忘却の艦隊

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第13話 重力ジャンプとは

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「大佐、恒星が完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられなくなるまであと5分です」

 誰も反応しないので航法士は再び警告した。
 正確にはブラックホール化するのとは違うのだが、その方がわかりやすいと判断したのだ。
 恐らく超新星化する。
 一般的な知識として、そうなれば星系内にいる全ての生命は焼き尽くされ、艦は例外なく大破するだろう。
 ひょっとしたら地中奥深くの工廠にいれば助かるかもだが、星系に住まう者も助かる術は皆無だ。

 気が付いたら死んでいる。
 何が起こったか分からぬまま死ぬだろう。
 苦しみもなく、瞬きした次の瞬間、体は灰となる。
 知らせても無意味だ。
 通信が届いた時にはもう死んでおり、受け取る者もいない。

「了解した。各部署、緊急退避準備を整えろ。重力ジャンプを敢行する」

 ダレン大佐は迷うことなく即時に命令した。

「重力ジャンプですか?」

 マクスロイ艦長が驚き、つい聞き返してしまった。

「そうだ。重力ジャンプだ。これ以上この星系に留まっていても死ぬだけだ。重力ジャンプでこの場を脱出するしかない」

 ダレン大佐は声を張り上げて言った。

「しかし・・・重力ジャンプは恒星から近い距離では禁止されています。それにシステム的にも不可能です。脱出ポッドで漂う者はどうするのですか?」

 マクスロイ艦長が反対意見と、不可能なことだと告げた。

「もっともな意見だ。だがな、不可能ではない。制限内に解除すれば可能だ。俺はその方法を知っている。それと、時間的に脱出ポッドを回収する時間はない。残念だが助けられない」

 ダレン大佐は不敵な笑みを浮かべながら言った。

「なぜ可能なのか聞いても?」

 マクスロイ艦長は疑問を口にした。

「ああ。俺はフェニックスクラウンの設計者だぞ。その性能や特徴を最もよく知っている人物だ。フェニックスクラウンはこの位置で重力ジャンプを可能にする装置を持っている。それを利用すれば、重力ジャンプを敢行できる。他の艦はフェニックスクラウンと同調さえすれば、後はシステムがやってくれる」

 ダレン大佐は自信有り気に説明した。

「本当ですか?」

「本当だ。信じてくれ」

 マクスロイ艦長はダレン大佐の履歴から、彼がこの位置でも、重力ジャンプを可能にする何かしらの方法を知っている可能性が高いと判断した。 
 彼はダレン大佐に信頼を寄せていたが、それでも重力ジャンプは危険な行為だった。
 また、流石に艦長だけあり、そのような装置がないのは分かっているが、違法な方法として、別の手段を知っているのだろうと理解した。

 重力ジャンプとは恒星や惑星などの重力源を利用して、空間を歪めて移動する航法だ。
  通常のワープと違って、恒星から距離が近いと目的地や到着時間を正確に制御できない。
 そのため、重力ジャンプは恒星から遠い距離でしか行えない。
 恒星から近い距離で行うと、重力の影響でコースがずれたり、時間がずれたり、場合によっては消滅したりする危険があった。

 それにより恒星から一定距離内で重力ジャンプは緊急時にしか使われない。 しかも、航宙軍の一部高官のみが知るセキュリティーコードが必要だった。 
 設計上知る必要があり、それがあるので、ダレン大佐は戦闘中の艦の指揮を本来は取らない立場だった。
  設計上のセキュリティーを知り尽くしていて、各種制限を解除することが可能だった。

 ダレン大佐はそのセキュリティーコードを知っていた。 
 彼はフェニックスクラウンの設計者であり、その性能や特徴を最もよく知っている人物だった。
  フェニックスクラウンは重力ジャンプを可能にする装置を持っていた。 それを利用すれば、重力ジャンプを刊行できると説いたのだ。

「大佐、恒星が完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられなくなるまであと3分です」

 航法士が警告した。

「了解した。各艦に告げる!緊急退避準備を整えろ。重力ジャンプを敢行する」

 ダレン大佐は命令した。

「大佐、本当に重力ジャンプですか?」

 マクスロイ艦長が確認した。

「そうだ。信じてくれ。これが生き残る為に残された唯一の方法なんだ」

 ダレン大佐は表情を崩さずに言った。
 その横でミズリアは落ち着いてダレン大佐達を撮影していた。

「分かりました。では、私も協力します」

 マクスロイ艦長は了承し、艦内に準備を命じた。

 ダレン大佐はブリッジから全艦隊に向けて通信した。

「全艦隊に告げる。我々は重力ジャンプを敢行する。各艦準備せよ!。反対する者はおらんな!」

 彼の声は冷静で厳かだった。

 しかし、その命令に対して各艦から反発の声が上がった・・・
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