忘却の艦隊

KeyBow

文字の大きさ
上 下
13 / 85

第13話 重力ジャンプとは

しおりを挟む
「大佐、恒星が完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられなくなるまであと5分です」

 誰も反応しないので航法士は再び警告した。
 正確にはブラックホール化するのとは違うのだが、その方がわかりやすいと判断したのだ。
 恐らく超新星化する。
 一般的な知識として、そうなれば星系内にいる全ての生命は焼き尽くされ、艦は例外なく大破するだろう。
 ひょっとしたら地中奥深くの工廠にいれば助かるかもだが、星系に住まう者も助かる術は皆無だ。

 気が付いたら死んでいる。
 何が起こったか分からぬまま死ぬだろう。
 苦しみもなく、瞬きした次の瞬間、体は灰となる。
 知らせても無意味だ。
 通信が届いた時にはもう死んでおり、受け取る者もいない。

「了解した。各部署、緊急退避準備を整えろ。重力ジャンプを敢行する」

 ダレン大佐は迷うことなく即時に命令した。

「重力ジャンプですか?」

 マクスロイ艦長が驚き、つい聞き返してしまった。

「そうだ。重力ジャンプだ。これ以上この星系に留まっていても死ぬだけだ。重力ジャンプでこの場を脱出するしかない」

 ダレン大佐は声を張り上げて言った。

「しかし・・・重力ジャンプは恒星から近い距離では禁止されています。それにシステム的にも不可能です。脱出ポッドで漂う者はどうするのですか?」

 マクスロイ艦長が反対意見と、不可能なことだと告げた。

「もっともな意見だ。だがな、不可能ではない。制限内に解除すれば可能だ。俺はその方法を知っている。それと、時間的に脱出ポッドを回収する時間はない。残念だが助けられない」

 ダレン大佐は不敵な笑みを浮かべながら言った。

「なぜ可能なのか聞いても?」

 マクスロイ艦長は疑問を口にした。

「ああ。俺はフェニックスクラウンの設計者だぞ。その性能や特徴を最もよく知っている人物だ。フェニックスクラウンはこの位置で重力ジャンプを可能にする装置を持っている。それを利用すれば、重力ジャンプを敢行できる。他の艦はフェニックスクラウンと同調さえすれば、後はシステムがやってくれる」

 ダレン大佐は自信有り気に説明した。

「本当ですか?」

「本当だ。信じてくれ」

 マクスロイ艦長はダレン大佐の履歴から、彼がこの位置でも、重力ジャンプを可能にする何かしらの方法を知っている可能性が高いと判断した。 
 彼はダレン大佐に信頼を寄せていたが、それでも重力ジャンプは危険な行為だった。
 また、流石に艦長だけあり、そのような装置がないのは分かっているが、違法な方法として、別の手段を知っているのだろうと理解した。

 重力ジャンプとは恒星や惑星などの重力源を利用して、空間を歪めて移動する航法だ。
  通常のワープと違って、恒星から距離が近いと目的地や到着時間を正確に制御できない。
 そのため、重力ジャンプは恒星から遠い距離でしか行えない。
 恒星から近い距離で行うと、重力の影響でコースがずれたり、時間がずれたり、場合によっては消滅したりする危険があった。

 それにより恒星から一定距離内で重力ジャンプは緊急時にしか使われない。 しかも、航宙軍の一部高官のみが知るセキュリティーコードが必要だった。 
 設計上知る必要があり、それがあるので、ダレン大佐は戦闘中の艦の指揮を本来は取らない立場だった。
  設計上のセキュリティーを知り尽くしていて、各種制限を解除することが可能だった。

 ダレン大佐はそのセキュリティーコードを知っていた。 
 彼はフェニックスクラウンの設計者であり、その性能や特徴を最もよく知っている人物だった。
  フェニックスクラウンは重力ジャンプを可能にする装置を持っていた。 それを利用すれば、重力ジャンプを刊行できると説いたのだ。

「大佐、恒星が完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられなくなるまであと3分です」

 航法士が警告した。

「了解した。各艦に告げる!緊急退避準備を整えろ。重力ジャンプを敢行する」

 ダレン大佐は命令した。

「大佐、本当に重力ジャンプですか?」

 マクスロイ艦長が確認した。

「そうだ。信じてくれ。これが生き残る為に残された唯一の方法なんだ」

 ダレン大佐は表情を崩さずに言った。
 その横でミズリアは落ち着いてダレン大佐達を撮影していた。

「分かりました。では、私も協力します」

 マクスロイ艦長は了承し、艦内に準備を命じた。

 ダレン大佐はブリッジから全艦隊に向けて通信した。

「全艦隊に告げる。我々は重力ジャンプを敢行する。各艦準備せよ!。反対する者はおらんな!」

 彼の声は冷静で厳かだった。

 しかし、その命令に対して各艦から反発の声が上がった・・・
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...