忘却の艦隊

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第80話 確保

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 宇宙の静寂が一瞬、ダレン司令官の断固たる声によって裂かれる。

 「駆逐艦イニシアチブ、速やかに最も近い脱出ポッドへ接近しクルーを回収の上、旗艦へ搬送せよ。ジャンプ可能域に到着する前に補給を済ませ、分隊に合流すること。」

  冷静さを湛えた声で副官が応答する。

 「了解しました。回収するポットの数に指定はありますか?」 

「うむ。ただ1つのポッドで良い。直接この艦隊の者から情報を得たいのだ」

 「それでは、士官の乗るポッドを優先します。」

  このやり取りの゙後、駆逐艦イニシアチブの救助行動は慣性補正システムが許す限りの苛烈な加速により宙域を航行する中で静かに行われた。
 任務に応じ艦はその重力ドライブを熾烈なまでに推進させた。

  一方で偵察艦のサニー艦長に新たな指令が届投げられる。 

「サニー艦長、君に任務だ。お前さんの艦はこの通信が届く頃には最終戦闘域を漂っていると推測される。最後の方に脱出ポッドを射出した艦からの生存者を拾い、旗艦へと運んでくれ。その後、輸送艦レナイトでエネルギー補給を行い、偵察部隊として先行して重力ジャンプを行い、更なる情報の収集を急げ。情勢を知ることが急務だ。脱出ポッドは、可能な限り士官を有しているものを1、2つ回収するように。目的は直接対話のためだ。それと単独行動をするからには最低でも1人はアドバイザーとして乗艦させてくれ」 

 苛立ちを帯びたそれは、サニー艦長にとっては老舗の愚痴だった。  
「まったくいつものことだが、旦那は人使い合いが荒いぞ!引渡時にブランデーの1本や2本つけろってんだ。おいてめぇ等聞いたか!?狂犬様のご命令だ!ゲロってないポットを探せよ」

 毒舌を口にする彼の顔には、親しき知人に向ける中での明白な皮肉が込められていた。
 変わり者でありながらも、偵察艦の艦長として彼の手腕には有事の信頼が厚い。

 素行には多少、いやかなり難があるものの、そのクセの強さはこの艦隊においてはさして珍しいことではなかった。

 とはいえ命令は受信されるや否や即座に実行に移された。
 距離が離れており通信は困難であったが、偵察艦はレーダーを駆使して事態に応じた行動を取り、脱出ポッドの救助任務に当たった。 
 また、駆逐艦イニシアチブに先駆け、回収部隊が同時多発的に展開された。 脱出ポッドの回収作業は黙々と行われ、星系に残された時間は戦術行動に大きな影響をもたらすものだった。

 駆逐艦イニシアチブは速やかに救助者をフェニックスクラウンへと搬送し、格納庫が一同を迎え入れる。  

 偵察艦は救出したクルーを移乗させてから、迅速にエネルギー補給を行い、もう一度深宇宙へと旅立った。   

 偵察任務の最前線で船は重力波を超え、銀河間を越えるジャンプを果たした。星々を背に、今後の深遠な戦況を解き明かすため、一手に全てを賭けるこの行動が待ち受けていた。
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