忘却の艦隊

KeyBow

文字の大きさ
上 下
64 / 85

第64話 艦隊葬

しおりを挟む
 輸送艦で艦隊葬を行うのに伴い、副官のミズリア中尉、参謀長のノリコ大佐を伴い、宙兵隊少尉のミカに護衛を任せてダレンは輸送艦へ向かった。

 そしてその輸送艦には今回の戦闘で破損した艦の修理や救助活動に感謝し、尊敬の気持ちを込めて乗り込んだ。

 救助と修理の任務を果たした後も、修理任務について艦隊の中心として、不眠不休状態で機能していて頭が上がらない。(もちろん最低限の休息はしているが)
 艦長と工兵隊のリーダーに挨拶をし、彼らの努力と成果を称えた。
 全員を集めた訓示は作業の邪魔になるからと、代表だけと挨拶を交わす。
 また、ダレン達を見掛けても会釈程度で済ませ、立ち止まっての敬礼は不要と予め伝えていた。
 それでも司令官が直接修理の最前線に足を運ぶというのは彼らの士気を大いに盛り上げた。
 もちろん手ぶらではない。
 数が少なくなったお酒と避妊具を提供し、どちらかを選ぶように伝えていた。
 どちらが人気あったかは推して知るべしだ。

 少し早かったので、破損した艦から取り外した重力ドライブ装置の修理が行われている現場を視察した後、輸送艦の中にある治療室と拘置所を見学して負傷者や拘束者の状況を確認した。

 数人の兵士に声をかけ、彼らの健康と安全を気遣った。  

「ダレン、艦隊葬の準備はできているけど、本当に参列するつもりなの?」

 ノリコがダレンに問いかけた。
 彼女は、ダレンが艦隊葬に直接参列することに疑問を持っていた。
 彼女は艦隊葬がダレンにとって辛いものになるのではないかと心配しており、ホロ会議を使って全艦に通信する方が良いと感じていた。
 これは通常はともかく、警戒体制時はそうする提督が殆どだからだ。

「ああ、参列するつもりだ。彼らは私たちの仲間だったんだ。彼らの死を悼み、彼らの功績を直接讃えたいんだ」

 ダレンはノリコに答えたが、彼は艦隊葬に自分が直接参加することに大きな意義があると信じていた。
 艦隊葬で故人に直接別れを告げ、生き残った者に励ましの言葉をかけたかった。
 死体は半数近く発見されず、宇宙空間に引き出され漂っている。
 数体は引き上げる事が出来たが、デブリに混じった小さな死体はまず見つからない。

「ダレン、どうしても出るのなら艦隊葬は厳粛に行われますから感情を抑えてください。艦隊のリーダーであるあなたの態度が他の者に影響します」

 ミズリアがダレンに忠告した。
 彼女はダレンが艦隊葬で涙を流すことを恐れていた。
 彼女はダレンが艦隊の士気を高めるために冷静さと威厳を持つべきだと思っていた。
 意外とセンチメンタルなところがあり、見かけによらず映画とかで涙を流すととある筋から情報を仕入れていたからだ。

「ありがとうミズリア。心配しないでも大丈夫だ。俺は感情を抑え、艦隊のリーダーとして振る舞うさ」

 ダレンはミズリアに安心させるように言ったが、艦隊葬で涙を流すことを避けると決めて、艦隊のリーダーとして責任と尊厳を持つことを誓った。

「ダレン、ノリコ大佐ではないけど、艦隊葬はつまらないよ。本音をいうとあなたには参列しないで欲しい。あなたが死者に対して心を痛めるところを見たくないの。他の司令官同様に出席する必要はないのよ」

 ミカがダレンに反対した。
 彼女はダレンが艦隊葬に参列することを嫌っており、艦隊葬がダレンにとって無意味なものになると感じていた。

「ありがとう、ミカ。でも参列しないといけないんだ。彼らは生きている。彼らは死者ではなく、彼らの魂は我々の心の中に生き続けいくんだ」

 ダレンはミカに説得するように言い、実際問題として艦隊葬に参列する以外の道はなかった。艦隊葬で故人に敬意と感謝を示すことを望まれているのが分かっていた。

 3人はダレンを支え、優しく慰めた。
 彼らは、ダレンの重圧を少しでも軽くしようとし、ダレンに自分たちの愛と尊敬を伝えた。3人はダレンと一緒にこの戦争を乗り越えることを誓った。

 そして艦隊葬の時がやってきた。
 輸送艦の甲板に(代わりに格納庫)、白い布に包まれた故人の遺体が並べられていた。
 遺体の数は200体ほどしかなかった。
 彼らは敵の攻撃によって即時に命を落とした者や、治療のかいなく負傷によって死亡した者だ。
 皆、勇敢に戦った者だった。

 ダレンはノリコ、ミズリア、ミカとともに、遺体の前に立った。
 彼は故人の顔を一人一人見つめ、その功績を讃え、別れを告げた。

「あなたたちは、私たちの仲間であり、記憶に残るでしょう…そしてその魂はわれ・・・われ・・・ぐっ!我らとともにある。捧げ銃・・・」 

 そこまでしか言えなかった。
 その顔からは涙が溢れていた。
 偶々別れを告げた死体が見知った者だったのもあり、涙が止まらなかった。
 そこから先の葬儀はつつがなく行われたが、ダレンが死者に涙を流した事は艦隊中に広がり、良い意味でこれまでにない司令官として艦隊の兵士たちの心を掴む事になった。
 但しミカからは後に情けないと罵倒されるが。

 ダレンが詰まりながら発せられた声は格納庫に響き渡り、その声は宇宙に、故人に届いたであろう。

 そして遺体はカプセルに入れられ、恒星へ向けて旅立つため、応急修理をした破損艦に移された。
 この輸送艦に接舷されていたのだ。航行不能ではないが、艦体の歪みが激しい修理不能だった。
 少なくとも空気は充填出来ないからだ。
 辛うじて恒星に向かう事が可能なので、無人艦として彼らの棺桶となり恒星へ旅立っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...