忘却の艦隊

KeyBow

文字の大きさ
上 下
81 / 85

第81話 ルシアナ・ブレイク

しおりを挟む
 駆逐艦イニシアチブの格納庫で、救助された乗員たちは急ピッチで処置を受けた。怪我人は医療班の元へと急送され、それ以外の者は休息と着替えの後、連絡艇兼シャトルであるランチに乗せられた。フェニックスクラウンの格納庫へと向かうランチの中で、彼らはやっと安堵の息をつくことができた。

 その中で最も注目されたのは、若い女性少尉、ルシアナ=ブレイクだった。彼女は自分の目の前に広がる光景が信じられなかった。

 彼女か見たのは学んだ教科書でしか見たことがない旧式の艦、制服、そして救助された駆逐艦のクルーから聞かされた艦隊名や星系にいたことに深い驚きを隠せなかった。彼女にとって、失われたはずの人類の叡智の結晶であり、フェニックスクラウンのような艦はもはや神話の中の存在であり、作り出すことのできない幻の象徴だったからだ。

 フェニックスクラウンの格納庫でダレン司令官と向き合ったルシアナは、出迎えてくれた者と自分の名字の一致に更なる衝撃を受ける。半信半疑で聞いていた艦隊の話が現実のものとなり、目の前に広がるフェニックスクラウンの壮大さに、彼女はただ言葉を失うばかりだった。

「ここが・・・フェニックスクラウン…?」

 ルシアナは驚愕の声を漏らし、艦の内部を見渡す度に、その実在に圧倒された。

 その頃サニー艦長率いる偵察艦の格納庫でも、救助された乗員たちは急ピッチで処置を受けていた。怪我人は素早く医療班の元へと運ばれ、他の生存者たちは休息と着替えを済ませた後、連絡艇兼シャトルであるランチにてフェニックスクラウンの格納庫に向かうであろう。

 最初ルシアナに対しダレンは身分を隠し、ミズリアと共に艦内を案内し、落ち着くのを待ちルシアナが現実を受け入れると提督室に向かった。

 提督室にて、ダレン司令官は副官のミズリア少尉と共に、最先任士官であり若い女性であるルシアナ少尉の話を傾聴した。

 ダレンが司令官だと告げると大いに恐縮していた。

「緊張しなくても大丈夫よ。多分2人だけだと固まるからと歳の近い私がいるのよ。大丈夫よ。この人は脳筋だけど女性には優しいのよ」

「コホン。ミズリア、後でそのあたりについてよく話をしようか?」

「ふふふ。宙兵隊と毎日格闘戦をしている人が何をいうのかしら?」

「えっ?」

「ふふふ。この人はね、本来戦闘指揮をする人じゃなく、新造艦の輸送任務を引き受けていたの。でもね、指揮権がある時に戦闘に巻き込まれて・・・」

 緊張を解すためにこの艦隊の特異な点を面白おかしく語っていた。

 ミズリアはルシアナより二歳年長で、ミズリアがいる事でルシアナは行き成り司令官と二人きりになることなく安堵し、ミズリアの優しさに心を開いた。ミズリアの美しく穏やかな声が、ルシアナの緊張を解きほぐした。


 ルシアナはこれまでの艦隊戦について語り始めた。その言葉には、指揮官への怒りと失望が滲んでいた。「提督は無能だったんです。戦略的失敗を繰り返し、最初の激突で壊滅的な被害を…」と涙ながらに語った彼女の声は、ダレンにとって重要な情報となった。

 ダレンはルシアナの肩を優しく抱き、彼女の話に深い意味を見出した。

「ルシアナ、君の経験は我々の次の一手を導く貴重なものだ。君の勇気がこれからの戦いの糧となるだろう」

 やさしく、力強く励ました。

 彼女が乗っていた巡洋艦ヴァルキリーの悲壮な最終章を聞いたダレンは、その記憶とルシアナの存在が新たな章の始まりを予感させるものであることを確信した。彼女の証言を胸に、フェニックスクラウンを中心とする艦隊は、再び未来への道を切り開くため、新たなる戦いへと進んでいった。


 フェニックスクラウンの格納庫でダレン司令官と対面したとき、ルシアナは彼と自分の名字が同じであることにさらなる衝撃を受けた。ダレン司令官が率いる艦隊の話を半信半疑で聞いていた彼女だったが、失、フェニックスクラウンを目の当たりにし、その実在に圧倒された。

「ここが…フェニックスクラウン…?」

 彼女の口からは驚嘆の言葉が漏れ、乗艦し、その広大な内部を見渡すと、思わず口をポカンと開けた。しかし、現実を受け入れた後、彼女はこれまでの艦隊戦について語り始めた。その言葉は怒りと失望に満ちていた。

「提督は無能だったんです。戦略的失敗を繰り返して、最初の激突で壊滅的な被害を受けてしまいました。撤退するしかなかった。その提督が…!」

 涙ながらに語るルシアナの声には、痛烈な批判と深い悲しみが込められていた。彼女の話は、ダレン司令官にとっても重要な情報だった。彼は彼女を慰めながらも、その情報を元に次の戦略を練るために急いだ。

 ダレン司令官はルシアナに寄り添い、優しく声をかけた。

「ルシアナ、君の話は我々にとって非常に貴重だ。君の経験は、これからの戦いを有利に進めるための鍵となるだろう。」

 そしてダレン司令官は、ルシアナが持ち帰った情報を基に、新たな戦局に臨む準備を整えた。フェニックスクラウンを中心とした艦隊は、再び未来への道を切り開くため、新たな戦いへと進んでいった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...