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第52話 重症

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 ミーニャ達は町中が騒がしい事に気が付き、ラルファが窓からメアリーを抱えて屋根に出て騒ぎの場所を確認していた。

 メアリーがギフトを使いその場所を見る為だった。必中を発動すると、双眼鏡で見ている位に遠くが見えるのだ。

 確認すると丁度衛兵と襲撃者が戦っていた。

「衛兵と何者かが戦っているわ。ラルファ、様子を見てきてくれないかしら?」

「承知した。下級の事ゆえこのまま参る。では」

 ラルファが軽やかに屋根伝いに飛び跳ねていた。制服とはいえ、剣だけは持っていた。なのでパンツ見えないかな?とメアリーは心配していた。
 心配すべきはそこじゃないのだが・・・

 ライは建物の形が辛うじて分かる位の高さにまで上がっており、全く制御できていなかった。

 血がドピュッ!ドピュッ!と出ており、外にいた者は赤い何かが降ってきて悲鳴を上げた。手で拭うと血の臭いがしたからパニックになったのだ。この日は後にブラッドレインディと呼ばれた。

 ライは落下を始めていた。
 意識が遠のいてきてこのまま気絶すると流石に不味いなと思い、メアリーやミーニャ達の所にいかなきゃと、皆の顔が走馬灯のように見えてきた。

 そして間もなく意識を手放した。

 ライはくるくると直径300mほどの螺旋を描く感じで飛びながら高度を下げていた。やがてひとつの建物の窓に向かっていった。

 メアリーは部屋に戻り報告をした。

「衛兵が何かと戦っているわ。取り敢えずラルファに様子を見に行って貰ったわ」

「メアリー、ありがとう。どの方面かしら?」

「商店が立ち並ぶ辺りよ」

「ライは買い物をするって言ってたけど大丈夫かしら?」

「ははは、殺しても死なん奴だろ?心配しなくてもライなら大丈夫さ」

「クラウディアさん?殺したらもう死んでますわよ。殺そうとしても死なないですわね?」

「確かにそうだな?ってなんだあれ?」

 すると窓をぶち破り何かが突っ込んできた。クラウディアは咄嗟に窓際にいたユリカを抱えて飛び退いた。

 凄まじい音と共に部屋が半壊した。
 大量の埃が舞ったが、程なくしてメアリーが風魔法で埃を外に出した。

「何事だ?」

 クラウディアが部屋を見渡すと、学園の制服を着た何者かが壁にめり込んでいて、下半身が見えていた。

 クラウディアは悪態をつきつつ引っ張り出した。

 勢い余って尻餅をついたが、それを見たミーニャが悲鳴を上げた。

「いやー!ライ!」

 慌てて皆でライの体を見ると矢が刺さっており、反応が無い。それに何より顔が真っ青な事に口を押さえ泣きそうになった。必死に呼びかけるも返事がない上に息をしていないと分かった。遂にミーニャは取り乱しイヤーと叫んだ。

 しかし冷静に動いたのはパトリシアだ。

 ミーニャの頬をひっぱたいたのだ。

「落ち着きなさい。いいですか?今から私の言う通りに動くのです。後で説明しますが、 ライ様に教えて頂いた事を実行します」

 パトリシアが仕切りだしたが、その気迫に皆頷いた。

「まずは矢を抜きなさい。ユリカ、貴女はポーションを出し、回復魔法を掛けなさい。ミーニャはポーションを飲ませるのです。それとメアリー、貴女は指示をしたらライ様の胸に小さな雷魔法を放つのです。いいですか?くれぐれも弱いものですよ。詳しくは後で話しますが、こういう時の蘇生方法をライ様から教えてもらっています。皆私の言う事を今は黙って聞きなさい!」

 普段は誰に対しても遠慮気味で、ライの婚約者の中の末席でいい、そういう感じの遠慮の仕方をしていたが、この時は違った。真剣そのもので、その気迫に気圧されていた。

「いいですかミーニャ。私が交代と言ったら私と交代して後に続きなさい。私が疲れて心臓マッサージが出来なくなったら貴女が交代するのです。見様見真似で同じようにするのです!それとクラウディア、屋敷の周りの警戒をお願いします。私達はライ様の治療以外出来なくなり、何かあった場合は貴女が頼りです。怪しい者は躊躇わずに斬りなさい」

 分かったと言って慌ててクラウディアは外に出て行った。

 ユリカがヒールを掛け始め、パトリシアがミーニャに見ていなさいと言って心臓マッサージを始めた。

 パトリシアは30回位胸を押した後、いきなりライに口づけをしたのでミーニャは驚いた。

「な、な、こんな時に何をしているのですか!?」

 パトリシアはお構いなしに膨らませていた口をライの口に当てたかと思うと、息を吹き込んでいた。そしてまた心臓マッサージに戻った。

「これはキスではありません。こうやって息を送り込むのです。それとミーニャ、何をしているのですか?早くポーションを飲ませなさい」

「で、でも口に瓶を当てても飲まないのよ!」
 
「貴女もライの女でしょ?飲めないなら口移しでも何でもいいから飲ませなさい。出来ないならクラウディアと変わりなさい」

「う、うん分ったわ」  

 そう言ってミーニャは真っ赤になりながらもポーションを口に含み、ライに口づけをしようとした。だが、真っ赤になり恥ずかしさから躊躇っていた。

「何をしているのですか?早くなさい」

 そう言い、ミーニャの頭を無理矢理ライの顔に押し付けた。

「恥ずかしがっている場合ですか!ライ様の命が掛かっているのですよ!」

 はっとなったミーニャはライの口に口移しでポーションを押し込み、喉の先に流し込んでいた。その後パトリシアの指示で息を吹き込んでいたが復活しない。それでもパトリシアは諦めなかった。3分程行っただろうか、パトリシアはミーニャに告げた。

「ミーニャ、変わりなさい」

 ミーニャはハイと言いながら、パトリシアと入れ替わった。

「私がしていた通りにしなさい」

 ミーニャは見様見真似で同じようにした。パトリシアから息を吹き込みなさいと言われると息を吹き込んだ。真っ赤になっていたが、そうも言っていられない。3セット程でミーニャの腕も悲鳴をあげた。

「パトリシア、私、もう腕が限界です。交代して下さい」

 ユリカにはそれができなかった。必死にヒールを掛け続け、既にふらふらな状態にまでなっていたが、この中で唯一快復魔法が使えるのはユリカだけだ。傷はある程度塞がってきたが、まだ完全ではない。パトリシアはメアリーに次は貴女ですと言い、メアリーも恥ずかしがっていたが、それでも必要な事だと分かり、ぎこちなくだが心臓マッサージを始めていった。
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