84 / 85
第84話 要塞
しおりを挟む
フェニックスクラウンのブリッジにいる者たちは、通信士の告げるカウントダウンの緊迫したテンポと共に、緊張感を高めていた。
フェニックスクラウンのブリッジは、旗艦のため首脳陣を含め通常の艦よりも多くの者が集まっており、全員の目は一点の疑いもなく前方の大型ホロモニターに集中していた。
艦自体のブリッジクルーは忙しく担当する範囲の数値に注視している。
先行する撤退した味方と、それを追う敵艦を追いかけている形だ。
ジャンプアウトした先がどうなっているか未知な状態でジャンプアウトするのだ。
敵艦が射程圏内にいるのかいないのか?味方がまだ集団として機能しているのか?その敵も味方もこちらの存在に気がついていない。そして、ついにカウントゼロが告げられる。
「ジャンプアウトします!」
通信士の声がブリッジに響いた。
船体が通常空間に戻った瞬間、慣性補正が最大限に働き、乗組員は座席に押し付けられた。
衝突及び敵が射程内にいることによる警報鳴り響き、ジャンプアウトした全ての艦は、緊急の衝突回避を開始した。
そして突如として、僚艦も一斉に動き出す。
これは予めAIに出されていた指示に従い、艦隊は手近な敵を次々と屠っていく。人間の意識が重力ジャンプからの離脱による朧とした状態から回復する間も、AIは冷静に戦況判断し、射程内の敵を自動的に攻撃していた。
形とすれば奇襲攻撃だ。
こちらの姿を認識してから攻撃を開始するのだろうが、こちらが相手を先に発見するなり間髪入れずに攻撃をしたならば、数光秒程度の距離にしる敵であれば、認識した途端に放たれたレーザー系の光線兵器の攻撃にて避ける間もなく倒していくのは道理だ。
「AIに操艦を任せたのは正解だったな。人間の反応速度では間に合わない。」
マクスロイ艦長が感嘆した。
ジャンプ前に初期バージョンがようやく完成したところだった。
「そうだな。AIは我々の頼もしい味方だ。開発チームには1杯奢らないとな」
ダレン司令官は同意したが、混乱から目覚めると、3光秒先にいた敵25艦が瞬殺される様子がモニターに映し出された。
3秒のアドバンテージがあったので、敵がこちらの艦隊の出現に気づいたときには既に猛烈な攻撃が回避不能な距離まで迫っていたのだ。
ブリッジにいるハインリッヒ大佐は、前の星系で見方を逃がすため犠牲になり大破した艦の艦長で、脱出ポットにて漂っているのを偵察艦が拾い、フェニックスクラウンに届けられていた。
僚艦に34年前に失われたはずのフェニックスクラウンに助けられたと通信を開始した。
「こちらは新たにジャンプアウトした艦隊の旗艦フェニックスクラウンに救助されたハインリッヒ大佐だ。34年前に行方不明になった伝説の艦隊に私は今いる。しかも、約250艦からなる戦闘艦を引き連れてきてくれた。そして・・・その中には伝説のフェニックスクラウンが存在している。艦隊司令のダレン提督の指示に従ってほしい。古い型式の艦が多いが精鋭揃いだ」
また、通信士は通信状況の確認に入るが、回復の早い測定士が報告を始めた。
「報告します。ここは敵の移動前線基地の可能性が高いです。50光秒先には地球の月ほどのきさを持つ要塞が見えます。味方艦との激しい交戦が繰り広げられているので適度認定します」
ダレンはモニターを睨みつけた。
「了解した。我々はその要塞を破壊する。それが我々の責務だ。」
ダレンはモニター上の要塞の位置が確定されたことを確認し、直ちにフェニックスクラウンを主砲発射シーケンスへ移行させる。
「砲撃手目標をロックせよ!」
ダレンの声は冷酷ほどに静かで、命令は明確だったが、まだ突っ伏しているのを見てやれやれと言った感じで司令席にある照準桿を見つめる。
