上 下
26 / 46

26 いつか

しおりを挟む


 スマートフォンをスワイプさせながら、カァと顔が熱くなる。俺、こんな顔してんのか。今までのアホみたいな顔と全然違う。ビッチらしく挑発してる顔がキメ顔だったのに、良輔相手にはこんなにも蕩かされて、だらしがない顔してんのか。なんか凄い……。

(恥ずかしいっ……!)

 なんだこの顔、なんだこの顔、なんだこの顔。

「恥ずかしいっ!!」

 思わず叫びながら削除しようとしたのを、背後から抱きしめられて阻止される。

「うわっ」

「消すなよ」

「お、起きたのかよ」

「ん」

 すり、と背中に頬を擦りつけ、ぎゅうっと抱きしめられる。良輔の体温に、ドキドキと心臓が鳴った。最近この心臓は様子がおかしい。不整脈が酷い。

 良輔はさんざん俺を辱めたあと、疲れて居たのか眠ってしまったのだ。残業で疲れてるのに、あんなにハッスルするからだ。まだ眠そうに頭を擦りつける姿が、妙に可愛らしく見えてしまう。

「今何時?」

「もう消灯時間過ぎてる」

 寮内であればうろついていても怒られはしないが、大きな音を立てるのは厳禁だ。俺もあとでシャワーに行かねばならない。

「んー……、渡瀬」

「うん?」

「……泊って良い?」

 窺うような視線に、ドクンと心臓が鳴る。「あ」と、思わず声が漏れた。

「え、っと……」

「……」

 じっと、良輔が見ている。何か、言わないと。

 嫌じゃ、ない。嫌なわけない。けど、まだ。

 迷っているうちに、良輔は無言で起き上がり、頭を掻いた。

「うん。ゴメン。良いよ」

「あ、良輔……その」

「大丈夫。いつか、な」

「……うん」

 小さく頷く俺の頬にキスをして、良輔は立ち上がった。服を拾い着替えると、「じゃあ、先に風呂行くな」と部屋を出る。その背を見送って、俺は深いため息を吐いた。

(良輔なら、大丈夫だって、解ってんのに)

 薄暗い室内に一人残され、頬に手を触れる。

『何よその顔。笑ってるんでしょ! 気に入らないのよ!』

『ブスなんだから、顔隠してろよ。萎えるわ』

『あー、あれだわ。犯人顔。よく指名手配犯とかに居るじゃん』

 投げつけられてきた言葉は、ガラスの破片のように降り注ぎ、小さな傷を作る。言った人間は忘れているだろう。「冗談だろ?」って笑うかもしれない。

 けど、そんな奴らと、良輔は違う。きっと素顔でも、変なことを言ったりしない。

(まだ、勇気がないけど……)

 いずれは、素顔で向き合えるはずだ。そしてそれは、遠くないはずなんだ。

「……スキンケア、しないと」

 ポツリつぶやいて。呪いのような言葉を振り切るように顔を背けた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

処理中です...