合いな、大きなソファにどっかりと体重を預ける。無意識に唇に指をやって、慌てて首を振った。

(いかん、いかん。このカッとしやすい性格、なんとかしないと……)

 昂った気持ちを落ち着かせようと、念仏を唱え始める。

「色即是空空即是色……」

 また、岩崎に手を出しそうになった。キスされたからって、あんな場所――廊下で、しかも同意も得ずにすることじゃない。そもそも、岩崎は友人でも後輩でもない、微妙な立ち位置の青年だ。どうやら、自分の過去を知っているらしいが。

「……何で、キスして来たんだ……?」

 あの子の考えは解らないな、と呟く。そもそも、バイブでフェラチオを実践したときから、良く解らない子だと思う。世代ギャップというヤツだろうか。若い子の考えは、鮎川には解らない。

 鮎川は『仏の鮎川』などと呼ばれてはいるが、自身の堪え性のなさを良く解っている。周囲の人間からは「お前よく怒らないね」などと聞かれるが、それは大抵が興味がないことばかりで、怒る必要がないからだ。本当のところは、刺激されればむしろ、人並み以上に怒りっぽい。

 生来の無口さと、陰気な雰囲気が相まって、結果として「大人しいヤツほど怒ると怖い」という捉え方をされているが、鮎川の本意とするところではなかった。

(このカッとしやすい性格のせいで、色々やらかしてるのに。自制心、自制心……)

 深呼吸をし、大きく腕を動かす。ガッと棚に手が当たり、載せてあったものが床に転がった。

「あっ」

 ごろんと、鈍い音を立てて転がったのは、先日、岩崎をさんざん虐めた時に使用した、ピンク色のバイブだった。口に突っ込み、あげく、岩崎のアナルにまで突っ込んだものである。

「――」

 やらかした事実が頭の中でフラッシュバックし、再度、頭を抱える。何で、あんなことをしてしまったのか。

「最低だ。最悪だ。何てことを……」

 自分の保身のために、脅すようなことをしてしまった。変わったと思ったのに、自分はやはり、最低な人間なのだ。

 自己嫌悪に、自分に苛立ちが募る。

「クソ」

 ボスっとソファを殴り付け、ものに八つ当たりしたことに、また自己嫌悪する。

「……大体、なんで平然と話しかけてくるんだよ。しかも、進の前で言おうとするし……」

 こっちはレイプしたんだぞ。そう、呟く。口にだして、また自分に嫌気が差す。

『隠すことでもねえだろ』

 岩崎の声がよみがえる。

「いや、隠すことだろ……」

(男にヤられたんだぞ。しかも、無理矢理だったぞ。何なら、縛ってたし、さんざん、酷いことしたし……)

 もしかしたら。

 ふと、突拍子もない想像が過る。

(……慣れて、んのか?)

 もしかしたら、岩崎にとっては何でもない、慣れたことなんだろうか。ああ見えて、男遊びをするタイプなんだろうか。

 そう考えてしまい、何故だか胃がムッとする。

 岩崎は、口は悪いし、態度は悪いが、憎めないタイプだ。懐いてくる様子は可愛いし、子犬のようだと思う。ああいうタイプは、可愛がられるタイプだ。自身にも、ああいう後輩みたいな存在は居た。

「――っ、クソっ!」

 苛立ちに、バイブを拾い上げて投げつける。壁にぶち当たったバイブから電池が外れて、床に転がった。

「……関係ない。岩崎には、関わらない。それが、一番だ」

 言い聞かせるように呟き、鮎川は重い溜め息を吐き出した。

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