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7 バカなんだから

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「っ、良輔?」

 良輔は怒っていた。何に怒っているのだろうか。俺の生活か、生き方か、性癖か。

(そう言われてもな)

「お前、俺に説教する気?」

「っ、そうじゃない、けど」

「お前だって、俺と寝ただろ。良いじゃん別に」

 ハァと溜め息を吐いて、良輔の肩を押す。興が覚めたじゃん。良い感じだったのにさ。

 良輔は動かなかった。俺の上で、じっと見下ろしている。その表情は苦悶に満ちていて、どうしてそんな顔をするのか解らなかった。

「おい、良輔。退けよ」

「黙れよ淫乱」

「――」

 思いがけず暴言を吐かれ、驚いて絶句する。良輔から、そんな言葉が出ると思わなかった。

(……そんなこと言われたら、興奮するって、解ってねーのかな……)

 温厚な男が怒って、暴言を吐くというシチュエーションに、ゾクゾクと皮膚が粟立つ。心臓がドキドキして、良輔の怒った顔に今すぐキスしたくなった。

「誰でも良いのかよ、尻軽」

「っ、そう、言ってんじゃん……」

 酷い言葉に、興奮して身体が震える。キスしたら、殴られるだろうか。それはそれで、イイかも知れない。

 怒らせてみたいが、友人を怒らせたくはないという逡巡をしているうちに、良輔の手が腰を撫でた。熱い手のひらの感触に、ピクンと身体が揺れる。

「あっ……」

 良輔の手が、ゆっくりと皮膚を撫でる。性的な意思を持つ手の動きに、ドクンと心臓が鳴った。

(……マジ?)

 誘ったものの、本当に乗るとは思わなかった。しかも、軽い説教のような話のあとで。

 良輔は無言で俺の膝を割ると、ズボンの前を寛げた。チラリと視線を下にやると、勃起した良輔の性器が見える。

「っ……」

 マジか。マジで、するのか。

 嬉しいけど、怒らせている手前素直に喜んで良いのか不明だ。楽しいセックスという雰囲気ではない。

 ハァ、と息を吐く。こんな状況なのに、期待して体が熱い。

「誰でも良いから、俺でも良いんだもんな……」

「……まぁ」

 そういうことになる。

 ぬぷ、と、先端が押し込まれた。相変わらず良輔のはでかくて、無理矢理拡げられているみたいだ。せり上がる感覚に思わず「う」と呻き声が出る。

「う――、んっ」

「渡瀬っ……」

 ぐぐぐ、と捩じ込まれ、ベッドがギシと軋んだ。繋がった部分が熱い。ドクドクしてるのは良輔の性器なのか、俺の方なのか。

「あ、あっ、太っ……」

「っ、大丈夫かっ?」

 慌てたように、良輔が顔を覗く。先ほどまで怒った顔だったのに、もう心配そうな顔をしていた。

「――んっ、平気っ……、奥まで……挿して」

「っ、この」

 淫乱が。と、口が動いた気がした。

 リクエスト通り、良輔は腰を動かし、じゅぷっと奥まで貫いて来る。尻にピタリと良輔が触れ、ゾクゾクと背筋が粟立った。

「あっ、は、はぁっ……んっ」

 キスしたい。舌を伸ばして良輔に腕を伸ばす。だが、良輔はムッとした顔で、俺の口に親指を突っ込んだ。舌を押さえられ、「うむっ」と呻き声が溢れる。

「あに、す」

「ダメ」

 唇の代わりに、指で咥内を犯される。舌を指が擽り、頬の内側や上口蓋を撫でられる。

「う、んぁ、んぐっ」

(この前まで、童貞だったくせに!)