一応艦長、提督席には艦のフルコントロール可能な操縦システムが備わっており、いざというときに備えていたのだ。
「了解。フェニックスクラウンの主砲はいつでも放てますが、操縦士も私もまだ動けませんので、司令に操縦を引き渡します」
マクスロイ艦長は即答した。
「目標ロック完了、司令官。発射準備が整いました。」
本来ならば砲手がこのように報告するが、ジャンプから30秒ほどの段階でジャンプ酔から完全に覚めていたのはわずか四人だけだった。
「発射!」
ダレンがフェニックスクラウンの操縦桿を兼ねた主砲の照準桿の引き金を引くと、フェニックスクラウンの主砲は宇宙の静寂を引き裂くかのような猛烈なエネルギーを発射した。
フェニックスクラウンの主砲は砲塔に照準の為に稼働する部分がなく、前方に放つしかできない。
感じ体の方向を変えるしかないのだ。
主砲が要塞に当たると、瞬く間に明るい閃光に包まれ、数秒後には暗闇が戻った。
しかし、そこにあったはずの要塞はもはや以前の姿をとどめていなかった。フェニックスクラウンの攻撃が命中すると要塞は激しい爆発を起こして握りこぶし大の破片に分解され、要塞の残骸が周囲に散らばった。
呆気ないものである。
「敵要塞撃破確認しました!提督おめでとうございます!」
観測士が歓声を上げた。
「これで敵の前線基地は壊滅だ。」
ダレンは満足げに微笑む。
「しかし、まだ油断はできない。星系内には敵艦が400を超えて存在しているようだぞ!我々は味方艦と合流し、敵艦を一掃する。」
「了解しました。」
一息遅れで復活した副官のミズリアが答えた。
ダレンはブリッジの乗組員の様子に気を配りながら既に次の戦略を練り始めていた。
段々復活する者の数が増えてきてAIからコントロールを引き継ぐ。
ダレンの冷静さと迅速な判断が、フェニックスクラウンや艦隊の乗組員、未知の味方艦を、戦場で生き残らせるための鍵だった。
フェニックスクラウンのブリッジは、旗艦のため首脳陣を含め通常の艦よりも多くの者が集まっており、全員の目は一点の疑いもなく前方の大型ホロモニターに集中していた。
艦自体のブリッジクルーは忙しく担当する範囲の数値に注視している。
先行する撤退した味方と、それを追う敵艦を追いかけている形だ。
ジャンプアウトした先がどうなっているか未知な状態でジャンプアウトするのだ。
敵艦が射程圏内にいるのかいないのか?味方がまだ集団として機能しているのか?その敵も味方もこちらの存在に気がついていない。そして、ついにカウントゼロが告げられる。
「ジャンプアウトします!」
通信士の声がブリッジに響いた。
船体が通常空間に戻った瞬間、慣性補正が最大限に働き、乗組員は座席に押し付けられた。
衝突及び敵が射程内にいることによる警報鳴り響き、ジャンプアウトした全ての艦は、緊急の衝突回避を開始した。
そして突如として、僚艦も一斉に動き出す。
これは予めAIに出されていた指示に従い、艦隊は手近な敵を次々と屠っていく。人間の意識が重力ジャンプからの離脱による朧とした状態から回復する間も、AIは冷静に戦況判断し、射程内の敵を自動的に攻撃していた。
形とすれば奇襲攻撃だ。
こちらの姿を認識してから攻撃を開始するのだろうが、こちらが相手を先に発見するなり間髪入れずに攻撃をしたならば、数光秒程度の距離にしる敵であれば、認識した途端に放たれたレーザー系の光線兵器の攻撃にて避ける間もなく倒していくのは道理だ。
「AIに操艦を任せたのは正解だったな。人間の反応速度では間に合わない。」
マクスロイ艦長が感嘆した。
ジャンプ前に初期バージョンがようやく完成したところだった。
「そうだな。AIは我々の頼もしい味方だ。開発チームには1杯奢らないとな」
