忘却の艦隊

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第30話 ダレンvsサクスン

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 ダレンとサクスンは格納庫で無手での格闘戦を始めた。
 2人は互いに慎重に距離を取りながら隙を突こうとした。
 ダレンはサクスンの動きを見て、彼の戦闘スタイルを分析した。
 サクスンは力強く素早いパンチやキックを繰り出すが、それには一瞬の反動があることを見逃さなかった。
 ダレンはその反動を利用し、サクスンの攻撃を躱しつつカウンターを狙った。

「おお、大佐殿はやるなぁ!」

 サクスンはダレンの技に感心しながらも、笑顔で応戦した。
 サクスンはダレンの攻撃を受け流し、自分の体重をかけて組み付こうとした。
 ダレンはサクスンの抱きつきを振り払おうとしたが、サクスンはしつこくダレンの腕や首に腕を絡めたり、掴んでは投げようとした。

「ぐっ、重いな!」

 ダレンはサクスンの重量感に苦戦した。彼はサクスンの関節を捻ろうとしたが、サクスンはそれを巧みに躱して防ぐ。2人は格納庫の床に倒れ込みながらも、互いに離れようとしなかった。

「大佐、これ以上は危険です!止めてください!」

 ノリコは2人の様子に焦った。彼女は2人の間に割って入ろうとしたが、周りのクルーがそれを止めた。

「ノリコ中佐、大丈夫ですよ。大佐も兵曹長も本気ではありません。ただ楽しんでいるだけです」

「でも、怪我をするかもしれません!」

「それも含めて楽しんでいるんですよ。大佐も兵曹長も無手の格闘が好きなんです。それに、この艦で一番強い者が大佐と試合をすれば、他のクルーも刺激されます!」

「刺激される?」

「はい。見てくださいよ。周りのクルーは皆興奮していますよ。大佐と兵曹長の戦いを見て、自分たちも頑張ろうと思っていますよ」

 ノリコは周りのクルーを見た。確かに彼らは2人の戦いに熱心に見入っており、声援や応援を送っていた。それに観衆の表情には笑顔や興奮があふれていた。

「これは……」

 ノリコは驚いた。

「これが大佐の狙いなんですよ。大佐はこの艦のクルーと親しくなりたいんです。そして、彼らに自信とやる気を与えたいんです。だから、兵曹長と戦っていますよ」

「そうなんですか……」

 ノリコはダレンの考え方に感心した。

「そうですよ。大佐はこの艦のクルーは艦隊の魂だと言ってくれましたよね。それならば、この艦の魂にふさわしい働きをするために、私たちは大佐について行くべきですよ」

「そうですね……」

 ノリコは2人の戦いに改めて目を向けた。

 ダレンとサクスンはお互いに譲らないまま、格納庫で戦っていた。2人は汗だくになりながらも、笑顔でパンチやキックや投げを繰り出した。2人の戦いは激しさを増し、格納庫の空気は熱気に満ちた。

「おお、大佐は強いな!」

「ふふ、兵曹長もなかなかだな!」

「では、もっと本気を出してみようか!」

「いいぞ、かかってこい!」

 2人は力を込めて互いに突進した。

 そして、激しい衝撃が格納庫に響いた。


 時は少し戻る。
 艦の中では、ダレンがブリッジに入る時に中兵隊の立哨兵と交わした会話が一気に広がり、艦内で手合わせがあるとみなされ、下士官以下のネットワークにそれが伝わっていた。

「おい、聞いたか?大佐がサクスン兵曹長と格納庫で戦ってるらしいぞ」

「マジか?大佐が無手の格闘で?」

「そうだよ。立哨兵が聞いたんだって。大佐がサクスンに無手の格闘が一番強い者か?と聞くと、サクスンは本当だと答えたらしい。で、大佐が手合わせしてみたいと言ったんだってよ」

「すげえな。大佐もサクスンも無手の格闘が好きなんだろうな」

「そうだろうな。どっちが勝つと思う?」

「さあな。大佐は戦闘経験豊富だろうし、技術も高そうだけど、サクスンは筋力もスピードもあるし、無茶もするからな」

「じゃあ、賭けようぜ。俺はサクスンに100クレジット賭けるぜ」

「おう、それなら俺は大佐に100クレジット賭けるぜ」

「よし、決まりだな。じゃあ、どこで見る?」

「そりゃあ、ネットワークで見るに決まってるだろ。誰かが映像を流してくれるはずだぜ」

「そうか。じゃあ、早く見つけようぜ」

 2人はネットワークを検索し始めた。
 また、その者達が艦隊の裏ネットに流したのもあり各艦に一気に広がった。
 殆どの者が臨時の休憩を突然言い渡され、暇を持て余していた。

 その頃、ある巡洋艦では、すでに映像を見つけた者がいた。

「おい、見ろよ。これだぞ。大佐とサクスンの戦いだぞ」

「マジか?どこで見つけたんだ?」

「ここだよ。[裏格納庫チャンネル]だよ。誰かがライブ配信してくれてるんだよ」

「すげえな。早速見ようぜ」

 2人は[裏格納庫チャンネル]を開いた。

 そこにはダレンとサクスンの激しい戦いの様子が映っていた。

「おお、すごいな。大佐もサクスンも本気だな」

「本気か?でも遊んでる感じもするな。2人とも笑顔だぜ」

「それが楽しんでる証拠だろうな。俺もこんな風に戦えたらいいのにな」

「そうだな。でも、俺たちは戦闘機のパイロットだからな。無手の格闘はあまり役に立たないぜ」

「まあな。でも、やってみたいよな」

「やってみたいか?じゃあ、俺とやろうぜ」

「え?本気か?」

「ああ。俺も無手の格闘が好きだからな。お前さんと戦えば楽しめるだろう」

「そうか。それならば君と手合わせしてみたいな」

 2人は笑顔で向かい合って構えた。

 そして、激しい衝撃が巡洋艦に響いた。

 このように、ダレンとサクスンの戦いは全艦に流され、多くのクルーが興奮や感動等の刺激を受けた。
 ダレンはそのような裏ネットを見て見ぬ振りをしていたが、実は彼もその効果を狙っていた。彼はこの艦のクルーと親しくなりたかったし、彼らに自信とやる気を与えたかった。だから、サクスンと戦ったのだった。
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