忘却の艦隊

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第28話 3番艦ノリコ・ハーマン艦長

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 鹵獲艦はどれも似たりよったりだそうだ。
 残念ながら、コンピューター内のデーターからは目ぼしい情報は得られなかった。

 星系図等は33年前と同じで、新たに人類の支配下に加わった星系はなかった。

 また、この艦がどのような経緯で敵の手中に収まったのかは謎だが、コンピューターにあるデーターではなく、定期的に交換しなければならない生命維持系の部材のストックとか、交換済みの物が保管される保管庫の状況から就航前の艦だった可能性が高いと判断された。

 となると、製造工廠が襲われたか、奪われたか?

 現在懸命に手直しをしているが、細かい作りが荒いそうだ。
 艦外や外郭の作りに対しては手を抜けないので、新造艦と遜色のない仕上がりだが内装は違う。
 一部の居室のスライドドアが手動だったりする。
 建付けが悪く、自動だと引掛かるから、やむなく手動にしたとか、ドアの額縁も隙間があっても機能すれば良しとし、換気扇もダクトが繋がっていない部屋があったりと酷いようだ。

 時間を掛けて調整すれば良いようだが、33年前だとありえない。

 兵装は新造艦と一世代前の艦の間の性能だ。
 このクラスが主力艦なのか、1段落ちる艦なのかは分からなかった。
 だが、間違いなく艦を失った駐留艦隊の者達が乗り込む代替え艦になる。

 艦長は廃棄した艦の艦長や副長を充てた。

 新造艦と旧艦の方は、基本的に旧艦の艦長とその副長で賄っている。
 そこで、今回は輸送艦にいる他の星系に向かう客人の佐官からも艦長や副長経験のある者を宛てた。

 また、実質的にいなくなった各艦の副長を任命すべく、その候補に優秀な尉官を充てる。
 基本的に少佐が副長をするのだが、それを大尉や中尉が担う。

 そう、艦数と指揮官(艦長や副長)の数が合わなくなっているのだ。
 急遽艦長不在の艦に対し、副長を艦長に据えたからだ。

 これまでは殆どコールドスリープだったから良かったが、戦闘に突入したのはクルーの入れ替え途中だった等、人員配置も偏っていた。

 そこで、各兵の特性や資格はデータベースにあるので、AIに適切な人員配置の素案を作らせ、各艦の艦長に送る。その間にダレン大佐は鹵獲した艦を直に見、次に輸送艦にいる者達と顔合わせをする事にしていた。

 そして鹵獲艦3番艦であるベオウルフ号に到着し、艦に入ろうとしていた。

「大佐、ベオウルフから3番エアロックの準備が整った旨連絡が来ました。小官はどうすればよいでしょうか?」

「無人にしても問題なかろう。通信はAIに任せ、君も後学のためについてこい」

 そうして操縦士も含め、10名はローバー形体のランチを出てエアロックへと歩き出した。

 予め過剰な出迎えは止めていた。
 エアロックに護衛の宙兵隊員と、案内の士官のみが出迎える。

 まずはパワードスーツを脱ぐ所からで、エアロックの隣のスペースで脱ぎ、艦の宙兵隊が保管というか、並べて置いてくれるので通路へと進む。

 全員に話し掛けられなければ手を休めないように言ってある。
 呑気に整備をしている訳では無い。
 この星系は敵の勢力下と見做すので、視察とは言え敬礼等は止めさせ、艦の整備を最優先にした。

 先ずはブリッジに向かうが、ブリッジの入口では宙兵隊員が立哨をしている。
 決まりで敵勢力圏や、警戒体制時は武装した宙兵隊が立哨をする。
 もちろん戦闘に入るとパワードスーツを着て身体を固定すべく、エアロックや格納庫にある艇に乗り込み待機したりする。

