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第34話  救助

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 パトリシアは少し考えてからライに伝えた。

「ライ様であればダンジョンのどこへなりとも行く事ができる筈てすわ。ユリカ様、メアリー様には無理ですが、私であればダンジョンのコアの一部とみなされ、入る事ができるかと思います。但しライ様との同行が必須ではあります。それとライ様も私も攻撃はできません。逆にダンジョン内の魔物も私達を攻撃できません。仮に当たってもダメージがない筈です。ですので今入っている子達の変わりにボスを倒す事はできません。私達が出来るのは精々ボスの攻撃を受け止め、あの子達が回復するまでの時間を作ってあげる事位かと思います。但し今回限定になる筈です。一度これを行いますとダンジョンの自動修正機能が働き、今後ボス部屋にはボス戦が行われている最中は入れなくなり、入れる様に変更する事も不可になります。宜しくて?」

 ライは唸った。それしか無いと。ただ、パトリシアはあまり感心しない行為だと言っていた。

 ライはパトリシアの手を強引に引いた。すると半ば抱き寄せる形になり、パトリシアは真っ赤になりくねくねした。

「どうやればいいか教えてくれ!今から助けに行く!彼の話からすると、ミーニャ達が全滅するのは時間の問題だと思う。あの二人と言っていたのは脳筋カップルの事だろう?気絶したと言っていたので離脱ができないんだろうさ。ミーニャはあの恋人達を見捨てて自分だけとっとと離脱するなんて事はできないだろう。見栄っ張りめ!」
    
 パトリシアはライに伝えた。

「今から私の指示通りにし、目的地に着くまでは決して手を離さないでくださいまし。これが終わりましたらその、少しは私の事も構ってくださいませ。ライ様は意地悪です。私も乙女なのですよ。では時間が無いので今から指示します。どこに行きたいのか念じ、私かライ様のどちらかの体の一部がダンジョンのどこでも良いので触れていればいいので、今回は私が触れます。くどいようですが、私の手を必ず優しく女の子の柔肌を意識しながら握っていてくださいませ。貴婦人への挨拶をしてくれても構いませんわ」

 ライは可哀想な子を見る目でパトリシアを見たが、少しはご褒美を上げないとむくれるのかなと、その手をそっと取り、片膝をついて手の甲にキスをした。

「パトリシアさん、僕にその力を貸してください!」

 パトリシアはハイ!と嬉しそうに返事をし、では参りましょう!とダンジョン入り口にあるドアに手を触れた。ライは言われた通りに5階層のボス部屋と念じたが、するっとダンジョン内に消えていった。モーリーは違うんですと言ったが、ライには聞こえなかった。

 二人はボス部屋の中心部、天井と床の丁度真ん中喰らいに出現した。

 そこから落下したのだが、丁度そこには蹲っているミーニャがおり、まさに今サイクロプスが振り上げた巨大な棍棒に吹き飛ばされる直前だった。

 ライはサイクロプスとミーニャの間に着地した途端にサイクロプスの棍棒を受け止めた。ガキーンという音こそしたが、僅かな衝撃しか伝わってこなかった。パトリシアが言っていた通りで、このダンジョン内にいる魔物はライに傷を付ける事ができない。即時反撃したが、剣がサイクロプスに当たるもまるでサンドバッグを殴ったかの如くであり、かすり傷一つ付けられなかった。

 パトリシアは脳筋カップルの方に行き、万が一サイクロプスが来た時に二人を守れるようにしていた。ライはミーニャの肩を掴んだ。

「大丈夫ですか?」

 ミーニャは涙を浮かべていた。直ぐには動けそうになかったので片腕で無理やりお姫様抱っこした。慌てたミーニャはその首にしがみついたが、ライはお構いなしにそのままラルファの所に行った。そこで手持ちのポーションを渡し、二人を回復させていく。予測してはいたが、魔法は効かなかった。ポーションをライが直接飲ませても効果はなかった。だが床に置いたポーションをミーニャが拾い、それをラルファに飲ませると効果があった。ダンジョンはライが直接する行為は無効なのだが、アイテムを投棄した後でそれを拾った者の物と見なされたようだ。こんな状況だがライは色々試していた。ポーションを手渡しした物は飲んでも効果が無かった。ライは成程と頷いた。

