忘却の艦隊

KeyBow

文字の大きさ
上 下
30 / 85

第30話 ダレンvsサクスン

しおりを挟む

 ダレンとサクスンは格納庫で無手での格闘戦を始めた。
 2人は互いに慎重に距離を取りながら隙を突こうとした。
 ダレンはサクスンの動きを見て、彼の戦闘スタイルを分析した。
 サクスンは力強く素早いパンチやキックを繰り出すが、それには一瞬の反動があることを見逃さなかった。
 ダレンはその反動を利用し、サクスンの攻撃を躱しつつカウンターを狙った。

「おお、大佐殿はやるなぁ!」

 サクスンはダレンの技に感心しながらも、笑顔で応戦した。
 サクスンはダレンの攻撃を受け流し、自分の体重をかけて組み付こうとした。
 ダレンはサクスンの抱きつきを振り払おうとしたが、サクスンはしつこくダレンの腕や首に腕を絡めたり、掴んでは投げようとした。

「ぐっ、重いな!」

 ダレンはサクスンの重量感に苦戦した。彼はサクスンの関節を捻ろうとしたが、サクスンはそれを巧みに躱して防ぐ。2人は格納庫の床に倒れ込みながらも、互いに離れようとしなかった。

「大佐、これ以上は危険です!止めてください!」

 ノリコは2人の様子に焦った。彼女は2人の間に割って入ろうとしたが、周りのクルーがそれを止めた。

「ノリコ中佐、大丈夫ですよ。大佐も兵曹長も本気ではありません。ただ楽しんでいるだけです」

「でも、怪我をするかもしれません!」

「それも含めて楽しんでいるんですよ。大佐も兵曹長も無手の格闘が好きなんです。それに、この艦で一番強い者が大佐と試合をすれば、他のクルーも刺激されます!」

「刺激される?」

「はい。見てくださいよ。周りのクルーは皆興奮していますよ。大佐と兵曹長の戦いを見て、自分たちも頑張ろうと思っていますよ」

 ノリコは周りのクルーを見た。確かに彼らは2人の戦いに熱心に見入っており、声援や応援を送っていた。それに観衆の表情には笑顔や興奮があふれていた。

「これは……」

 ノリコは驚いた。

「これが大佐の狙いなんですよ。大佐はこの艦のクルーと親しくなりたいんです。そして、彼らに自信とやる気を与えたいんです。だから、兵曹長と戦っていますよ」

「そうなんですか……」

 ノリコはダレンの考え方に感心した。

「そうですよ。大佐はこの艦のクルーは艦隊の魂だと言ってくれましたよね。それならば、この艦の魂にふさわしい働きをするために、私たちは大佐について行くべきですよ」

「そうですね……」

 ノリコは2人の戦いに改めて目を向けた。

 ダレンとサクスンはお互いに譲らないまま、格納庫で戦っていた。2人は汗だくになりながらも、笑顔でパンチやキックや投げを繰り出した。2人の戦いは激しさを増し、格納庫の空気は熱気に満ちた。

「おお、大佐は強いな!」

「ふふ、兵曹長もなかなかだな!」

「では、もっと本気を出してみようか!」

「いいぞ、かかってこい!」

 2人は力を込めて互いに突進した。

 そして、激しい衝撃が格納庫に響いた。


 時は少し戻る。
 艦の中では、ダレンがブリッジに入る時に中兵隊の立哨兵と交わした会話が一気に広がり、艦内で手合わせがあるとみなされ、下士官以下のネットワークにそれが伝わっていた。

「おい、聞いたか?大佐がサクスン兵曹長と格納庫で戦ってるらしいぞ」

「マジか?大佐が無手の格闘で?」

「そうだよ。立哨兵が聞いたんだって。大佐がサクスンに無手の格闘が一番強い者か?と聞くと、サクスンは本当だと答えたらしい。で、大佐が手合わせしてみたいと言ったんだってよ」

「すげえな。大佐もサクスンも無手の格闘が好きなんだろうな」

「そうだろうな。どっちが勝つと思う?」

「さあな。大佐は戦闘経験豊富だろうし、技術も高そうだけど、サクスンは筋力もスピードもあるし、無茶もするからな」

「じゃあ、賭けようぜ。俺はサクスンに100クレジット賭けるぜ」

「おう、それなら俺は大佐に100クレジット賭けるぜ」

「よし、決まりだな。じゃあ、どこで見る?」

「そりゃあ、ネットワークで見るに決まってるだろ。誰かが映像を流してくれるはずだぜ」

「そうか。じゃあ、早く見つけようぜ」

 2人はネットワークを検索し始めた。
 また、その者達が艦隊の裏ネットに流したのもあり各艦に一気に広がった。
 殆どの者が臨時の休憩を突然言い渡され、暇を持て余していた。

 その頃、ある巡洋艦では、すでに映像を見つけた者がいた。

「おい、見ろよ。これだぞ。大佐とサクスンの戦いだぞ」

「マジか?どこで見つけたんだ?」

「ここだよ。[裏格納庫チャンネル]だよ。誰かがライブ配信してくれてるんだよ」

「すげえな。早速見ようぜ」

 2人は[裏格納庫チャンネル]を開いた。

 そこにはダレンとサクスンの激しい戦いの様子が映っていた。

「おお、すごいな。大佐もサクスンも本気だな」

「本気か?でも遊んでる感じもするな。2人とも笑顔だぜ」

「それが楽しんでる証拠だろうな。俺もこんな風に戦えたらいいのにな」

「そうだな。でも、俺たちは戦闘機のパイロットだからな。無手の格闘はあまり役に立たないぜ」

「まあな。でも、やってみたいよな」

「やってみたいか?じゃあ、俺とやろうぜ」

「え?本気か?」

「ああ。俺も無手の格闘が好きだからな。お前さんと戦えば楽しめるだろう」

「そうか。それならば君と手合わせしてみたいな」

 2人は笑顔で向かい合って構えた。

 そして、激しい衝撃が巡洋艦に響いた。

 このように、ダレンとサクスンの戦いは全艦に流され、多くのクルーが興奮や感動等の刺激を受けた。
 ダレンはそのような裏ネットを見て見ぬ振りをしていたが、実は彼もその効果を狙っていた。彼はこの艦のクルーと親しくなりたかったし、彼らに自信とやる気を与えたかった。だから、サクスンと戦ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...