忘却の艦隊

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第4話 ダレン指揮を執る

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 ダレンがブリッジに入ったが、歩哨は顔をしかめ何故上半身裸?と首を傾げていた・・・

「ダレン大佐がブリッジに到着されました。指揮権の確認を行います」

 ドアに近い位置に座る当直士官がダレン大佐が到着した旨、ブリッジにいる全員に告げた。

「了解しました。指揮権をダレン大佐に移譲します・・・指揮権の移譲が完了しました。ダレン大佐、艦隊の指揮をお願いします」

「うむ。ダレンだ。確認した。これより第12特別輸送艦隊全艦の指揮を執る。各部署からの報告を聞きたい。艦長、敵と味方の状況は?」

「大佐、早速ですが現在の状況は・・・」

 マクスロイ艦長は、いかにもこれぞ航宙艦の艦長です!といった貫禄のある中年の男だ。 大佐に対し、ホログラム画面に映し出されたライナン星系の星系図を指し示した。

「駐留艦隊は敵の前哨部隊と交戦し、これを撃破しましたが、敵の本隊と後詰め部隊が接近しています。本隊は約300艦と戦闘艇700艇、後詰め部隊は約150艦です。駐留艦隊は約200艦、戦闘艇は200ですが、既に損傷が大きく、撤退も困難です。我々は輸送任務中でしたが、戦闘中の駐留艦隊より救援要請が入りました。我が第12輸送艦隊の戦力は約250艦ですが、新造艦と旧艦の入れ替え作業中です。また、指揮系統や操作に不慣れな者も多くいます。現在、旗艦の艦長として全艦に出撃準備を命じていますが、時間がありません。それと入れ替えのため本来の艦とは別の艦にいる者には、追って指示があるまで今いる艦で戦闘配置に着くように指示をしました。また、現在衛星上にいる約250艦は大佐の指揮下にあります。異例ではありますが、提督ではない大佐が正式な指揮権を持っており、間違いなく最先任です」

ダレン大佐は今更ジタバタしても始まらないと腹を括り、堂々と振る舞うことにした。もしも狼狽えているように見えてしまうと、混乱に拍車が掛かってしまうので、ハッタリでも自信あり気に振る舞うことにしたのだ。
それと提督室に籠もらざるを得なく、フェニックスクラウン内についても一部の下級士官と艦長しか面識がなく、ブリッジクルーも席次から何の担当か判断するしかなく、役職で呼ばざるを得なかった。

「了解した。これより戦闘指揮を執る。航法士、敵と味方の位置関係は?」

「航法士です。敵本隊と駐留艦隊は第5惑星と第4惑星の間で交戦中です。敵後詰めは第5惑星の裏側に待機中です。駐留艦隊の3分の1は第5惑星と第6惑星の間で輸送任務中で、輸送艦と護衛艦を除き戦闘宙域に向かっております。敵本隊と駐留艦隊までの距離は約300万km、敵後詰めまでの距離は約400万kmです」

「了解した。戦術士、作戦案は?」

「戦術士です。作戦案は以下の通りです。本艦隊は最大戦速で敵本隊と駐留艦隊の交戦地点へ向かいます。途中で新造艦と旧艦の編成替えを完了させます。新造艦のうち護衛艦を除き前衛として敵本隊に突撃し、旧艦は後衛として支援及び本艦と戦術輸送艦の護衛に当たらせます。駐留艦隊と協力し、本艦の一撃を持って敵本隊を撃破します。その後、敵後詰めに対処します」

「了解した。私の案とほぼ同じだが、細かい指示は別途出す。よし!マクスロイ艦長、全艦の艦長にホログラム会議に参加するように通達してくれ。艦長がいなければ最先任士官をだ。我々は駐留艦隊救援任務の為に出撃せざるを得ない。その際、こちらの存在に気が付いた又は既に敵の一部が我々に向かって来て襲い掛かって来るはずだ。しかし、我々には秘密兵器がある。人類が誇る新造砲艦フェニックスクラウンだ。この艦は敵艦隊に対し一撃で壊滅的な打撃を与えることができるだろう。最終テストをせずにいきなり実戦投入になったが、君達ならば不可能ではないと私は信じている。しかし、その為にはまずこの衛星から離れ、敵との射線上まで移動する必要がある。その際、旗艦を守るのはここにいる寄せ集めの混成艦隊となる。この作戦は色々な意味で危険だが、成功すれば敵に壊滅的な一撃を与えるはずだ。逆にやらねば駐留艦隊の次は我々が餌食になるだけだ。我々はこの作戦を実行せざるを得ない。全員、最善を尽くせ!」

