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第一章 冒険者編

第33話 オーク襲来

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 森の中での戦いは、ロイ、ミランダ、そしてベリーズの3人にとって、運命を共にする試練となる。
 ミランダにしろベリーズにしろ駄目だ逃げろと言う暇すらなく、戦いになった。
 ロイは騎士道から、怪我を負った者を助けないと!との思いから体が動いたのだ。

 怪我人を連れていたビキニアーマーの少女がミランダ、殿を務めていた斧を持った大男がベリーズ。
 ロイの感じた歳の頃は、ミランダはロイと同じ、ベリーズは少し上だが、まだ20歳には満たない若者だ。

 3人はオークの群れに囲まれながらも、即席の仲間として立ち向かっていた。しかもロイはこの二人と初対面で面識すらなく、もちろん名前を知らない。

「おい、女の方!後ろだ!」 

 ロイが警告を発すべく叫んだが、まだミランダの名前を知らないのでそう告げるしかなかった。
 彼女ミランダは、ソニアとロイの中間ほどの背丈で、平均的な女性より握りこぶし一つ大きく、赤茶のショートカット。
 ロイと同じで15歳。顔立ちはキリッとしているが、やや童顔で、グラマラス。しかし、見た目とは裏腹に機敏な動き、目のやり場に困るビキニアーマー。
 俊敏さとしなやかさを武器に、盾とエストックにて突き刺すスタンス。言葉遣いは男勝りで少し荒いが、冒険者とはそういうものだ。

 ミランダは盾を構え、オークの一撃を受け止めたが、その膂力に少し押され、押し下がってしまう。
 ロイの一言で咄嗟に振り向いたので、何とか吹き飛ばされずに済んでいた。

「助かったぜ!、えっと・・・ロイ、だっけか?アタイはミランダ!」

 彼女は戦いながら名前を確認する。
 ソニアが去り際に口にしたのが名前らしき単語だったからだ。

 ロイとほとんど同じ身長の大男はベリーズ。18歳の若き戦士で、大斧を自在に操る力強い戦い方が特徴。

 彼は短い茶髪と、鋭い眼差しを持つがっしりとした体格の持ち主。装備は動きやすさを考慮した軽い革鎧と、敵を圧倒する大斧。ベリーズは、その豪快な性格とは裏腹に、仲間を思いやる心を持ち、戦いの中で常にチームワークを大切にする。体格に恵まれるも、戦闘向けのギフトを得られず、力任せに戦うスタイルを好むが融通はきく。

 ベリーズは大斧を振り回しながらオークを吹き飛ばしていくが、致命傷が入らない。
 偶々吹き飛ばされたオークが木に激突した時に、首の骨を折って絶命したのもあるが、唸りとともに立ち上がり再び駆けてくる。

 ロイの顔には、こいつらただのオークじゃないな?と焦りが見える。
 粗末ながら兜や額当てで頭部を守っているので、書物からの知識として、上位個体、確かオークウォーリーアーだ。
 攻撃力はオークと同じだが、防御力は下位の指揮官であるナイトと同格だ。
 残念だが一対一ではないためか、致命傷を与えられていない。

「男の方、斧を細かく振り、脚を狙うんだ!」 

「承知した。ベリーズだ!」

 ロイの掛け声にベリーズは叫びながら、力強く応える。

 ロイは剣を振るい、やはり脚を突き刺して動きを止める。
 体重を乗せた突きならば、戦闘系の加護による恩恵がないロイの力でも刃が立つ。
 オークたちとの間合いを計りながら、狙いを定めて手を触れる。

「抜き取り!」

 ロイの声と共に魔石が抜き取られ、それらのオークやオークウォーリアーたちは次々と倒れていく。

 ミランダは突然2体のオークが死んだのを見て、それがロイが何かしたのだと気が付く。だが、「何者?」と唸るも、眼の前のオークとの戦闘からそれ以上深く考える暇はなかった。
 囲まれないよう、逃げ回りながらちまちまと剣を突くしかなかったのだ。
 性格と戦い方が違うのもあり、ミランダは焦っていた。

 ロイの言葉に無理な攻撃を避け、ミランダは脚を突き刺し、ベリーズも脚を狙って斧を振るい動きを止める。
 動きを止めると、一度に相手をする数が減り、段々余裕が出てきた。しかし、既にかなりの体力が削られていた。
 ミランダにとってストレスのある戦い方だったが、ここに来てなるほどなと、この男見た目より知恵が回るのだなと、自分が苦手とする戦術面での指示に心の中で感謝する。

「ミランダ、ベリーズ、もう少しで終わる。耐えろ!脚を止めさえしたら僕がとどめを刺す!取り敢えず閃光玉を使う!気を付けろ!」

 ロイが彼らの名前を呼び、励ますように叫ぶ。そして懐から取り出したのは、万が一に備え取っておいた消耗品だ。
 五万リュピスと安くない消耗品だが、魔力を込めて衝撃を与えると三秒ほどまばゆい閃光を放つだけのアイテムだ。

 閃光を放ち、敵の視界を奪う。
 ただそれだけだが、足を引っかけ地面に転がすとすかさず魔石を抜き取る。数の不利はこれによりかなりましとなった。
 戦いの中で、彼らは互いの名前を覚え、絆を深めていく。

 移動しながら戦いは1時間以上に及び、彼らの体力は限界に達していた。だが、新たに築かれた信頼が彼らを支えていた。最後はベリーズの斧がオークウォーリアーの隙を突き、脚を掬って転がし、ロイの「抜き取り!」の声と共に戦いに決着がついた。

 戦いが終わり、彼らは互いに肩を組み、勝利を分かち合った。
 しかし、その安堵も束の間、地響きと共により強大なオークナイトが現れた。
 3人は再び戦闘態勢を整えるが、オークナイトの圧倒的な力に押され、歯が立たない。
 ロイもその剣の間合いを中々突破でずにいた。

 やがてミランダはベリーズと目配せをして一つの決断を下した。

「ロイ、逃げな! アタイたちが時間を稼ぐから!元々アンタはこの戦いに関係ないのだから、せめてアンタだけでも逃げてくれ!巻き込んで悪かったな!」 

 ミランダが必死の声で叫ぶ。 

「分かった。その気持ち受け止めるよ!」

 しかしロイは逃げる振りをして一度距離を置き、ゆっくりと気配を殺しながらオークナイトの背後に回り込む。
 オークナイトはロイ一人だけ仲間を見捨てて逃げたと思い、この二人との戦いを愉しんでいた。
 特に女がいることに悦びを感じていた。
 男は殺し、女は生かして捕らえて孕ませてやろうと、ベリーズへの攻撃の比率を増やしていた。

 

「抜き取り!」

 ロイの叫びが森に響き渡る。

 その一言で、魔石を抜き取られたオークナイトは崩れ落ち、今度こそ本当に戦いは終わった。
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