 メチャクチャに口を弄られ、涙が滲んだ。悔しいが、気持ち良いし、少し苦しい。その苦しさも快感になって、俺を弄ぶ。

 良輔は俺の顔を見てごくりと喉を鳴らすと、腰を揺らし始めた。ずぷん、じゅぷんと、腸壁を擦られ、指を突っ込まれた口から喘ぎが漏れる。

「うん、んっ、ぁん……っ!」

「っ、はぁっ……、くそっ……! お前っ、何でそう、警戒心がないんだよっ……!」

 ずんずんと激しく突き上げられ、悲鳴に似た喘ぎが口をつく。

「ひぁん、あ! あっ! 良輔っ」

「簡単に、脚開くなっ……」

「あぅ、ん、んっ」

 良輔は怒りながら、パンパンと腰を打ち付ける。怒りからの激しさなのか、良輔の気質なのか解らないが、普段の本人からは想像できない激しさだった。

「変なヤツに、捕まって……監禁っ――されたら、どうすんだっ」

「――ん、……良輔、っん」

 良輔の背に腕を回し、ふわりと笑う。

「そん時は、良輔、助けに来て」

「っ、ふざけろ」

 クスクスと笑ってやったが、良輔は不満そうだった。目に、涙が滲んでいたのは見なかったことにする。

 腕を引き寄せ、良輔を抱き締める。

(暖かい……)

 良輔なら、俺が監禁されたら本当に助けに来そうだ。本気で心配して、本気で怒っている。

(バカなんだから)

 俺なんか、気にしなきゃ良いのに。

 動きがいっそう激しくなり、互いに呼吸が荒くなる。良輔はキスの代わりに首筋に歯を立て、俺はビクビクと痙攣しながら白濁を撒き散らした。ほとんど同時に、良輔も俺の中に精液を注ぐ。

「んぁ、ん……っ、は、はぁ……はぁ……」

「っ、は……、渡瀬っ……」

 肩を揺らしながら、目が合う。良輔の手が、頬に触れる。

「……」

 無言で、どのくらい見つめ合ったか。数秒だったかもしれないが、長いことそうしていた気もする。

 良輔は無言で、ベッドに横になった。その腹に、ニマニマ笑いながら顎を乗せる。

「……重いぞ」

「感想は?」

「……何が」

「俺の穴」

 バシッと手が飛んで来て、頭をひっぱたかれる。

「いた」

「品がねえこと言ってんな」

「品も何もねーじゃん。セックスだぜ?」
  
 もう一度叩かれる。気安く叩いてくれるな、もう。

「俺は良かったのに、良輔はそうでもないんだ?」

「……」

 良輔は返事をしなかったが、顔は赤かった。

(最高! とか言ってくれても良いのに)

 まあ、そういうタイプではないか。

 良輔の腹を枕に、瞼を閉じる。良輔がツンツンと肩をつついた。

「お前、俺にバレたのをきっかけに、そろそろ止めたら? 火遊びする年齢でもねーだろ」

「正論乙」

 バシッ。また手が飛んで来る。

「いてーよ。まあ、社会人ですし? 良輔が言うことは解るけどさぁ」

 解るけど、理性と本能は違うじゃん。落ち着いた方が良い年齢なのは解ってるけど、性欲は今が強いんだから。

「まあ、そのうち落ち着くでしょ」

「……ちゃんと、考えろ」

「へいへい」

 まあ、考えておきましょう。考えるだけかも知れないけど。

 良輔は呆れた様子だったが、それ以上は言わなかった。

「……風呂行くか?」

 のそりと、良輔が起き上がる。互いに、身体はベタベタだった。

「んー。後で行く。行ってらっしゃい」

「あ? 何で」

「別に悪さしねーって。素っぴん見られたくないだけー」

 ごろんと横になってシーツにくるまった俺の顔を、良輔が覗き込む。

「は? ……化粧してんの?」

「じろじろ見んな。ま、かるーく? コンシーラーとパウダー。あと眉」

 営業だからな。ちょっとソバカスとか隠してるだけだ。

「……別に、良いだろ。俺相手に」

「嫌だぴょん」

 素顔ブスだから、見せたくない。

 舌を出すと、良輔は不満そうに顔をしかめた。そんな顔をされても、見せません。

「さっさと行く。もう一回すんなら良いけど?」

「馬鹿が」

 良輔はふん、と鼻を鳴らすと、部屋から出ていった。
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