「了解しました!」

 マクスロイ艦長を始め、クルーも返事をした。 
 そして、会議の指示を出して2分で準備完了となった。
 しかし、いくら自信たっぷりに話しても、上半身裸では締まらない。

「では、ホログラム会議を開始する!」

 ダレン大佐がボタンを押すと、衛星にいる全艦の先任指揮官達と繋がった。

 彼らはダレン大佐の姿を見て驚き、分隊指揮官の1人がついボヤいた

「大佐、その格好は・・・」

「君か。まあ、休息中でな。鍛えていたんだよ。急いで来たから服も着られなかったんだ。皆もそうだろう?そんな目で見るな!流石にこんな俺でもな、間違っても提督室に女を連れ込んでしっぽりなんて事はないぞ!」

 ダレン大佐は苦笑いしながらおちゃらけて言った。
 顔見知りの艦長がついボヤいた感じだった。
 数人の艦長とは顔見知りだし、中には士官学校の同期や先輩、後輩もいる。
 それもあり何人かが悪い笑みを浮かべていた。
 一部には受けたが、大半はこの人大丈夫か?となった。

「まあ、細かい事は気にするな。大佐である私が指揮を執る事に不満や不安を持つ者もいるだろう。だが聞け。我々は駐留艦隊の救援に向かわざるを得ない。作戦内容はこうだ・・・」

 ダレン大佐は旗艦クルーやマクスロイ艦長達へ話した作戦の概要を、各艦の艦長達に説明し始めた。

 その時、ミズリア少尉が着替えを持ってブリッジに入ってきた。

「大佐、着替えです」

 ミズリア少尉はダレン大佐に制服を渡し、黙って着替えを手伝う。

「ありがとう。少尉、君も座席についてくれ」

 ダレン大佐は制服に着替え終わるとそう告げた。

「え?私がですか?」

 ミズリア少尉は驚いた。

「そうだ。君は広報官だろう?この戦闘の記録や報告をするのは君の仕事だ」

「でも、私には戦闘経験がありませんし・・・」

 ミズリア少尉は言い訳をした。

「それでもいい。君は俺なんかと違い士官学校を次席で卒業したんだろう?基本的な戦闘知識や操作方法くらい知っているだろう?それに今の君はこの艦のクルーの一員だ。君の存在が他のクルーに勇気を与える事になるだろう。それに、君はこの戦闘の目撃者だ。君の目で見たことを正確に伝えることが、国民や将来の兵士にとって重要なことだ。私の副官としてアドバイスをくれ。君の才に期待する。優秀な所を見せてくれ!」

 ダレン大佐はミズリア少尉に、副官になるようにしれっと言ってのけると、耳元に頭の切れる参謀役がいないから助けてくれと呟いた。

そこは提督付きの参謀が座る席だが、本来乗り込む予定だった参謀は今はいない。
 ダレンは先程見たミズリア少尉の経歴から、副官兼参謀役に抜擢したのだ。
 本来は越権行為だが、非常時において提督にはその権利があり、今の大佐は一時的とは言え提督となっているし、その異常事態に相当する。
 勿論、駐留艦隊と合流すれば駐留艦隊を指揮する提督に指揮権を移譲しなければならない。

 ただ、指令書には指揮権を譲る相手は駐留艦隊の提督で、不測の事態等により提督が亡くなったり指揮権を失っていた場合、正式に指揮権を移譲された者へ直接、つまり相対して移譲することとされていた。

「分かりました。では、お仕えさせていた・・・コホン。これより副官の任に就かさせて頂きます」

 わざとやり取りを見せていた。
全艦の指揮官の参謀役が無能そうか否かを知らしめる為だ。
 調べれば士官学校の成績は艦長の持つ機密レベルなら見られるだろうから、聡い者であれば自分と違い頭の切れる者を手元に置いた事の意味を理解し、安心するだろうと。
 少しでも不安を払拭したかった。
 先程の漫才のようなやり取りも、取っ付き難い奴じゃないぞ!というアピールだ。

「よし。では、全艦に出撃を命じてくれ!」

 ダレン大佐の命令に対しミズリア少尉は敬礼をすると、次の瞬間声を張り上げた。

「了解しました。これより全艦発進!」

 副官としての最初の仕事として、復唱する形ではあるが全艦に対し、出撃命令を伝達した。
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