忘却の艦隊

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第68話 無人艦

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 会議室には緊張感が漂っていた。もちろんほとんどの出席者はホロ参加だ。ダレン少将と艦長や技術士官たちは、損傷した艦隊の修理計画について話し合っていた。しかし、どの案も現実的ではなく、納得できるものはなかった。

「艦と艦を合体させ、巨大な艦を作るのはどうだ?」と提案する者がいたが、技術的に工廠設備がないと無理だと否定された。

「宇宙服を常に着せた者を配置し、ランチの中や脱出ポットで寝泊まりするのはどうだ?」と提案する者がいたが、一日二日なら何とかなるがそれ以上はクルーが持たないと反対された。

「艦の中に水を満たして、水中で生活するのはどうだ?」と提案する者がいたが、水の供給や浄化、圧力や温度の調整などの問題が山積みだと笑われた。

 そんなとき、ダレンの副官であるミズリアが、控えめな声で提案をした。彼女は参加した中では最下位で唯一の尉官だったが、実質的な首席卒業と頭がよい才色兼備は皆の知るところ。彼女はダレンに恋人たが、それを表に出すことはなかった。
 彼女は提督のサポートをするのが本来の任務だと思っていたが、時には自分の意見を述べることもあった。

「すみません、僭越ながら意見をよろしいでしょうか?これらの艦を無人艦に改造するというのはどうでしょうか?技術的にはそれほど難しくないはずです」

 そのアイデアは即座に注目を集めた。無人艦とは、人間の乗組員を必要としない自律型または遠隔操作型の宇宙船のことだが、それは彼らにとって新しい概念ではなかったが、実際に本格的に運用したことはなかった。
 何故ならテスト的に実戦投入された重巡洋艦2艦による最初の無人艦はあっさりと敵からハッキングされて乗っ取られた。幸いこちらを攻撃するようなベクトルだった。全力で破壊する羽目になった。もしも技術解析のために持ち去られていたらと事実から凍結されている。しかし、50艦が改造までされていたことから人類の技術の全ては奪われていると判断せざるを得ないから、今ある技術の組み合わせではなく、新規開発か、使われていないやり方が必要とされる。

「無人艦…か。人員を必要としなければ、生命維持システムの問題を気にする必要がなくなる。それにメンテナンスも簡略化できる」

 ダレンは思案しながら言葉を続けた。

「まずは輸送艦にある修復中の軽巡洋艦の2艦から始めてみますか?小回りも効くし、遠隔操作での戦術的な有効性も高いからもってこいかと」

 技術班の責任者が追加した。

 こうして、損傷の大きかった2艦の軽巡洋艦は生命維持装置や居住区などの人員を支えるための機能を取り除き、纏めて無人艦としての改造案を論議する会議が開始された。無人艦の運用によって軍事ロボットや遠隔操作システムを利用して、これまで以上に効率的な戦術展開が望めるようになると期待された。

 しかし、遠隔操作にはリスクも伴っていた。ハッキングなどによる敵の乗っ取りを防ぐためには、どのような対策を講じるべきか。この問題について、会議室では様々な意見が飛び交った。

「AIに操鑑させれば?人間の操作に比べて反応速度や判断力が優れている。それに、敵の干渉を防ぐために暗号化や防御システムを強化すればいい」

「AIに任せるのは危険だ。AIは人間の感情や倫理を理解できない。もしAIが暴走したり、敵にプログラムを書き換えられたりしたら、どうするんだ。それに、暗号化や防御システムも完璧ではない。敵も同じ技術を持っているかもしれない。」

 反対意見が出る。

「では、AIと人間の協調制御にしよう。AIは基本的な操作や状況判断を行い、人間は最終的な決断や指示を出す。それとは別に、旗艦から操作できる自爆装置を組み込む。もし無人艦が乗っ取られたと判断したら、人間の判断で自爆させる。これなら、敵に利用されるリスクを最小限に抑えられるだろう。」

 妥協案を提案する者がいた。事実敵に乗っ取られた人類学設計した50艦が無人運用されていたが、逆に取り戻している。

「それでも不安だ。距離が空いたら通信に無視できない時間が発生する。その間に敵に攻撃されたらどうするんだ。だから、1人だけ人を配置するべきだ。もし何かあったら、その人が直接操作できるように。」

 別の案をが出た。

「それは非人道的な案だ。1人で無人艦に乗るなんて、孤独と恐怖に耐えられるか。それに、その者が敵に捕まったら、拷問や洗脳の対象になるかもしれない」

 即時に反対された。

 この論議はしばらく続いたが、最終的にはダレンの決断で、AIと人間の協調制御に加えて自爆装置を設置するという案が採用された。ダレンは、この案が最もバランスが取れていると考えたのだ。

 無人艦化によって、生存性を高めつつ、艦隊の戦闘能力を維持しようという試みは、既に運用していた戦術とは大きく異なるものだった。しかし、ジルテッドに離反した艦隊を復帰させるための現実的な策として、現場のスタッフからも期待の声が上がった。

 会議の直後から技術班は熱心に図面を描き、変更点を盛り込み始めた。武装の強化、推進システムの調整、遠隔操作に必要な通信システムの強化など、多岐にわたる改修計画が立ち上げられた。

 無人艦の改造は、新たな挑戦であり希望であった。やがて、ダレンは改造された軽巡洋艦たちがテスト運用を開始するのを、遠くから見守ることになる。その艦たちが再び戦場を駆ける姿は、壊れたものを取り戻し、新たな形で戦いを挑む彼らの意志を象徴するであろう。
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