忘却の艦隊

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第29話 鹵獲艦の視察

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 ダレンはノリコ艦長に案内され艦内を見て回った。ブリッジからスタートして、各部門を見て回り、艦の状態やクルーの様子を確認した。艦はまだ完全には修理されていなかったが、ノリコの言う通り出発予定に間に合いそうだった。クルーもやる気に満ちており、ダレンは彼らの努力をねぎらった。

「この艦は敵から奪ったものだが、我々の艦として生まれ変わらせるぞ。それに元々人類の艦だ!君たちはこの艦の魂だ。誇りを持って戦ってくれ」

「はっ!ありがとうございます、大佐!」

 ダレンはノリコに聞いた。

「この艦には名前があるのか?」

「はい。ベオウルフ号です。北欧神話に登場する英雄の名前です」

「なるほど。英雄の名を冠した艦か。それならば、英雄にふさわしい働きを期待するぞ」

「はい。大佐、私たちはご期待に添えるような英雄になります!」

 ノリコは熱く宣言し、その真面目な宣言にダレンは微笑んだ。

「そう言ってくれると嬉しいな。では、次に行こうか」

「はい。次は格納庫です」

 ノリコはダレンを格納庫へと案内した。格納庫には艦載機や宇宙戦闘機が整然と並んでいた。ダレンは興味深そうにそれらを見回した。

「これらの機体も敵から奪った時にあったものか?」

「はい。敵の機体ではなく、我々の機体より新しい型式ですが、我々のシステムに合わせて改造してあります。性能もどの艦の艦載機よりも進化しています」

「そうか。それならば、敵と互角以上に渡り合えるな?」

「はい。大佐、こちらが格納庫長のサクスン兵曹長です」

 ノリコは1人の男性を紹介した。サクスン兵曹長は筋肉質で髭面の男だった。彼はダレンに敬礼した。

「サクスン兵曹長、よろしくな」

「はっ!ありがとうございます、大佐!私たちは格納庫で最高の仕事をします!」

「そう言ってくれると頼もしいな。君はこの艦で無手の格闘が一番強い者だと聞いたが、本当か?」

 ダレンはサクスンに挑発的に尋ねた。

 サクスンは驚いた表情をしたが、すぐに笑みを浮かべた。

「はっ!それは本当です、大佐!私は無手の格闘では誰にも負けません!」

「そうか。それならば是非君と手合わせしてみたいな。もちろん階級抜きでな」

 ダレンはサクスンに提案すると、サクスンは目を輝かせた。

「本気ですか、大佐?私と戦って頂けるんですか?」

「ああ。私も無手の格闘が好きだからな。君と戦えば楽しめるだろう?」

 ダレンはドヤ顔でサクスンに応えたが、そのやり取りにノリコは呆れ顔をした。

「大佐、それはやめてください!確かにサクスン兵曹長は無手の格闘では駐留艦隊の中でも屈指の腕前ですが、格闘戦は彼の任務ではありません!彼の任務は格納庫で機体の整備をすることです!大佐が彼と戦って怪我をさせたら、どうなると思いますか?」

「大丈夫だ。私は怪我をさせないように気を付ける。それに、サクスン曹長も私に怪我をさせないようにするだろう」

 ダレンはノリコをなだめた。

「はっ!そうであります、大佐!私は大佐に敬意を持って戦います!」

 サクスンはダレンに同意した。

「では、決まりだな。ここでやろうか」

 ダレンは格納庫の広いスペースを指差した。
 そこには生体コンピューターが鎮座していたが、それを除去していた。
 おそらく本来そこには艦載機があったか、艦載機の整備スペースだったようだ。

「はっ!ここでやりましょう!」

 サクスンはダレンに従い、ノリコは仕方なく2人の後についた。

「大佐、本当にやめてください!これは無駄な時間です!」

「いや、これは必要なことだ。サクスンと戦えば、彼の力量や性格を知ることができる。それに、私もこの艦のクルーと親しくなりたいんだ。彼らは一緒に戦う仲間なんだからな」

 ダレンはノリコに説明した。

「でも、大佐……」

「もういい。心配しなくても大丈夫だ。私たちはただ楽しく戦うだけだ」

 ダレンはノリコを制するとサクスンと向かい合って構えた。

「よし、始めようか。誰か審判を頼む!」

 するとどこからともなく砲術士の2等兵が、現るや否や開始を告げたが、艦の半数のクルーが見物に集まっていた。密かにダレンが当直クルー以外を臨時で休憩としたからだ。

「ではダレン大佐と我らがサクスンの試合を始めます!くれぐれも大怪我をしないように!それでは始め!」
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