上 下
13 / 63

十二 口封じは 4

しおりを挟む


「――っ」

 数分か、数秒か。意識を飛ばしていたことに気が付いた岩崎は、ハッとして身体を起こした。やけに怠い身体と、尻の妙な違和感。ギシギシと身体は痛み、顎のあたりもやけに疲れている。

(夢――なわけ、ねえわな)

 岩崎の姿は半裸のままで、脱がされた服が床に落ちたままだった。ただ、ローションと精液で汚れていたのは拭き取られているようだった。

(鮎川は……)

 部屋に、鮎川は居なかった。どこかへ出てしまったのか、一人取り残されたようだ。今のうちに部屋を逃げ出すことはいくらでも出来たが、指一本動かすのも億劫で、そのままソファに倒れ込む。下半身は冷えたが、パンツを穿くのも面倒臭い。

「……」

 散々、道具で虐められた。鮎川にとって、触れて欲しくない話題だったから、自分を遠ざけるためにわざと酷いことをしたんだと思う。では、自分を抱いたのは何故だったのだろうか。

 唇に触れてみる。鮎川の欲望にまみれたキスは、乱暴で酷く甘美な味がした。

 鮎川があんなキスをするなんて、寮の誰も想像が出来ないだろう。あんな風に激しく抱くのを、岩崎だけが知っている。自分だけが知っているという、密かな優越感。あの男を、あの男の正体を、自分だけが知っている。

(……俺、嫌じゃ、ねえんだ)

 鮎川に抱かれたのが、嫌じゃない。それどころか、あの頃、鮎川に憧れていた女や岩崎のような男たちよりも、自分の方が上だと思ってしまう。少なくとも、あの瞬間、鮎川は岩崎に欲望を抱き、岩崎を欲したのだ。

 ごろんと横になって余韻に浸っていると、不意にドアの方で鍵を開ける音が聞こえた。ドアが開き、鮎川が帰ってくる。

「はあ……」

 吐息を吐き出し、鮎川が部屋に入ってくる。髪が濡れていた。シャワーを浴びに行っていたのだろう。

「あ」

 鮎川が岩崎に気づき、気まずそうな顔をする。まだ居たのかと言わんばかりの顔に、岩崎はのそりと上半身を起こす。鮎川の視線が一瞬、まだ服を着ていない下半身に向いたが、フッと逸らされてしまった。

「鮎川」

「……さっきは、やり過ぎた」

 岩崎に感情をぶつけてすっきりしたのか、鮎川がそう言う。すぐ傍に腰かけ、鮎川の指先が岩崎のピンク色の髪に触れた。

「――俺も、いきなり……」

「うん」

 岩崎はこつんと、鮎川の肩に額を預けた。鮎川は何も言わず、無言で床に落ちた岩崎の服を拾う。

 憧れの人が目の前にいると知って、いきなり距離を詰め過ぎたと、自覚する。鮎川にとっては触れて欲しくない話題で、今もきっとそれを口にすることはないだろう。

 額を擦りつけ、体重を預ける。石鹸の匂いがした。

「……そのうち、教えろよ」

「――まだ、懲りてねえのかよ」

 ジロリと、怜悧な瞳が岩崎を睨む。心臓がずくずくと疼く感覚に、岩崎は無意識に唇を緩める。

「ブジー嫌がってたろ。突っ込んでやろうか」

「っ! ヤダって!」

 パッと鮎川から離れ、ソファの端に逃げる岩崎の足首を、鮎川が掴む。ぐいと足を開かれ、アナルに長い指が這う。入り口を擦るように撫でられ、ビクビクと身体を震わせた。

「っ、ちょっ……」

「ブジーは嫌なのに、バイブは良いのかよ?」

「ばっ」

 つぷ、と指がアナルに入り込む。さんざん掻きまわされたせいで、抵抗など一切なくするりと飲み込んでいく穴に、長い指が出入りした。

「あっ、あ……」

 ビクッ、ビクッっと、身体が揺れる。もう身体は拘束されていないのに、抵抗できない。無意識に鮎川にしがみ付く。

「さっきのスクリューのヤツ、挿入れてやろうか」

「っ、も、ヤダって……! イくの、つらっ」

「その割に、すごい吸い付いて、僕の指食われそうだけど」

「あっ、あ、……鮎、川っ……!」

「……お前、良い顔するよな……。こっちが、ヤバくなる」

 鮎川の喉が動いた。キスをされるかもしれないと思ったが、鮎川はしてこなかった。その代わりに指を引き抜き、突き放すようにして服を岩崎の胸に押し付ける。

「さっさと、着ろよ」

「っ、ん」

 視線を逸らしてしまった鮎川に、岩崎は火照った身体をごまかす様に、服を着るしかなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

男の子の雌化♡

クレアンの物書き
BL
いろんな男の子達が従順なメス男子に変わっちゃうお話です!

出産は一番の快楽

及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。 とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。 【注意事項】 *受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。 *寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め *倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意 *軽く出産シーン有り *ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り 続編) *近親相姦・母子相姦要素有り *奇形発言注意 *カニバリズム発言有り

淫紋付けたら逆襲!!巨根絶倫種付けでメス奴隷に堕とされる悪魔ちゃん♂

朝井染両
BL
お久しぶりです! ご飯を二日食べずに寝ていたら、身体が生きようとしてエロ小説が書き終わりました。人間って不思議ですね。 こういう間抜けな受けが好きなんだと思います。可愛いね~ばかだね~可愛いね~と大切にしてあげたいですね。 合意のようで合意ではないのでお気をつけ下さい。幸せラブラブエンドなのでご安心下さい。 ご飯食べます。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

言いなりになるしかない僕の話

あおい
BL
男に秘密を握られた僕が、女の子の格好をさせられ、自分の意思とは関係なく、男に奉仕させられるお話です。

淫らに壊れる颯太の日常~オフィス調教の性的刺激は蜜の味~

あいだ啓壱(渡辺河童)
BL
~癖になる刺激~の一部として掲載しておりましたが、癖になる刺激の純(痴漢)を今後連載していこうと思うので、別枠として掲載しました。 ※R-18作品です。 モブ攻め/快楽堕ち/乳首責め/陰嚢責め/陰茎責め/アナル責め/言葉責め/鈴口責め/3P、等の表現がございます。ご注意ください。

処理中です...