「ラ、ライ様!一体これはどういう事でしょうか?何故ライ様が今ここに?」

「遅くなっちゃったね。うんそうなんだ、僕はどうやらダンジョンに干渉出来るようなんだ。だけれども今回一度きりだとパトリシアが言っていた。干渉できると言っても攻撃ができないんだ。こうやって攻撃を防ぎ、回復する時間を稼ぐ事しかできない」

 ミーニャは少し考えた。

「ありがとうございます。おかげで九死に一生を得ました。あの攻撃を食らえば私は確実に死んでいたと思います。死んでも生き返るのでしょうが、年老いてしまいます。女としては死と同意語ですから。それとあの二人は地上に出られたのですか?」

「詳しくは後で。二人は地上にいるよ。一人は青年になっちゃったけど、女の子は若いままだよ」

 サイクロプスは攻撃できなかった。攻撃しても無効になる相手がいるという事が分かり、その場で立ち尽くしていた。いずれ奴も離れるだろうからと、機会を伺っており、睨んではいたがじっとしていた。

 ライには直接的にどうする事もできない。このままで行けばジリ貧なのだ。しばらくすると意識が朦朧としていたラルファが目覚めた。

「どうしてライ殿がここに?そうか、私は死んで年老いて地上に出たと言う事なのだな?年上では駄目だろうか?」

「大丈夫だから。君は若く綺麗なままだよ。死ぬ直前だったけど、間に合ったよ。僕はダンジョンのどこにでも行けるらしい。ただし干渉ができるのは攻撃を防ぐ事だけで攻撃はできないんだ」

 ライは少し考えてから己の獲物の魔剣を鞘から抜いた。それを一度床に置き、ミーニャの手に握らせた。

 魔力量からラルファではダメだと判断したのだ。ライは剣  に語りかけた。

「すまないけど一時的にここにいるミーニャに君を貸し与える。力を貸してあげて欲しい」

「分かったのじゃ。ご主殿、彼の者を倒すまでの間でよいのじゃな?」

「話が早くて助かるよ。申し訳ないが彼女の力になってあげてくれないかな?」

「承知したのじゃ。じゃがこの後は我を抱き抱えてお休みになっていただきたいのじゃ。それが条件じゃ」

 ライは分かったと一言答えた。何故それが必要なのか、どういう訳があるのかは聞かなかった。おそらく他の者が力を行使すると何かしらのダメージを負ってしまい、それを回復するのに一昼夜抱きかかえないといけないのだろうと判断した。単に御主人様に抱かれて過ごしたかった乙女心だ。剣には女性の魂が宿っているのを分かっているのに、乙女心がイマイチ分からないあんぽんたんだった。

 ミーニャは驚いていた。それはこのような禍々しい剣がある事にだ。確かにライ達が地上に出た時に変わった剣を持っているなとは思ったが、触れるまではそうだとは分からなかった。

「いいですか?ミーニャさんがこの剣に魔力を込め、この剣に語りかけるんだ。奴を倒す力を貸してくれと。そして魔力を込めたこの剣を一振りすれば奴を倒す事ができる筈だよ。ズルになるかもだけど、とっとと倒して地上に戻ろうよ!」    

 ミーニャはうんと頷いた。

「あの二人も目覚めたようだし、さあミーニャ、あいつを吹き飛ばすんだ。」

 そう言っていると丁度パトリシアが二人を連れてきた。ミーニャは驚いた。この細く特徴的な剣が非力な自分でも軽々と振れる事に。これは業物である。ラルファが模造品を貰っており、それすら業物だとはわかっていた。たが、模造品にはない魂を感じた。凄いものだと一目で分かった。そしてパトリシアはライに聞いた。   

「剣を貸し与えるのですね。よくあの子がうんと言いましたね」

 ライはあれ?と思った。あの子?とパトリシアが言ったからだ。いつの間にパトリシアは剣と話したのか?だ。場違いな疑問がふと浮かんでいたが、ミーニャがクイクイとライの服を引っ張ったのでミーニャを見ると頷いた。

「ライ様の愛剣をお借りします。では行きますわ」 
 
 そして次にライに言われた通りに発した。
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