忘却の艦隊

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第50話 訓練

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 しかし、ダレンは全艦長には内緒でもう一つの設定を加えていた。それは、ジャンプアウトして模擬戦が始まるが、開始とともに旗艦が敵艦と衝突し中破するというものだった。
 旗艦と司令部以外は知らない。ダレンは指揮を取れなくなり、各艦は衝突警報に驚くことになる。ダレンは分隊指揮の経験がない艦長たちの本当の実力を試し、試練と危機を与えるつもりだった。

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 第2回模擬戦の開始となり、カウントダウンと共に重力ジャンプアウトすると、全艦に衝突警報が鳴り響いた。
 そして自動操縦による緊急回避行動が行われたが、あまりにも近すぎて一部の艦が回避しきれなかった。

 その中には旗艦があり、敵艦と激突して大破して旗艦からの通信は途絶えた。

 各艦は唖然とした。
 数艦から旗艦へ無事なのかを問い合わせが入ったが、もちろん返答はなかった。
 その行為は時間の無駄だった。

 その判断ミスから敵に先手を打たれる結果に繋がった。
 敵艦隊は旗艦が大破した混乱に乗じて攻撃を仕掛けた。
 旗艦の確認は護衛艦の役目だ。
 しかし、経験値なさと指示待ちだったのもあり、後手後手になってしまった。

 各艦は敵の猛攻にさらされ、分隊指揮の経験がない艦長たちは右往左往した。
 各艦は指示をくれるものがいなくなり、個別に操艦をしており分隊としてのまとまりと連携は崩れた。
 分隊としての統率まで失われ、分隊としての実戦でまともに対処できるようになるのは程遠く感じ取れた。

 ダレンは旗艦のブリッジで苦笑しながら、シュミレーターで各艦の様子を見ていた。
 分隊指揮の経験がない艦長たちに失望こそしないまでも、前途多難だなとつぶやき、司令部が壊滅した後の戦いぶりに焦りを感じた。

 ある戦艦は2艦で駆逐艦を攻撃し、ある巡洋艦は戦艦2艦に単独で仕掛けて返り討ちに遭う様だ。

 中には数艦でまとまって動いたのもあるが、殆どは各個撃破されていった。

 ダレンは模擬戦の結果を全艦長に伝えた。
 艦長立ちに対して、厳しくではないが散々たる結果を残念だと告げた。

「先程の模擬戦だが、結果は言うまでもないと思うが、何故だろうか?」

 彼らの失敗を認めさせ、分隊として行動する必要性を理解してもらいたかった。
 今回のことを期に、特に分隊長の成長を求めたと言うか、期待した。

 ダレンは旗艦のブリッジで表に出さないも、苦笑いしながらホロ会議で各艦長の様子を見ていた。

「このような模擬戦は意味がない!接近警報が鳴るような事が起こるなんて考えられない!私達を貶める為としか思えない!」

「そうだ!嫌がらせだ!」

「私達が苦しんでいるのを見て愉しんでいるのだろう!」

「女に良いところを見せようとしているにちがいない」

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 一部の艦長からはダレンのやり方に文句が出た。
 ダレンは分隊指揮の経験がない艦長たちに対して、無理を強いたり、あり得ない危険な設定をしたりと不公平だと言われた。

「自分達の無能さを棚に上げるものではないと思うがな。もちろん私もだ。訓練をしていないからこそ、そのような状態の者が指揮を取れないと理解しなければならない。我々はどう見ても訓練不足だ。先の戦いで訓練を受けた者が皆死んでしまった」

 しかし、中立派の艦長たるスベルク艦長から訓練を受けた分隊長が皆無だと指摘された。皆気が付いており、ダレンは事実を皆が受け入れるのを待った。
 ダレンではなく、艦長の1人が皆に対して、現実を突きつけたことに意味がある。

「そこでこれからのことについてだが・・・」

 ダレンは彼らに対して自分たちの能力を高めるように促した。
 もちろんダレンが訓練をつけるが。

 ダレンは分隊長、次席の分隊長予備軍の艦長達に分隊指揮のノウハウを叩き込むことにした。
 次の重力ジャンプまでの数日の間、その為の模擬戦をやり込むと宣言した。

 その後、ダレンは彼らに対して、厳しい訓練を課した。
 効果的な指導をしたが、それはあくまで必要な知識と技術を教えるためだ。
 各自に分隊としての自立と責任を持たせ成長をさせたが、あまりにハードだったため、一部の者がかなりの不満を抱くことになった。

 ダレンは分隊指揮の経験がない艦長に対し、分隊指揮を采るに十分な知識と訓練を実施し、立派な指揮官へと変貌させた。

 後は実践あるのみだ。
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