「ブリッジへ告ぐ、ダレン艦隊司令がブリッジへ入られます!」

 宙兵隊員がパネルを操作してドアを開けると、ダレンに背中を向ける形で1歩前に進み、ブリッジに1歩足を踏み入れてダレンの到着を告げた。

 そして横を向くと1歩下がりダレンに敬礼をする。手に持つライフル型の電子銃を立哨時の持ち方、つまりベルトを使い、肩に銃を掛けて銃口は上に向けている。

 これは見た目がアサルトライフルに近く、約80cmある制圧用の電子ショック銃を立哨の兵が持っているが、万が一意図せずに発砲したとしても、天井にならばビーム吸収素材により反射せずに散っていくからだ。

 ダレンは宙兵隊員の肩にポンと手をやると、一言告げた。

「君、この艦で無手の格闘が一番強い者は分かるか?」

「はっ!サクスン兵曹長だと思います」

「うむ」

 ダレンは悪い笑みを浮かべてブリッジに入る。

「艦隊司令が到着されました。全員敬礼!」

 当直士官がダレンに敬礼をしつつ、ブリッジにいる者に対して発した。

「敬礼は不要だ。構わず続けてくれ」

 そう言うと、1人の女性が近付いて来た。
 ダレンと年齢が近い妙齢の女性士官だ。
 ブロンズヘアをアップにまとめ、メガネを掛けたら女教師と言った具合の化粧をしている。
 少しきつめだが、年齢から来る妖艶な感じを醸し出す。
 気の所為か何処かで見たような気がする。

「大佐、ようこそベオウルフ号へ!艦長のノリコ・ハーマンです!お越し頂き光栄です」

「ノリコ中佐、楽にしろ。そう硬くならなくても良いぞ」

「はっ!」

「艦の状態について率直な意見を聞きたい。君は駐留艦隊で巡洋艦の艦長をしていて、艦は大破したのだったな?戦艦は初めてだそうだが、やっていけそうか?」

「はっ!艦が大きくなりましたが、さほど代わりありません。巡洋戦隊を率いた事を思うと自分に与えられた艦のみに集中できますから!ライラック号を生き残ったクルーを中心に皆、実際良くやってくれています!今のところ出発予定迄に全ての整備が終わりそうです!」 

「そのようだな。そうか、戦隊を率いていたのか。何艦を率いていたんだ?」

「はい。駐留艦隊には20艦の巡洋艦がおり、あの戦いでは途中から率いていました。その、大佐、ライラック号は何故生き残ったのでしょうか?」

「どういう事だ?」

「はい。あの時ブリッジもサブブリッジも被弾により機能していませんでしたが、誰かがジャンプ操作をしたのでしょうか?ライラック号は大破し操艦不可で、外部の通信は受理できたようですが、少なくともブリッジでは通信出来ませんでした」

「ああ。君の艦を含め、裏コードを使い命令を受託出来なかった艦を自動操艦でジャンプさせたんだ」

「やはり、私達は司令に命を救われたのですね。ジャンプする直前の映像を見ましたが、超新星爆発を引き起こし驚きました。奇跡的に重力がまだあり、衝撃波が到達する直前に重力ジャンプしましたが、中心が爆発するまで数秒もなかったでしょう?そうなると衝撃波から逃れられず、我々は死んでいたはずです」

「そうだな。重力が変わってしまったから、ジャンプした先が変わってしまったな。皆から恨まれただろうな」

「そんなことは許しません!感謝こそすれども、恨むのはお門違いです。恒星が爆発した記録が残っている艦は僅かでしょうから、これは後ほど全艦に流しますわ」

「できるのか?」

「ふふふ。裏コードを知っているのは何も大佐だけではないのですわよ!」

 その後副長に全てを押し付けたのか、艦長自ら艦内を案内してくれた。
 まあ、ムサイおっさんより女性の案内の方が俺も心地よいと感じるのは内緒だ。
 何より美人にエスコートされて悪い気はしないさ。
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