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 気鬱なまま部屋に戻った俺は、何もやる気が起きずにベッドにごろんと横になった。いつもならストレッチしたり、マッサージしたり、最近は良輔と喋ったり。そんな風に過ごすのだが、今日は何故かやる気が起きない。

 星嶋と話していて、自己嫌悪に陥ってしまった。俺って本当にビッチのクズ野郎で、良輔に相応しくない。

(けど)

 良輔は来年も一緒に居てくれる。

 それが嬉しいのに、申し訳なくて、嫌になる。こんなハズじゃなかったのに。

(付き合おうなんて、言わなきゃ良かったのかな……)

 そうすれば、こんな風に思わなくて済んだのかも知れない。

 俺の恋人は、誰からも好かれる、本当に良いヤツだ。それに比べて俺は。

「はぁ、ダメなヤツ……」

 溜め息を吐いて、スマートフォンを開く。写真アプリに納められた写真は、風景や食べ物が増えた。良輔の写真も多い。

(普通の、カップルみたいだ)

 デートで行った場所が増え、何気なく撮った横顔も多い。写真の良輔と目があって、ドキリとする。

(ふふ。あ、耳の後ろ、ホクロあるんだ)

 気づかなかった。

 画面をスワイプさせ、写真を眺める。海、二人で食べたソフトクリーム、良輔が焼いてくれた貝、部屋でまったりしている時に撮った写真。無防備な寝顔。

(う、なんか俺……)

 だんだん恥ずかしくなってきた。いつの間に、こんなに良輔の写真ばかり撮っていたんだろう。自分のエロい格好を撮るのが好きだったハズなのに。

 そうそう、こういう――。

「げ」

 表示された肌色の写真に、現実に引き戻される。そうだ。そうだった。俺の写真フォルダって、こんなんばっかりだった。

(最低)

 いかに自分が低俗で、異常なのか思い知らされる。良輔の前では真人間のフリが板に付いてきたけれど、本当の俺ってこんなヤツだった。一度しか逢ったことのない男のモノを咥えて悦に浸っている顔を今見ると、酷く嫌悪感が湧いてきた。昔はこういう写真が興奮して、自己肯定感を高めていたはずなのに。

「……消そうかな」

 削除ボタンを押そうとして、一瞬躊躇する。万が一のために持っていた方が良いだろうか。一度きりの相手は皆、互いにあと腐れなく居たいから、今更連絡をとることも、脅されるようなこともないだろう。けど、万が一。もし、過去の行いのせいで俺が脅されることになった時、俺のことは自業自得だからいい。けど、良輔に迷惑がかかるかもしれない。そう思うと、躊躇した。

「うむむ……」

 タップするかどうか迷って画面とにらめっこしていると、不意にドアチャイムが鳴った。一体誰だ。スマートフォンをベッドに放り投げ、ドア窓から外を覗く。

「!」

 ガチャリと扉を開き、訪問者を出迎えた。

「良輔っ」

「おう。ちょっと早く帰れたからさ。電話より、逢った方が良いと思って」

 そう言って良輔が微笑む。思わずキスしたくなったが、さすがに玄関先ではまずい。入るように促し、扉を閉めた。

「お帰り」

 言いながら首に腕を伸ばし、顔を引き寄せる。唇がちゅっと重なって離れて行った。

「ただいま。何してた?」

「あー……、ちょっと、写真の整理を……」

「へえ。どれ」

 言い淀む俺に、良輔は放り投げたままのスマートフォンに手を伸ばす。

「あっ! ちょっと待って!」

 慌てて止めるが、ヒョイと拾い上げられる。いや、ロック掛かってる。大丈夫――。

 ぐい、と手を取られ、指先をスマートフォンに当てさせられる。

「あ」

 解除された画面の向こうに見えた肌色の写真に、良輔が固まった。

「あ。いや、その、消そうかと……」

「あー」

「本当に! 消そうとは思ったんだって!!」

 ただ、後々のために。そう呟いた俺に、良輔は察したのか、肩を竦めた。

「何だよ」

「まあ、今は要らないと思ってるんだったら、別に良い」

「そりゃ、要らないだろ。良輔とのならともかく……」

「ふーん。じゃ、もう良いな」

 そう言って、良輔はスマートフォンを操作して写真を消してしまった。

「あっ。おい、なんかあったら」

「その時はその時対処すりゃ良いだろ。こんなもん、持つな」

「……はい」

 スマートフォンを返却される。中身を見れば、良輔と撮ったものだけ残して、綺麗さっぱり消えてしまっていた。

(まあ、良いか。あっても不快なだけだったし……)

 良輔が消してくれたことで、逆にホッとしたかもしれない。これで本当に、良輔に隠し事はないわけだから。今までやって来た事実が消えない以上、俺が綺麗になることはないけれど、少しでもクリーンになれるのなら、その方が良いはずだ。俺と誰かが寝ていたのを、嫉妬するとも言っていたのだし。

「じゃあ」

 良輔が背後から抱きしめてくる。ドキリとして、顔を上げた。額に唇が触れる。

「良輔……」

「渡瀬……」

 唇に移動し、キスが深くなる。ちゅくちゅくと舌を絡めながら、良輔の手がシャツの裾から入り込み腹を撫でた。

「ん、ちょっ……良……、すんの?」

 ゾクッと背筋が粟立つ。良輔から誘われるのは珍しい。というか、初めてかも知れない。ドクドクと心臓が鳴る。求められるのは嬉しい。良輔が俺の手の中にあるスマートフォンごと、俺の手を握った。

「俺とは良いんだろ?」

「え?」

 じわり、熱が浮く。まさか。

 トントンと、指で叩かれて、眩暈がしそうだった。

(っ、写真で撮るのなんか、慣れっこだったのに)

 なんで、こんなに緊張してるんだ。

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