ダレン司令官は同意したが、混乱から目覚めると、3光秒先にいた敵25艦が瞬殺される様子がモニターに映し出された。
3秒のアドバンテージがあったので、敵がこちらの艦隊の出現に気づいたときには既に猛烈な攻撃が回避不能な距離まで迫っていたのだ。
ブリッジにいるハインリッヒ大佐は、前の星系で見方を逃がすため犠牲になり大破した艦の艦長で、脱出ポットにて漂っているのを偵察艦が拾い、フェニックスクラウンに届けられていた。
僚艦に34年前に失われたはずのフェニックスクラウンに助けられたと通信を開始した。
「こちらは新たにジャンプアウトした艦隊の旗艦フェニックスクラウンに救助されたハインリッヒ大佐だ。34年前に行方不明になった伝説の艦隊に私は今いる。しかも、約250艦からなる戦闘艦を引き連れてきてくれた。そして・・・その中には伝説のフェニックスクラウンが存在している。艦隊司令のダレン提督の指示に従ってほしい。古い型式の艦が多いが精鋭揃いだ」
また、通信士は通信状況の確認に入るが、回復の早い測定士が報告を始めた。
「報告します。ここは敵の移動前線基地の可能性が高いです。50光秒先には地球の月ほどのきさを持つ要塞が見えます。味方艦との激しい交戦が繰り広げられているので適度認定します」
ダレンはモニターを睨みつけた。
「了解した。我々はその要塞を破壊する。それが我々の責務だ。」
ダレンはモニター上の要塞の位置が確定されたことを確認し、直ちにフェニックスクラウンを主砲発射シーケンスへ移行させる。
「砲撃手目標をロックせよ!」
ダレンの声は冷酷ほどに静かで、命令は明確だったが、まだ突っ伏しているのを見てやれやれと言った感じで司令席にある照準桿を見つめる。
一応艦長、提督席には艦のフルコントロール可能な操縦システムが備わっており、いざというときに備えていたのだ。
「了解。フェニックスクラウンの主砲はいつでも放てますが、操縦士も私もまだ動けませんので、司令に操縦を引き渡します」
マクスロイ艦長は即答した。
「目標ロック完了、司令官。発射準備が整いました。」
本来ならば砲手がこのように報告するが、ジャンプから30秒ほどの段階でジャンプ酔から完全に覚めていたのはわずか四人だけだった。
「発射!」
ダレンがフェニックスクラウンの操縦桿を兼ねた主砲の照準桿の引き金を引くと、フェニックスクラウンの主砲は宇宙の静寂を引き裂くかのような猛烈なエネルギーを発射した。
フェニックスクラウンの主砲は砲塔に照準の為に稼働する部分がなく、前方に放つしかできない。
感じ体の方向を変えるしかないのだ。
主砲が要塞に当たると、瞬く間に明るい閃光に包まれ、数秒後には暗闇が戻った。
しかし、そこにあったはずの要塞はもはや以前の姿をとどめていなかった。フェニックスクラウンの攻撃が命中すると要塞は激しい爆発を起こして握りこぶし大の破片に分解され、要塞の残骸が周囲に散らばった。
呆気ないものである。
「敵要塞撃破確認しました!提督おめでとうございます!」
観測士が歓声を上げた。
「これで敵の前線基地は壊滅だ。」
ダレンは満足げに微笑む。
「しかし、まだ油断はできない。星系内には敵艦が400を超えて存在しているようだぞ!我々は味方艦と合流し、敵艦を一掃する。」
「了解しました。」
一息遅れで復活した副官のミズリアが答えた。
ダレンはブリッジの乗組員の様子に気を配りながら既に次の戦略を練り始めていた。
段々復活する者の数が増えてきてAIからコントロールを引き継ぐ。
ダレンの冷静さと迅速な判断が、フェニックスクラウンや艦隊の乗組員、未知の味方艦を、戦場で生き残らせるための鍵だった。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる