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第三章 事業発展編

第110話 魔力譲渡

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 東門には、スタンピードの本体が轟音を立てながら迫ってきた。ロイは騎士団の本体がどこにいるのかと唸りながら、魔石を抜き取る作業に没頭していた。

『何で指揮を採る者が来ない?魔石を抜き取りながらなんて厳しいんだぞ!騎士はいるが、なぜ師団長が来ない?』

 悪態をついていたが、その時、宮廷魔法師団の中でも土魔法を得意とする初老の男が到着した。

 彼は門の状況を見ると何も言わず、ただ手を振るう。
 すると厚さ1メートルの土の壁が東門を塞ぐように展開されていった。

 ロイは10秒間隔で最大射程から魔石を抜き取り、防壁の上にいる者は10秒するまである程度魔物を倒し、魔石を抜く時間が来ると手を止めて門に迫らせるのを繰り返した。

 そうして倒れた巨躯を踏み越えて次々と魔物が迫ってくる状況に対応していた。
 しかし防壁の上にいるエリナが声を上げた。

「ロイ様、魔物たちが階段状に積み重なっています。このままではいずれ防壁を乗り越えてしまうかもしれません!」

 どうしたものか思案する。そうなると門の外にソニアを行かせ、収納していくことになるが触れていないと無理なので躊躇する。

 そして魔力が切れかけていたロイの前に、1人の少女が現れた。 
 服装から魔法学園の生徒だと分かる。

「魔力譲渡のギフトを持っています。手を握るのであれば変換効率は1割のみ、口づけなら5割です。その、10割になる別の手段は今の状況では無理ですし、未婚ですから拒否させていただきます。それで貴方はどちらを選びますか?」

 ロイは一瞥すると、緊急を要する声で告げた。

「どちらでもよい。だが俺の魔力は切れる寸前だ。早くしろ!」

 金髪縦ロールの公爵家令嬢であるフィーネは困った顔をしたが、背後の魔道士に自身に触れるよう指示し、他の者たちがリング状に手を繋いだ。

「我が求めに応じ、清らかな乙女の力を・・・」

 呪文を唱えると、フィーネと背後の魔道士たち約20人が光り輝き始めた。  

 フィーネはロイに頷き、意を決して彼の顔を両手で挟むと自らの唇を重ねた。  フィーネの口からロイへと膨大な魔力が注ぎ込まれ、彼の体に染み込んでいった。

 魔導士が次々に倒れ、やがてフィーネに触れていた者も倒れた。
 彼女は触れている者、その者と触れている者から魔力を吸い取り、任意の者に魔力を譲渡できる。
 その触媒を担うギフトだった。

 口を離したフィーネも、肩で息をしていた。

「公爵家の子女のファーストキスですの」 
 
 顔を真赤にしてその様なことを言っているが、ロイには構う暇はない。

 ロイの体は再び魔力で満たされると立ち上がり、新たな力を得て魔石抜き取りを再開した。土の壁は堅固に門を守り、エリナの危惧していた魔物の階段が形成されつつも王都の防衛は続いた。

 フィーネの勇気ある行動は、王都を救うための重要な一歩となった。そして、ロイは彼女の力を借りて、スタンピードの本体に立ち向かう準備を整えた。勝利への希望が、再び王都の人々の心に灯されたのである。
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