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三 紛れ込んだもの
しおりを挟む洗濯が終わり、部屋に戻ってまだ暖かい洗濯物を畳むことにする。そのまま放り投げるとシワシワになってしまうというのを入寮して学んだ。
「あー、面倒臭え。クリーニングにしちまおうかな。って言っても、近くにクリーニングないんだよな」
実家に暮らしていた時は、家に出入りしている家政婦のおばさんがすべてやってくれていた。だから岩崎は基本的に家事は一切したことがない。洗濯籠に投げておけば、翌日には畳まれて戻ってきた。
「はぁ。寮を出て一人暮らしなんて、マジで考えられねえな」
洗濯ばかりでなく、料理もしなければならないと思うと、とても一人で生きて行けそうにない。
(俺は、自立して生きて行くのに)
イライラしながら洗濯物を畳んでいる時だった。洗濯物の中から掴んだものに、首を傾げる。
「なんだこれ? こんなパンツ持ってたっけ?」
グレーのボクサーパンツだ。こんな地味な下着は、岩崎は持っていない。岩崎の下着は派手な柄物ばかりで、大抵は赤やピンクだ。
「あ」
理由を思い当たり、ついパンツをみょーんと伸ばす。
(アイツの、か)
自分の前に洗濯機を使っていた人物。鮎川のものだろう。
「うわ、だるっ」
届けに行くのが面倒臭い。かといって捨てるわけにもいかないし、持っていたいものでもない。
(あー、くそ……)
思考停止して数分。結局のところ届けなければどうしようもないので、仕方がなしにため息とともに立ち上がる。
「あー? どこの部屋だっけ?」
栗原の話を思い出す。確か、208号室のはずだ。
「……」
岩崎は手の中に握りしめたパンツを見つめた。このまま握りしめていくのは微妙だ。何か、適当は袋に突っ込んで持って行こうと、また一つため息を吐き出した。
◆ ◆ ◆
「はい?」
扉を開いて鮎川が面食らった顔をした。
「どうも」
「どうも……?」
首を傾げ、それから何故か外側のドアノブを確認する。岩崎が例の「通過儀礼」をしにやって来たのだと思ったのだろう。
「あれ? 無い? じゃあどうして」
「これ」
ずいっと、パンツの入ったビニール袋を差し出す。鮎川はそれが何か分からないままに受け取り、それから中身を見た。
「――」
「すんません。洗濯物に紛れてました」
「あっ!」
そこまで言ってようやく気が付いたらしく、鮎川が赤い顔で平謝りする。
「ああっ、ゴメンね! ちゃんと取ってなかったんだね!」
「いえ……」
「わざわざ、ありがとう」
ふわり、笑みを浮かべる。
(あ、まただ)
鮎川の笑みに、心臓が何故かざわつく。何かが引っ掛かる。何かが、チリチリと音を立てている。
「洗濯物が残ってたり混ざっていたりしたら、洗濯室に置き場があるからね。今日はありがとう」
「あ、そうなんすね」
それなら、わざわざ届けなかった。
(まあでも、下着は嫌だよな)
不特定多数が見る場所に置かれた下着を、自分なら穿く気にならない。岩崎の手に渡ったものでも同じかもしれないが。
「岩崎くんだっけ」
「っす」
「困ったことがあったら、相談してね。これでも寮では古株なんだ」
「――はぁ……」
気のない返事をする岩崎に、鮎川はニッコリと微笑んだ。そのまま、「それじゃあ」と扉を閉める。
扉が閉まる瞬間、鮎川の背が見えた。
その背中に、また心臓がザワッとさざめいた。
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